……であるから、
この答えが導き出される。

今は茜桜高校2年3組での数学の授業。

数学の先生はこのクラスの担任。

このクラスの敬介は

窓側の前から3番目の席で同じく授業を受けていた。

そして、昨日の休日のことを思い出していた。

同級生の天野美咲から、

自分を襲ったシャドーのことや光術士のことを知り、

先生と呼ばれる男に

光術の修行をつけてもらえるようになったこと。

光術士の修行を受けることで、

新たなる世界に飛び込むことになり、

敬介はその修行の超初級段階に挑んでいた。

先生から出された課題は、

『手のひらで球を浮かせること』である。

よしっ!
やってみるか……

小さい声で呟き、

制服のポケットに手を入れ、

受け取った球を取り出した。

その球を左手のひらに乗せ、

目をつぶり集中した。

浮かせることだけ考えろ!!
他には何も考えるな。

そう心に言い聞かせ、

2分程続けた。

そろそろ、浮いたか?

声に出し、そっと目を開ける。

…………。

うわっ!!

そこには、

敬介の顔を覗き込む担任の姿があった。

いったい、何が浮いてるんだ?
むしろ今浮いてるのは形山、君だよ。

数学の教師がそういうと、

注目していたクラスメイト達が爆笑した。

実は、

敬介が目をつぶり始めてから教師に当てられたのだが、

反応がなかったため今に至るというわけなのだ。

…………。

顔を赤くした敬介は球をしまい窓のほうを向いた。

そして、授業も終わり。

さっきは何やってたんだよ。

授業が終わると、すぐさま前川が敬介に尋ねた。

別に何でもねぇけどさ……。
なぁ、前川。
もし、
この球を手のひらの上で浮かしてみろ
って言われたらどうする?

少し考えながら、前川に聞いてみる。

はぁ?
そんなの無理に決まってるだろ。

即答だった。

ふふっ、だよな。

自分でおかしな質問をしてしまい、

つい笑ってしまった。

でも、あれだな。
超能力とかあればいけるかもな。

前川が冗談なのか真剣なのかわからないが、

そんなバカな話あるかと思ってしまう。

しかし、

これを否定しまうということは、

美咲の言うことや光術士そのものを、

全否定することになるのではないかとも思った。

じゃあ、
例えば超能力を持ってるやつがいたとして、
どういう感じで浮かすんだろうな。

普段ならこんな話はしないのだが、

なんとなく聞いてみる。

そうだなぁ……あれじゃないか。
霊的な何かに持ち上げてもらってるとか、
風を操っているとか、
手のひらと球の間に自分のパワーみたいな壁を作って持ち上げてるとか……

色々と出てくるのだが、

なかなか分からない。

ようは、
超能力者なんていないってことなのか。

夢がないなぁ、形山は。
小学生の時はよくこんな話したじゃん。

アニメや漫画の影響もあるのだが、

敬介は小学生の時に前川とよくこんな話をしていた。

どうやったら火を操れるのかとか、

空を飛べるようになるのかとか。

この頃から色々考えたり調べたりしないと、

気がすまない性格だったのだが、

中学校に入学すると、

現実的なこと以外でのそういった探究心は、

ついこないだまではなかった。

自分はだんだんと夢がなくなり、

大人に近づいてるのかと少しだけ寂しくなった。

まぁ、そうだったな。

窓の外に視線をやると、

次の授業開始を知らせるチャイムが鳴った。

4限までの授業は終わり、昼休みに。

普段なら前川と昼ごはんを食べるのだが、

クラスの仕事で職員室に行っていた。

一人教室で食べるのもなんなので、

学校の中庭で食べることにした。

ここで食べるのは久々だな。

入学してからのここでの食事は、

物珍しさから訪れた2、3回くらい。

購買部で買ったコロッケパンを取り出す。

すると、

一緒にポケットにいれていた修行用の球が

地面に落ちた。

それを見た瞬間、

前川との会話が思い出された。

じゃあ、
例えば超能力を持ってるやつがいたとして、
どういう感じで浮かすんだろうな。

そうだなぁ……あれじゃないか。
霊的な何かに持ち上げてもらってるとか、
風を操っているとか、
手のひらと球の間に自分のパワーみたいな
壁を作って持ち上げてるとか……

前川が自分の問いに対して、

いくつか挙げてきた答えを再び考えてみた。

霊的なやつなんて上級すぎるし、
風を操るなんてよけいに無理だろうし、
手のひらと球の間にパワーみたいなもので壁を作るって……。
いや、でも、
熱気というかそんな身体の現象が作用したら、
ちょっとくらい浮いたりしないのかな。
身体の現象なんてよく知らないけど……。

集中しすぎて、

独り言を喋ってしまっているのだが、

周りにいる生徒達も、

それぞれグループで会話をしているため、

一人浮いているという感じではない。

封を開けようとしていたコロッケパンを傍らに置き、

落ちた球を拾い上げた。

もう一度やってみるか。

そして、

数学の授業中と同じように左手のひらに球を乗せた。

さらに右手で左手首を掴み、集中した。

先程は何も考えないように集中しようとしたのだが、


今度はどうやったら浮くのか、


絶対に浮かせてみせる等と気持ちを熱くした。

というより、


知りたい、成功させたい


という気持ちが自然とそうさせたのかもしれない。

周りの生徒達の騒ぎ声、


鳥の声、


風の音、


全てが聞こえないくらいの集中力が左手に集中した。

手のひらがじわじわと熱くなってくる。

そんな気がしてきた。

光ってる?
……でき、た。

敬介の左手のひらに乗った球は、

光り輝きながら、

5cm程浮いていた。

まさか、前川との話がヒントになるとは。

秋野実神社にあった石碑の言葉、


その意味が少し分かったような気がしていた。

『光は影 影は光 どちらにもなりうる 
 己だけがその道を選択し 我が物とする
   その源は 探究心 それが力となる』

第1章-力の目覚め編-(15話)-前川との会話-

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