手のひらで球を浮かせるという修行をしていた敬介。

コツが掴めぬまま苦労していたが、

前川との会話をきっかけに球を浮かせることに成功した。

そして、放課後。

先生と会うことになっていたため、

美咲と共に秋野実神社を訪れていた。

心配して見守る美咲とは裏腹に、

男だけはニヤついている。

やってみろということで、

さっそく、敬介は球を浮かせて見せた。

慣れが出てきたのか、

最初にできた時よりもさらに5cmアップで、

10cmも浮いていた。

ほぉー。
超初級とはいえ投げ出さずによくやったな。

形山君、やったね!

今まで褒めたことのない男が敬介を褒めた。

美咲にいたっては飛び跳ねて喜んでいる。

…………。

まんざらでもないのか、

笑みを浮かべながら頭をかいている。

おいっ!
喜ぶのはまだ早い。

喜びも束の間、

男によってすぐにその雰囲気は壊された。

お前はまだ球を浮かせるようになっただけ。
そんなんじゃシャドーは倒せん。

たしかに、そうだ。

男の言うとおり今は球を浮かせるようになっただけ。

そしたら次はどんな修行をすれば?
何か技でも?

気が早すぎるのだろうか、

すぐにでも戦う術を見に付けたい。

技なわけねぇだろ。
まずは自己防衛の仕方からだ。

は?
自己防衛?

そんなことをやっていたら光術士になるまでに、

いったいどのくらいかかるのだろう。

自分を守りたいのではなく、誰かを守りたい。

それが、敬介が光術士を目指し始めた理由だ。

もたもたしている暇はない。

こうしている間に、

どこかで罪のない人々が、

シャドーに襲われているかもしれない。

じゃあ、どういう修行をすれば?

体を光力(こうりょく)で包み、防御する。
これが初級の修行だ。
まぁ、己の身は己で守れってこった。

新たな修行。

確実に先へは進んでいるのだが、

心の中ではどうしてもあせってしまう。

光力ってのは何なんだ?

男がゆっくりと口を開こうとした時に、

黙ってみていた美咲が先に喋りだした。

あのね。
光力っていうのは、
形山君が球を浮かせる時に使ったもので、
光術士が使う力の源のこと。
その力を応用して色々なことに使うんだよ。

敬介が球を浮かせる時にした動作を真似ながら、

大きく身振り手振りを加えて説明した。

それを男はうなずきながら聞いている。

もちろん敬介もなのだが。

まぁ、とにかくやってみろや。
先に言っとくがコツは自分で探せ。

今度ばかりはすぐにはいなくならず、

男は拝殿前の石段に腰掛けた。

形山君、頑張って!!

ありがとう、天野さん。

集中だ、集中!!

心にそう言い聞かせ、

手を広げ大きく深呼吸する。

球を浮かせた時のことを思い出し、

膜のようなもので体を包み込むことをイメージするんだ。

イメージ!
イメージ!!
イメージ!!!

これが大事だ。

いきなりじゃなくていい。

体の内側から、


少しずつ体のあちこちに伸ばしていくように。

疑わずに自分を信じる。

すると、

石段に座っていた男が敬介に歩み寄る。

…………。

ん?

男は落ちていた石ころをいくつか拾い上げ、

その石ころを敬介に向かって投げ出した。

なっ!?

コツンッ!!

明らかに敬介の頭に命中した。

当たる瞬間、

目をつぶっていた敬介は見ていなかったが、

男と美咲は見ていた。

ほぉー。

形山君……。

美咲が驚いた表情で小さく呟く。

そろそろ石が当たってもいい頃なのだが……。

敬介自身はそう感じていた。

しかし、目を開けると真下には石ころが落ちている。

あれ?
はずしたのか?

いや、間違いなく当てたぞ。
頭にな。

当たってないと思っていたが、

石ころが当たったことを知り驚いた。

痛みは感じなかったぞ!
それよりも修行の邪魔すんなよ!
気が散んだろ!!

真面目に修行しているのに石なんか投げやがって

と思ったのだが、

言ったところで意味ないだろうからやめた。

形山君、何言ってるの?
もうできてるよ。

さらに、

美咲までからかっているのだろうかと、

ちょっと残念な気持ちになる。

は?!

これで初級の修行は終了だ。
かなり早かったな。

いまだにこの二人が何を言っているのかわからない。

どういうことだよ?
二人ともふざけるのはやめろって!!

あまりにもしつこいと思い、

大きい声を出してしまった。

ふざけてなんかないよ。
形山君!本当にできてるの。
まだ見えてないだろうけど、
体を光力で包み込めてるよ。

美咲にそう言われ、

体をよく見てみるが特には変化がない。

じゃあ、
さっきの石ころが痛くなかったのは?

多少の疑いはあるものの顔がニヤけてしまう。

その通り。
どうだ、凄いだろ光術ってのは。
じゃあ、次の修行に入る前に……。
おい!出て来い矢島。

誰か来るのか?

その呼び声から数秒で、

拝殿の裏のほうから一人の男が現れた。

あっ!

美咲が先にその男に反応した。

もしかすると知り合いなのだろうか。

背はスラっと高く、顔もかなりのイケメン。

なんだこの美男子は。

はじめまして。
矢島光一(やじま こういち)です。
よろしく。

そう名乗り、敬介に握手を求めてきた。

第1章-力の目覚め編-(16話)-自己防衛-

facebook twitter
pagetop