それから数日が経過した。

僕は無事に調薬に成功し、
ガイネさんの治療も順調に進んでいる。



完治は難しいかもしれないけど
このペースで行けば、
かなり命を長らえることが出来ると思う。



そしてそんな生活が続いていたある日の夜、
僕はトイレに行きたくなって目が覚めた。

月はまだ高い位置で輝いているから、
夜明けまでかなり時間があるはず。


僕はベッドから起き上がり、
みんなを起こさないように気をつけながら
静まり返った廊下を歩いていく。
 
 

トーヤ

あれ?
まだ明かりがついてる……。

 
 
とある一室から明かりが漏れていた。

確かあそこはガイネさんとセーラさんが
機械をいじっていた部屋だ。


そこを覗きこんでみると、
なんと未だにガイネさんとセーラさんが
何かの作業をしていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

トーヤ

わわっ!
まだ作業をしてたんですかっ?

セーラ

あ、トーヤくん。

ガイネ

なんだ、トイレか?

トーヤ

えぇ、まぁ。
それよりもお2人こそ、
そろそろ眠った方が良いですよ。
特にガイネさんは病人なんですし。

ガイネ

バーカ。病人だからこそ、
少しでも時間が惜しいんだ。
俺の命が尽きる時はそう遠くない。
トーヤなら分かっているよな?

トーヤ

…………。

 
 
僕は答えに困った。

ガイネさんは薬草師だけに
自分の体や病気の進行具合をよく理解している。
だから僕としては気の使い方が難しい。



嘘や誤魔化しは通用しないし、
だからといって
正直に話すのは抵抗があるから……。


そんな僕の心情を察してか、
ガイネさんは微笑みながら
不意に僕の頭をクシャッと撫でてくる。
 
 

ガイネ

お前の薬、よく効いてるぜ。
体がスゲェ楽になった。

トーヤ

それは良かったです。

ガイネ

だがな、延命はできたとしても
完治は無理だ。
それは俺自身がよく分かってる。

トーヤ

…………。

ガイネ

だから体が動くうちに
俺の知識と技術を
セーラに伝えているんだ。

ガイネ

コイツは機械の天才だ。
こうして出会うことができたのは
神様のお導きに違いない。

トーヤ

何を研究しているんですか?

ガイネ

…………。

 
 
僕の問いかけに
ガイネさんは沈黙してしまった。

訊いちゃいけないことだったのかな……。
 
 

セーラ

大丈夫ですよぉ。
トーヤくんは
悪人じゃありませんからぁ。
サララちゃんと同じくらい
無垢な心の持ち主なのですぅ。

ガイネ

ま、そうだな……。

 
 
ガイネさんはニヤッと頬を緩めると、
小さく息をついた。
 
 

ガイネ

トーヤ、このことは誰にも話すな。
カレンであってもだ。
約束できるなら話してやる。

トーヤ

は、はい……。

ガイネ

俺は魔法力で動く
自動人形の研究をしている。
しかも自分の意思を持ち、
自分の判断で動くやつだ。

トーヤ

えぇっ!?
それって生き物そのものじゃ
ないですかっ!
そんなものができるんですか?

ガイネ

まだ完成はしていない。
だから研究しているんだ。
ただし、命令で動くやつなら
とっくに完成してるがな。

トーヤ

それでもすごいですよっ!
だって命令で動くのなら
危険な作業を任せることだって――

セーラ

その通りなのですぅ。
そして疲れを知らず、恐れず、
戦うことのみに特化した
殺戮兵器としても使えるのですぅ。

トーヤ

っ!?

 
 
セーラさんはいつになく真剣な顔で
僕のことを見つめていた。

ガイネさんもいつの間にか
視線が鋭くなっていて、
その場には張り詰めた空気が漂っている。
 
 

ガイネ

そういうことだ。
コイツを悪用すると
とんでもないことになる。
だから誰にも言うなと釘を刺したんだ。

セーラ

道具は生活を豊かにしますぅ。
だから作り手は
利用者の笑顔を願って
道具を開発をするのですぅ。

セーラ

でも作り手の意図に反して悪用し、
みんなの悲しみを生み出す者も
必ず出るのですぅ。

ガイネ

薬だって悪用すれば命を奪うだろ?
薬草師であるトーヤになら
言っている意味が分かるな?

トーヤ

は、はい……。

ガイネ

俺がこうして町を離れ、
密かに研究していたのは
悪用されないようにするためだ。

トーヤ

そうだったんですか……。

 
 
ようやくガイネさんの真意が理解できた。

病気の治療をするなら、
お医者さんのいる町で暮らしていた方が
いいに決まっている。


でもガイネさんは自分の体のことよりも
研究している技術の未来を守ることを
優先したんだ……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第100幕 道具の未来と作り手の想い

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