信じたくなかった。
あの事件を起こしたのが、
クロウくんだったなんて。
でも今の邪悪な姿を見れば、
きっとそれが真実なんだろう。
信じたくなかった。
あの事件を起こしたのが、
クロウくんだったなんて。
でも今の邪悪な姿を見れば、
きっとそれが真実なんだろう。
研究中の薬の実験台に
なってもらったんですよ。
ついでですけどね。
命を……
命を何だと思ってるんだ!
力なき者の命は
力あるもののために使う。
それの何が悪いのです?
それは違う!
みんなの命はみんなのものだ!
……反吐が出ますね。
勇者と連んでいたからか、
言うことがそっくりですね。
クロウくんは冷たく言い放った。
心なしか侮蔑するような瞳で僕を見ている。
僕の心には怒りの炎が燃え上がってくる。
僕は絶対にお前を許さない!
戦う力もないクセに生意気な。
最初に殺しますよ?
――と言いたいところですが、
トーヤは薬草師として
利用価値がありそうですから
命だけは助けてあげましょう。
ただし、自我を消した上で
僕の命令に忠実に従う
人形になってもらいますけどね。
ひっ!
クロウくんの不気味な笑みに
僕は思わず寒気を感じて、
全身に鳥肌が立ってしまった。
足がガクガクと震えて止まらない。
トー……ヤ……。
お前だけでも逃げろ……。
嫌です!
薬草師が病人を放ったまま
逃げるなんてできませんよ!
僕は勇気を振り絞り、
腰に差していた護身用のナイフを握りしめた。
それをクロウくんに向け、
ガイネさんやセーラさんを
庇うような位置に立つ。
その小さなナイフで
僕と戦う気ですか?
滑稽ですねっ♪
っ!?
はぁっ!
がふっ……!
また……動きが見えなかった……。
気か付いたら僕は攻撃を受けていて、
お腹に衝撃を受けて、
そのまま床に倒れ込んでしまった。
もう反撃するなんて無理だ……。
あ……ぁ……。
身の程を知れ、ザコが。
クロウくんはガイネさんに歩み寄ると、
乱暴にその体を脇に抱え込んだ。
あんなに軽々と持ち上げるなんて……。
やっぱり見た目と実際の能力は
大きく違うってことか。
――その時だった。
開け放たれている窓から一筋の何かが
クロウくんに向かって突き進んだ。
それはクロウくんの足下に突き刺さり、
彼は少し動揺したような表情を見せる。
その拍子に手が離され、
ダンリさんは床に倒れ込んでしまった。
大丈夫かな……。
っ!? この矢はっ?
このまま逃がすと思うのか?
タックさんっ!
窓の外にいたのは、
小弓を構えたタックさんだった。
小さな体が闇夜に浮かんでいる。
チッ、賢者デタックルか……。
おっと、オイラだけじゃないぜぇ?
……なんだと?
待たせたな、友よ!
アポロ! それにユリアさんまで!
タックのすぐ隣には
アポロとユリアさんの姿があった。
ふたりは王都にいるはずなのに、
どうしてここへ?
その疑問を感じていると、
すかさずユリアさんが口を開く。
私の体が全快してすぐ
あなたたちを追ってきたのよ。
一緒に旅をするために。
その途中で、
オイラと出会ったんだよな~♪
これも不思議な縁ね……。
ユリア、トーヤに回復魔法を。
分かったわ。
させるかっ!
クロウくんは手のひらに炎を作り出し、
それをタックさんたちに向けて連続で放った。
こちらへ近付く隙なんて全くない。
くっ……。
これじゃ、近付けねぇっ!
あっはっは!
このまま炎を食らって燃えろ!
灰になれっ! 死ねぇっ!
今、クロウくんは
僕の方への意識が薄れている。
反撃のチャンスだ……。
僕は最後の力を振り絞り、
ポケットに隠し持っていた回復薬を飲み込んだ。
わずかに体力が回復したところで、
ナイフを握りしめたまま
クロウくんへ向かって突進する。
やぁあああああぁっ!
バカめ!
っ!?
うぁああああぁ~っ……。
クロウくんへ攻撃を仕掛ける前に
僕は炎の魔法を食らってしまった。
まるで僕の行動を読んでいたかのように、
見事に迎撃されてしまった。
意識はタックさんたちの方へ
向いていたはずなのに……。
トーヤ!
がはっ……ぁ……。
僕が油断するとでも?
トーヤは薬草師。
何らかの薬を使って体力を回復し
攻撃してくる可能性くらい
考えていましたよ。
……っ……ぁ……。
もう……ダメだ……。
体中が痛いし、意識ももうろうとしてきた……。
早く手当をしないと
トーヤが死んじゃうっ!
…………。
このままだと苦しいだろう?
せっかく利用してやろうと
思ったのにね。
もうこんな傷物、いらないや。
トドメ、刺してあげるよ。
クロウくんは氷の刃を握りしめていた。
きっと魔法で作り出したものだろう。
その先端が僕に向いている。
はぁあああぁーっ!
クロウくんは刃を振り上げ、
それを僕に向かって振り下ろしてくる。
万事休す……か……。
次回へ続く!