運命だよ

静香

引いてるよね、引いてるよね、引くよね、こんな話……。

瑞穂

いや……
特には……。

静香

気ぃ遣ってくれなくてもいいわよ。私なら引くわよ、もし瑞穂がそんなこと言ったら!

瑞穂

引くのか?
オマエは……。

静香

どんっびきするわ。

瑞穂

…………。

静香

あ……、えと……、
そういう意味じゃなくて……

静香

もし、私にそういう記憶がなくて、瑞穂にそういう記憶あるって言われた時のことよ。

瑞穂

ああ……、
立場が逆だったらってことね。

静香

うん。

静香

だから、いいわよ……。
瑞穂がどんびきしてたって……。

瑞穂

別に引いてないよ。
曲、聴いてるし。

静香

そんなもん聴かずに、
私の話を聞いてよ!

静香

こっちはちょお
真面目なんだからね!

瑞穂

静香、落ち着いて。
けっこう無茶言ってるよ。

静香

そうよね……。

普通の人ならともかく、瑞穂に曲を聴くのをやめろというのは、無理だ……。

静香

でも、ありがと。
しゃべったら、気が楽になったかも……。

人と話すって、大事なことかもしれない……。

瑞穂

それならよかった。

瑞穂はそう言って、イヤホンを付ける。

ぱっと見ると、人の話を聴いていないようだけど、たぶん、違うんじゃないかな。

こんな感じでも瑞穂は私の話を聞いていて、返ってくる言葉も、わりと私の中に入ってくる。

もし、私の話を聞いていなくて、適当な相槌を打ってるだけだとしても、違うことは言ってないし、なんて言ったらいいのか、いい感じなことを言ってくれる。

物静かで、ちゃんと話ができるから、瑞穂とは友達なんだと思う。

きっと、同時に3つも4つもいろんなことができるタイプなんだろう。

静香

私は一度にひとつのことしかできないから、ちょっと羨ましいけど……。

瑞穂

…………。

しばらく桜が舞い散るのを見ていた。

桜の精霊

ふふふ、ふふふ
ふふふんふん♪

桜の妖精は、瑞穂のイヤホンから聴こえてくる曲に合わせて歌っているように見えた。

静香

…………。

桜の精霊

らんらんらん
らんらんらん♪

桜の精霊

るるるん
るんるん♪

静香

…………。

桜の精霊

らん♪ らん♪

桜の精霊

るるるん♪

静香

♪~ ♪~ ♪♪~

桜が舞い散っているのを見ていたら、適当に音を出していた。

桜の精霊

?!

一瞬、空気がざわっとした。

桜の精霊

ふふふ~、ふふふ~♪

でも、すぐに楽しそうなものに変わる。

桜の精霊

るんらんらん♪

瑞穂

…………。

珍しく瑞穂がイヤホンを両方外していたけど、気にせずに歌った。

静香

♪~ ♪~

桜の精霊

ふふふ~ん♪

歌いながら、ヤツのことを思い出していた。
経次郎ではなくて、義経だった頃のこと……。

義経

嫁に来てくれないかな?

あいつがそう言ったのは、私だけだった。
噂ばかりが先行して、私はあいつのこと、何も知らなかった。

私は、あんたの嫁なんかに
なりたくないわよ。

あいつが義経だってわかって頭に来てた。

義経

でも、来てほしい

義経

君が来てくれたら、
変われる気がするんだ……。

…………。

彼は笑顔でそう言った。

顔は綺麗に笑っていたけど、その時の淋しそうな瞳に、惹かれてしまった。


でも、初めて見た時から、好きだったのかもしれない。
他の男とは全然違う、明るくて優しそうなのに、どこか寂し気なあいつに。

行きたいから行くんじゃないわよ。あんたがどうしてもっていうから、仕方がなくだからね。

義経

ありがとう。

私は嫌なのよ。
ホントなんだからね。
わかってる?

義経

わかってるよ。

本当にわかってたのかな?
私があなたのこと、とっても好きってこと……。

それで嫁に行ったけど、彼は、変わることができたのだろうか?
悲劇の英雄、源義経は、本当に彼が望む姿だったのだろうか?

静香

♪~♪~

桜の精霊

…………

桜の精霊

…………

桜の精霊

…………

瑞穂がいたから、さすがに舞わなかったけど、その代わりのように桜たちが舞い踊って、それに合わせて歌っていたら、気持ちがかなり楽になった。

静香

あいつを信じて、
待ってみよう……。

歌いながら、そんな気持ちになっていた。
だって、ホント、今更だよ。

永い刻を、待っていたんだから。
信じられないくらい、永い刻を……。

そして、現世で逢えた。
奇跡って言葉じゃ言い表せない。

運命だって……。
あなたと出会えたのは……。

今も昔も

あなたと出会うのは

運命だったんだ

桜はとっくの昔に散って、新緑も樹になじんで……、ゴールデンウィークもとっくに終わって……。

ようやくヤツと
電話がつながった

pagetop