突如襲ってきた、

3体のシャドーとの戦闘になった敬介と矢島。

赤い月の影響で、

力が増しているシャドー3体を矢島が相手するなか、

そのうちの1体が敬介を襲ってきた。

敬介はとっさに、

自己防衛を発動させ、

その攻撃をかわすことに成功する。

相手の動きをよく観ることで、

パンチを受け止めることにも成功するのだが、

一手先を読まれ腕を掴まれてしまう。

しかし、

そのピンチを腕ではなく、

蹴りで攻撃をしかけることで切り抜けた。

そして、

敬介と矢島は、

美咲の待つ秋野実神社にたどり着く。



石段に座っていた美咲は、

頬を膨らませながら二人へと近づいていった。

もう!
二人とも連絡くらいくれてもいいでしょ。
私すっごく寒かったんだから!

体をさすりながら寒そうにしている美咲に、

二人は少し笑ってしまった。

ごめんね、美咲ちゃん。
実はシャドーと戦ってたんだ。

矢島がそういうと、

美咲はさすっていた手を止めた。

そうなんだ、天野さん。
寒い中待たせちゃってごめん。

大丈夫だったの?
……って、
大丈夫だからここにいるんだよね。

そして、

矢島はさっそく今日の本題に入る。

それで、
これから修行をする予定だったと思うけど、
次は上級の修行に移ることになった。

え?
中級の修行は?

敬介が中級合格をもらえたことを知らない美咲は、

当然のことながら驚いた。

実はさっきの戦いで、
自己防衛の切り替えができていたんだ。
それだけじゃなく、
機転を利かせて1発蹴りも入れてたからね。
驚いたよ。

すごーい!!

矢島がそう説明すると美咲は拍手をして喜ぶ。

敬介はというと、

美咲から目線をそらして照れている。

たまたまですよ。

内心は嬉しくてしょうがないのだ。

ということもあって、
上級の修行に入るんだよ。
修行というよりは試験?
みたいなものだけどね。

いよいよですね。

矢島と美咲の二人が顔を見合わせ頷くと、

敬介を見る。



さっきまでのなごやかな雰囲気がなくなり、

真剣な空気になった。

急な変り方に、

敬介も思わず生唾を飲み込んでしまう。

もしかして、
これも命懸けの修行ってやつで、
難易度が高いとか……。

ある意味ね……。
でも、これは敬介君自身が
"形"にしないといけないんだ。

"形"ですか?

いまいち飲み込みがよくない敬介に、

矢島は"光弓"を出した。

それに続き、

美咲も自身の光術である"天之翼"を出す。

形山君、これのことだよ。

そういって美咲は背中の翼を敬介に向ける。

君自身の光術の完成。
それが上級の修行なんだ。
ようやく、ここまで来たね。

矢島も自身の期待以上に敬介が修行をこなし、

成長していくため嬉しさが自然と表情に出ていた。

どんな形でもいいんだよ。
自分にとって、
一番思いを込めれる形にすればいいの。

美咲は胸の前でパチンと両手を合わせ、

翼を動かす。

よしっ!!

軽く下を向き、

一人頷く敬介は深呼吸をして構え始めた。

直立状態から足を肩幅くらいに開き、

右足を2歩分後ろへと下げる。

ふぅ…………。

さらに、

目を閉じ大きな深呼吸をして全身を光で包み始める。

その光は少しずつ弱くなっていくのだが、

後ろへと下げた右足からは光は消えない。

むしろ、

その輝きは最初よりも増しているようであった。

矢島と美咲はその様子を真剣に観ている。

光はさらに小さくなっていき、

右足首から下だけが光っている。

目を開けた敬介は、

その状態のまま辺りを見回す。

境内の中にある岩を発見し、

そこへと近づく。

光は変らずに右足に纏われている。

岩の前で静止した敬介は、

右足を岩に向かって繰り出した。

大きな声で叫び、

右足が当たった岩には、

サッカーボールくらいの大きさの、

クレーターが出来ていた。

その衝撃で土煙が舞い、

砕けた岩がパラパラと地面に落ちる。

まさか……。

矢島は思った。

形山敬介、

この子はとんでもない逸材だ。

普通の修行でも、

こんなに早く上級の修行に到達することはない。

超初級という風には呼んでいるが、

たいていはこの段階で、

光力を授ける光玉(こうぎょく)の力を受け入れられずに、

光術士になることを諦めてしまう。

たった3日でたどり着いてしまうなんて。

経験はまったくないが、

確実に実践や修行の中で成長していってる。

もっとこの子が強くなれば、

カラウさん……。

いや光術士の本来の目的が達成されるだろう。

希望が見えてきた。

それも束の間、

美咲は敬介に駆け寄った。

ねぇ。
いつの間にできるようになったの?

砕かれた岩を見て、

何度も目をこすり美咲は言った。

いや、
いきなりできるとは思わなかったんだけど……。
イメージしてみたんだ。
右足に全ての力を集中させて、
その力を爆発させる。
そんな感じ。
そしたら上手くいっちゃって。

3人がそれぞれの感情を抱く中、

あの男も現れる。

おー。
なんとか修行は終わったみたいだな。
矢島ご苦労だった。

いつの間に拝殿の方から現れたのはカラウだった。

カラウさん。
僕は特に何も出来なかったですよ。

矢島は深々とカラウに対しおじぎをする。

カラウの目の前まで行き、

大振りでジェスチャーし始める美咲。

カラウ先生!!
形山君がね、すごいんだよ!!

なかなか落ち着かない美咲に、

かるーいチョップを食らわせるカラウ。

落ち着けっ。

頭を押さえ、

痛いよーと言ってる美咲の頭を、

矢島が苦笑いでなでている。

それからカラウは視線を敬介に移した。

敬介もそのカラウの目を見る。

よくやったな。
敬介。

おう。

お、あ、え?
今、名前を……。

今まで、

名前を呼んできたことのなかったカラウが、

敬介のことを名前で呼んだ。

なんか気持ち悪いのだが、嬉しさもある。

カラウ自身も、

照れくさそうに一瞬鼻で笑ったのだが、

少しは認められたのだろうか。

敬介。
お前は今日から正式な光術士だ。
そして、矢島は知っているが、
敬介と美咲、
これからお前たちに光術士の真の目的を話す。

第1章-力の目覚め編-(26話)-赤月の日⑤-

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