才能が無いだなんて。
ちょっと見たくらいで判断しやがって。

そんな風に思い、敬介は秋野実神社を出ていった。

来たときに通ってきた所をそのまま歩いていると、

後ろから美咲が追いかけてきた。

かたやまくーん!!

敬介はその声で振り返る。

天野さん……。

怒りが消え、

どこか寂しそうな顔をしている敬介の表情を見て、

美咲は罪悪感に駆られた。

本当にごめんね。
普段はおちゃらけた人なんだけど、
あんなひどいこと言うなんて、
私も思わなかったから。

天野さんが気にすることじゃないよ。
ただ、なんか一区切りついたような……。
そんな気がするんだ。
シャドーに襲われて……、
あんな怖い目にあったのに、
あの男の言葉で全部チャラになったような。

謝る美咲に対して、どこかふっきれた様子の敬介。

美咲は、こんな終わり方に納得いかなかった。

形山君……。
もう一度、先生の所へ一緒に戻ろう?
ね?

…………。

優しく問いかけるのだが、

敬介は返事をせずに再び帰る方向へと歩き出す。

ちょっと……。
形山君。

思わず走り出し、

歩く敬介の腕を掴んだ。

天野さ……。

その程度の気持ちだったの!?

名前を呼ぼうとする敬介の小さな声を遮り、

美咲が叫んだ。

あなたの気持ちはそんな簡単に諦められるものだったの?
公園での真剣な表情があったから、
先生に会ってもらおうって思ったんだよ。
たしかに先生の言い方は悪かったよ。
だけど、
誰かを守りたいって本気で思ったんなら、
最後までその気持ちを貫きなさいよ!
形山君なら、
きっとできると思ったから、
同じような怖い思いをした形山君なら、
誰かの痛みを分かってあげられる、
そう思ったから、私…………。

こんなに感情をむき出しに喋る美咲を、

今まで見たことがなかった。

途中涙を流しながら、

喋ることができずにすすり泣く美咲を見て、

心がたくさんの針で刺されたかのように痛んだ。

自分自身に甘えがあったのか、

自身の言葉に責任を持てていなかった。

天野さん……。
ごめん。
俺、まさかああいうことになるとは
思ってなかったんだけど、
つい腹が立っちゃって……。

涙を溜めた目でこちらを見つめる美咲は、

口を開かずに黙ってこちらを見ている。

誰かを守りたい気持ちは嘘じゃないんだ!!
だから、あの男……。
いや、先生に光術を習わないといけない。
それしか、俺のように辛い思いをする人たちを救うことができない。
ちゃんと分かってたんだけど……
天野さん、もう一度、一緒に先生の所に行ってくれ!
今度は絶対に逃げたりしない。

どこか気持ちを誤魔化していた敬介だったが、

自身の気持ちを素直に語った。

今までの平凡な日常がある日突然変ってしまう。

そんなこと望んでいなかった。

ただ、平和で幸せな毎日が続けばそれだけでいい。

誰かを守るなんて考えたこともなかったけど、

美咲と出会ったことが敬介の生き方に影響を与えた。

形山君の気持ちはよく分かったよ。
私も泣いたりなんかしてごめんね。
私すぐに感情が顔に出ちゃうから。

まだ涙は残っているが、いつもの笑顔に戻った。

…………。

やっぱりこの娘に涙は似合わないな。

そんな臭いことを思っていたのだが、

あえて口には出さなかった。

でも、

実際に愛する者、大切にする者ができた時には

敬介と同じような気持ちになるのではないだろうか。

それから、

敬介は自然と笑みを浮かべ始めていた。

俺のために、
わざわざ追いかけてきてくれありがとう。

うん。
形山君そういう顔してるほうがカッコいいよ。

からかっているのかもしれないが、どこか嬉しかった。

え?
天野さん!!

さぁ、神社に戻ろう!

うん。

そういって、

そのまま走って秋野実神社に向かう。

敬介の心の中は希望に満ち溢れだしていた。

そして、気持ちの良い追い風が二人の背中を押した。

第1章-力の目覚め編-(12話)-その気持ち-

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