中級の修行を開始するはずが、
シャドーを感知した矢島と美咲。
中級の修行を開始するはずが、
シャドーを感知した矢島と美咲。
まだ、
その存在を感知できない敬介は駆け出した二人を追い、
シャドーの姿を探していた。
今、
3人が走っているのは、
秋野実神社からそう遠くない住宅街。
辺りの様子をうかがうのに走るのを止めて、
歩き始めた。
俺が襲われた時もこんな感じの夜だったな。
一番後ろを歩く敬介がポツリという。
……。
……。
前を歩く矢島と美咲は軽く振り返り、
敬介の顔を見てからお互いの顔を見合わせた。
そして、先に口を開いたのは矢島だった。
敬介君。
君は成長しているよ。
大丈夫。
誰でも、
最初に味わった恐怖に押しつぶされそうになるもの。
けれど、
そのままでは前には進めない。
そういった辛さと戦いながら、
人は成長するものなのだから。
うん、大丈夫。
光一さんがいるから……。
それに私もね。
美咲も後に続き、フォローする。
ありがとう。
ただ、ちょっと思い出したんだ。
あの恐怖があったからこそ、
平凡な日常を送るだけじゃなく、
誰かを守れるんだって。
そういう意味ではよかったのかもしれない。
ネガティブになっているわけではなく、
少しだけ浸っていただけなのかもしれない。
それを察した矢島と美咲は頷くだけで何も言わなかった。
それから少し裏道に入ったところで、
矢島が後ろを歩く美咲と敬介を右手で制止する。
このすぐ先にいるようだ。
美咲ちゃんは敬介君を守ってあげてくれ。
僕が仕留める。
うん。
矢島は指示を出し、
美咲が敬介に安心させようと微笑む。
自分から望んだことだが、
敬介は緊張で生唾を飲み込んだ。
きたな……。
そして、
矢島は再び敵のいる方向へ歩き出した。
戦闘態勢に入ったのだろう。
矢島の顔つきがいつもと変り、
爽やかさが完全に消えていた。
美咲と敬介も歩き出す。
矢島は、
だらりとさせている左腕に力を込め、
握り拳を作った。
その握り拳から人差し指と中指を出した。
指同士はピタリとついている。
そして、
その拳を中心に敬介でも分かるほどの光が集まりだす。
敬介は目の前の光景に何も言葉が出ず、
ただ見つめている。
集まった光は拳の両サイドから伸び始め、
徐々に形を変えていった。
あれは?
……ゆ、み?
どこかで見たことのあるその光は、
弓の形へと変化した。
そう。
あれは光一さんの光術、
"光弓(こうきゅう)"。
美咲が能力を説明した直後。
矢島は左腕にできた光の弓を縦に構え、
右手親指と人差し指、
中指でその弓の弦を引くような動作をする。
狙いをつけているのだろうか、
1,2秒の間の後に右手の指を開いた。
その弓から放たれた光の塊は、
即座に矢へと形を変える。
勢いよく飛ぶその矢は、
前方100m程先の電柱に突き刺さった。
はずしたのだろうか、
そう思い敬介が口を開こうとすると、
矢が刺さっているところが黒く変わりだし消滅した。
それは以前、
敬介を襲ったシャドーと同じ姿だった。
さらに、
そいつの頭には矢が突き刺さっている。
そう思ってすぐにそいつは消滅した。
感激して美咲から離れた敬介は矢島に近づいていく。
矢島さん。
やっぱり光術ってすご……。
その言葉を完全に認識する間もなく、
振り返った矢島が叫んだ。
敬介君!!
よけろっ!!!!
その言葉で振り返ると、
シャドーがすぐ後ろに来ていて、
敬介を狙っていたのだ。
ググ……。
あっ!!
せっかく修行でできるようになった自己防衛も、
とっさに使えなければ意味がない。
今度は以前と違い、
何も考える間もなく終わりを迎えようとしていた。
天羽(あまばね)!!
目を閉じる前に、美咲の声が聞こえた。
その直後にシャドーは消え去り、
光の羽がひらひらと舞い落ちた。
ギリギリセーフ、だね。
Vサインで微笑む美咲。
敬介はキョトンとした顔で、
美咲と後ろにいる矢島の顔を見た。