今もまだ、少し不安……

桜の精霊

いらっしゃ~いw

桜の精霊

お元気? お元気?

瑞穂

すごいじゃん、ここ。

静香

うん……。

瑞穂でも、桜を観るとすごいって思うんだ……。


桜の精霊

わ~いw わ~いw

桜の精霊

いらっしゃ~いw

もうずいぶん花は散っていて、少ししか残ってなかったけど、花びらは舞い散っていた。

静香

昨日は満開だったんだけどね……。

経次郎と一緒に観た桜は、満開だった。
春風がそよそよと吹いて、花びらがふわふわと舞っていた。

今は花びらはじゃかじゃか降ってるんだけど、樹に咲いている花はまばら。
なんか、残り少ない髪の人の抜け毛のような感じがする。

なんか違うか……?
なくなってほしくないみたいな感じが同じなだけ?

桜の精霊

彼氏さんは~?

桜の精霊

これ、いらぬことを聞くでない。
一緒におらぬということは、そういうことだ……。

桜の精霊

ぴゃっ!

静香

別れてないわよ!

桜の精霊

ぴゅっ!

瑞穂

…………。

桜の精霊

おうおう、そうであったか、そうであったか。

桜の精霊

それはまっこと善きことじゃ。

桜の精霊

きことじゃ~。

桜の精霊

ことじゃ~。

静香

「善きこと」なんかじゃないわ……。

瑞穂

……大丈夫?

しまった、声に出てた……。

桜の精霊

ぴょっ!

静香

ごめん、
ちょっと疲れてるみたい……。

瑞穂

うん……。

瑞穂

座る?

静香

どこに?

ベンチとかはない。

瑞穂

そことか。

瑞穂は桜の木の下を指した。

静香

ああ、うん。
それもいいかも……。

少し歩いて、座り易そうな木の下に座る。

静香

はぁ………………。

瑞穂

………………。

桜の精霊

ゆっくりと休まれよ。

桜の精霊

れよ~w

静香

…………。

でも、手のひらを上に向けると、ひらひらと花びらが乗った。

静香

綺麗だよね……。

うん。
綺麗は綺麗なのよ……。

桜の精霊

ぴゃっ

桜の精霊

ふふふんw

なんだかんだでこいつらも嫌いじゃないし。

瑞穂

大丈夫?

静香

平気……。

しばらく、桜が散るのを、じっと観ていた。

静香

普通、付き合うってなった、次の日って、もうちょっと相手のこと、気遣わない?

瑞穂

別にいいんじゃないの?

静香

オリハルコンよ、オリハルコン。
伝説だかなんだか知んないけど、オリハルコン探しに行くって、どういうことなのよ。

桜の精霊

まあまあ、まあまあ

桜の精霊

そーゆーことも
あるよ~

ねーよ!

静香

いや、
落ち着け、自分……。

瑞穂

経次郎だし……。

静香

…………。

なんか瑞穂の方が、私よりあいつに詳しいっぽくて嫌かも……。

桜の精霊

まあまあ、まあまあ

瑞穂

どしたの?

静香

まだ、経次郎って名前、馴染んでなくって……。

瑞穂

はぁ?

静香

その名前知ったの、昨日だもの。

瑞穂

………………。

瑞穂

じゃ、何て名前だと思ってたわけ?

私は首を振った。

静香

わかんなかった……。

瑞穂

…………。

静香

あいつ、いつもそうなのよ!
自分の正体隠して、じわじわと周りから固めてくるのよ。

瑞穂

…………。

静香

あの時も、
そうだったのよ……。

瑞穂

……。

源氏が京から平家を追い出したくらいの頃だったと思う……。

その源氏の大将の義経が、やけにしつこく「会いたがっている」という話が伝わってきていて、私は義経から逃げ回っていた。

静香

平家もどうかと思ったけど、源氏なんてもっとわけがわからない連中だもの。
そしたら、あんなのが来るし……。

瑞穂

何の話?

静香

経次郎の話。

瑞穂

ああ……そう。

静香

お稚児さんを使いによこしたのかって思ったわよ。

瑞穂

お稚児さん?

静香

調べて。

瑞穂

めんどくさいよ。

静香

ヤツの男。

瑞穂

……なるほど。

静香

それでわかったのか?
ホントに……。

そんなことを少しだけ思った。

義経

こんにちは。
静さんいますか~?

また来たか……。

そう思った。

はじめてヤツを見た時、元お稚児さんで、ちょっと成長した程度に見えた。

だって、義経と言えば、無骨な武家の総大将。
もっとごつくて強そうなのが来ると思ってたわよ。


こんな感じとか

義経


でも、来たのがコレ

うちにはこんなに見目がいいのがいるんだぞって、張り合ってんのかしら。

武士は京の人間から、無骨だとバカにされていた。

だからって、
自分の男を送ってくるなんて、
頭、おかしいんじゃない?

瑞穂

……?

だいたい同い年くらいかなって。

ちなみに静御前は、数えで16歳くらいのようだ。

瑞穂

のようだ?

静香

なんかはっきりしないらしい。

瑞穂

へ~

静香

だいたい
それくらいだったんじゃないかな?

瑞穂

何の話してんのか、
よくわかんない

それまで散々、

義経さまは
素敵な方のようですよ。

瑞穂

義経?

わたくし、お声をかけられました。

なかなかの器量を持っておってな。

みたいに周りからジワジワと……。
後白河法皇からも、「ヤツの嫁にならんか?」と言われていて、何度も何度も断っていたのよ。

瑞穂

後白河法皇?

私は武家の妾なんぞにはなりたくないの。あんたならわかるでしょ。

武家の妻なんて、冗談じゃないって思ってたのよ。

瑞穂

……。

義経

え……?
まあ、キミの言い分もわからなくもないけど……。

「キミ」って……、やっぱり武家から来てると、お稚児さんも横柄になっちゃうのかしら。

この子が悪いんじゃないわ。
吾妻くんだりから来てるのかもしれない。きっと、周りの大人たちが悪かったのよ。

こんなこと、あんたに言っても無駄だってことはわかってるわよ。

どうせ義経ってのに命令されて、嫌々来てるんでしょ?

あんたも大変よね。
自分の主人の気まぐれにつき合わされて、嬉しくもないお使いさせられてんだから。

義経

えっと……。
そうじゃないけど……。

あんた、自分が義経嫌いだから、
私に押し付けようとしてるわけ?

義経

え?

不本意なことされてるんだとは思うわよ。でも、だからって、それを私にさせようって、あんたもひどくない?

義経

違うよ……。

こいつ、義経のこと、
好きなの?

あんたは主人に命令されれば、嫌なことでも「喜んでします~」ってヤツなわけ?

義経

どっちかって言うと
そうかな?

………………。

あほんだらが!!

自分ってものをしっかりと持ちなさい。
嫌なことは嫌だとちゃんと言って、義経のことが好きなら、好きですって伝えなさい。

私のことなんて、どうせ興味本位でしょ。だから、妻になりたくないの。それならあいつのことが好きな、あんたがいたほうがいいでしょ?

義経

ボクは……、
キミに妻になってほしいな。

……。

淋しそうに笑う顔がツボで……。

いやよ!絶対に、義経の妻になんて、ならないんですからね!!

ウソは言ってなかった……。

それからヤツは正体を隠して私にまとわりついて、意外に年上だっていうことがわかって、

義経は嫌だけど、
あんたならいいわよ。

って言ったら、

義経

ホントに?
嬉しいな……。

主人が好きって言っている相手に手を出すはずがないと思っていたら、いとも簡単に……。

朝になって、

義経

館の方に来てね。

って言われて、しばらくして行ってみたら……

ヤツが義経だった……。

静香

本人見て、そっちを選んでもらえたのが嬉しかったんだって。

瑞穂

何の話?

静香

私(静)と経次郎(義経)
が出会った時の話。

瑞穂

そうなんだ……。

静香

今度だって、小5から私のこと知ってた? こっちはずっとずっとずっとずっと、ホントにず~っと待ってたのに、どうしてそんな長期的なストーカーしてくるのよ!

瑞穂

小5から今まで、よく好きでいたなって思うけど……。

静香

ジャリから高校までなんて、大した時間じゃないわよ。

瑞穂

でも、7年だよ?

あれ? そんな時間なのか?
ちょっと指で数えてみた。



…………諦めた。

静香

私はもっと長い時間、あいつのことを待ってたのよ!

800年よ、800年。
7年なんて、誤差のうちに入っちゃうわよ。

1000年-800年の200年に比べたら、7年なんて大したもんじゃないわ!

瑞穂

えっと、
もしかしてなんだけど
経次郎と前世で恋人とか?

静香

夫婦よ。

瑞穂

へぇ……。

静香

今までなんだと思って聞いてたの?

瑞穂

いや……
よくわかんなかった。

瑞穂

経次郎と、前世で夫婦だったのね。

静香

そうよ……。

静香

お使いとして来たヤツとできちゃったら、あいつはどんな吠えづらかくだろうって思って付き合ってみたら……、

静香

あいつがその言い寄ってた本人だったのよ!

瑞穂

………………。

瑞穂

やりそうだな……。

静香

みんな、騙されてるのよ!

静香

悲劇の英雄とか……、
戦の天才とか……。

静香

あいつ、そんなんじゃないよ……。

静香

弱っちくって、情けなくて、私がいないと、何もできないくせに、カッコばっかりつけて……。

静香

ホントはヘラヘラしてるだけの、迷惑千万な男なのに……。

静香

全然カッコよくなんてないのに……。

瑞穂

…………。

かすかに笑って、瑞穂が私の肩に手を置いた。

静香

あ……。

気が付くと、泣きながらしゃべってた。

桜の精霊

…………。

桜の精霊

…………。

あのおしゃべりな桜の精霊たちも、黙っている。
私のスカートや服には、いっぱい花びらが降り積もっていた。

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