洞窟内に響き渡った悲鳴と、サージェスティンの持っていた便利道具で掴めるようになった気配を頼りに駆け付けた最深部……。
しかし、そこに小さな王兄姫ユキの姿はなく、必死に逃げ惑う賊達の姿と……、地面に空いた大穴という意味不明の事態が待っていた。
うわああああっ!!
だ、誰かぁあああっ!!
ユキ!!
ユキ姫様!!
洞窟内に響き渡った悲鳴と、サージェスティンの持っていた便利道具で掴めるようになった気配を頼りに駆け付けた最深部……。
しかし、そこに小さな王兄姫ユキの姿はなく、必死に逃げ惑う賊達の姿と……、地面に空いた大穴という意味不明の事態が待っていた。
うわぁっ!!
何があった? 説明しろ。
あ、あぁぁぁぁっ、じ、実は、お、お頭が、こ、子供、攫ってきた子供……っ、お、起こした、後に、うぁあああああっ!!
子供って……、ユキ姫様の事!?ちょっと!!ユキ姫様に何があったの!?
ちゃんと話してくれないと、ここから先には通してあげないよー?
うぅっ、こ、子供が……、子供が、な、泣き出してっ、そしたら、突然、あ、あの、巨大な穴がっ!!
……力が暴走した、という事か。
きっと、ユキ姫様が御自分の身を守ろうとして発動させてしまったのね……。ルイヴェル、サージェスさん、あの穴の中に行きましょう。
あ、アンタら……、しょ、正気、かっ?あんな意味不明な穴の中に落ちたら、出て来れねぇぞ!!
愚問だな。
!?
あれがあの穴の中にいるのなら、迎えに行くに決まっている。
当たり前よ!!こんな恐ろしい目に遭われて、ユキ姫様がどんなに怖い思いをしておいでか……。貴方達!!逃げられるとは思わない事よ!!罰はしっかり受けて貰うわ!!
ひぃいいいいいっ!!
あーあぁ、逃げちゃった。……でも、残念でしたー。洞窟の入り口にはそのままウォルヴァンシア騎士団に通じる転移の陣を仕掛けてあるから、どのみち捕縛ルートだね。
あら、それは大助かりだわ!!
山の中に俺の使い魔である魔獣を放っておいたが……、無駄に終わったようだな。
ルイちゃん……、それ、騎士団にしょっぴく前に捕食ルートだよ。(滝汗)
まったく……。
さて、行くか。
三人は頷き合うと、躊躇いなく大穴の闇の中へと飛び込んで行った。
うぅっ……、誰か、ルイおにいちゃん、セレスおねえちゃん……、みんなぁっ。
くそっ!!何も見えねぇじゃねぇか!!おい!!クソガキ!!何しやがった!!
いや……、いやぁぁ、来ないで、ユキに、近づかないで……っ。
ぎゃああああっ!!
真っ暗な闇の中を手探りで近づいて来ようとした賊の頭に、ユキは無意識下で力を発動させ、牽制の雷撃を周囲に振り下ろしていた。
賊の頭に当たる事はなかったが、雷撃が闇の中を照らしてしまった為に、ユキの姿がはっきりと居場所と共に浮き上がってしまう。
このガキぃぃっ!!そこを動くなよ!!
いやぁっ、やだ、やだ、やだぁああっ!!こっちに来ちゃ駄目~!!
こ、今度は何だぁああっ!?
ユキちゃんを泣かせたなぁあああああっ!?
ひぃいいいいっ!!つ、使い魔の一種、か?くそっ、とんでもねぇガキだな!!
ユキの怯えた心が不可思議で巨大なカボチャのお化けを召喚したかと思うと、賊の頭が大声で叫んだ。
俺にだってなぁっ、使い魔の一匹や二匹いるんだよ!!来い!!俺の下僕共!!
!!
……。
………………。
な、何も、来ない……、ね?
ユキちゃん、あの男、食べていい?
た、食べる……、の?
うん。悪い奴、ぱっくんする。
…………………。
た、食べちゃ駄目!!
駄目なの……?
駄目!!あの怖い人、追い払って!!それだけでいいの!!食べちゃ駄目っ!!
……つまんないのぉ。
ユキの無意識で召喚? されたカボチャのお化けは一見して可愛い素振りで拗ねたものの、主の命令は絶対なのか、しぶしぶと賊の頭に近づいていった。
おい!!ユキちゃんをいじめる屑野郎!!さっさと消え、――っ!?
凄もうとしたカボチャのお化けの目の前に現れた、荒ぶる猛々しい炎。
賊の頭がしてやったりの顔でニヤリと笑むと、それをカボチャのお化けに向かって叩き付けた!
あんぎゃああああああああ!!
か、カボチャさん!!
カボチャのお化けの全身を包み込み、その身体を焼き尽くそうとする炎の気配は凄まじく、ユキは両手を広げて叫ぶ。
カボチャさん!!逃げてっ!!
ちっ!!逃がしたか……。
はぁ、はぁ、はぁ……。カボチャさん、逃げられ、た?
ユキの願いはそのままカボチャのお化けが逃げる為の道を作り、光によってその全身を包み込んで運んでいったようだ……。
それと同時に炎も消え去り、また、不安感を煽る闇に満たされていく。
生憎となぁ、俺は魔術師なんだよ。だから、使い魔が来なくても戦闘は出来る。残念だったなぁ?
……。
さぁ、どうしてやろうか……?手こずらせてくれた礼に、ヤッバイ趣味のデブ貴族にでも売ってやるか?たんまりと金を積んでくれるだろうぜ。ヒヒヒヒッ。
ゆ、ユキはおうちに帰るの!!ルイおにいちゃんやセレスおねえちゃん、皆がいるところに!!
あぁ、無理無理。今日限りで、大事な家族とは永遠のお別れだ。ククククク。
ユキの居場所を正確に掴み、賊の頭は下卑た嘲笑と共に迫ってくる。
もし捕まったら、本当に知らないところに連れていかれてしまう!!
さぁ、ゲームオーバーだ。
いやぁっ!!
おら!!大人しくしやがれ!!このクソガキがっ!!
……ちゃん、ルイおにいちゃぁあああああああああああああああん!!
無駄だって言ってんだろうが!!
賊の頭に羽交い絞めにされて抱き上げられてしまったユキは、それでも叫び続ける。
どんな時でも、必ず自分を見つけてくれる、助けにきてくれる大好きな人達の姿を思い浮かべながら。
――そして。
ユキ!!
ヒロインの危機に駆けつけるヒーローの如く颯爽と闇の中に飛び込んできた銀色の使徒。
小さな王兄姫の名を叫びながら現れた王宮医師だったが――。
根性で戻って来たぞぉおおおお!!
!?
えっ!?ちょっ、ル、ルイヴェル~!?
ルイヴェルは突然出現したカボチャのお化けと激突し、闇の大穴の外に吹っ飛ばされた!!
……飛んでっちゃったねぇ。
……る、ルイおにいちゃん、だった、よね?今の。
……。(気まずい顔)
あれ?今なんか僕の身体にぶつかったような……。
………………。
はっ!!今はそんな事よりも!!
セレスちゃん?そんな事って……、双子の弟が巨大カボチャにぶち当たって跳ね飛ばされちゃったんだよー?あれ?聞いてない?
ご無事ですか!!ユキ姫様!!
闇の中に黄金の光を纏って現れた王宮医師の片割れ。女神のように麗しいその面差しを瞳に映したユキは、大粒の涙を零しながら彼女に抱き着いた。
セレスおねえちゃぁあああん!!怖かったよぉおおおっ!!
あぁっ、ユキ姫様っ。何とおいたわしい、……って、え?ちょっ、ユキ姫様っ、この頬の腫れは何ですか!?――まさか!!
元凶。
あ……。
貴方ね……!!ユキ姫様の御身に傷をつけたのは……!!
そ、そのガキが悪いんだ!!俺に逆らいやがって!!
こーんなちっちゃな可愛い女の子に暴力って……、ねぇ、セレスちゃーん?こいつ、息の根止めちゃっても怒られないよね?(黒笑)
勿論よ!!ユキ姫様の受けられた屈辱と痛み、遠慮なく晴らさせてもらうわ!!
ぎゃああああああああ!!
賊のお頭に、
美しき王宮医師の怒りの一撃が容赦なく降り下ろされた!!
賊のお頭、
ダメージ1000000!!
まだあるよー。
ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
サージェスティンの攻撃!!
賊のお頭に、オーバーキルの追い打ちがかかった!!
ふぅ、スッキリしましたね~、ユキ姫様♪
う、うん……。
ぐへぇ……。
……うーん、俺よりもセレスちゃんの方が何千倍も怖い展開だったねぇ。途中からユキちゃんの目を塞いでおいて正解だったよ。
サージェスおにいちゃん……、あの人、大丈夫かなぁ。
双子の弟であるルイヴェルよりも、この姉である女医の方が遥かに恐ろしいのではないか……。
戸惑いながらそう感じている小さな王兄姫と、バッチリとセレスフィーナの鬼神の如き仕置き模様を見ていたサージェスティンは思った。
あの賊がどうにか生きているのも、彼女が最後の一線を守ってくれていた証なのだろう……。
賊のお頭は全身ズタボロだが。(チーン)
さて、王宮に戻りましょうか♪
……セレスおねえちゃん。
はい?
……ルイおにいちゃんは?
………………。
……あ。
セレスちゃん、暴れるのに熱中してルイちゃんの事……、忘れてたよね?
そ、そんな事は……、な、ない、わ、よ?ただ、ちょ~っと一時的に頭の中から抜け落ちていたというかっ、そのっ。
……セレス姉さん。
闇の大穴からぶっ飛ばされていたルイヴェルが合流し、物凄く複雑そうな顔をして、無言の圧力をセレスフィーナへと放ってくる。
ユキとサージェスティンの「「あ~あぁ……」」と言いたげな視線がまた辛い!!
ご、ごめんな、さい……。
まぁまぁ。綺麗なお姉さんにだって間違いはあるんだから、お兄さんもそのくらいで許し、――。
アアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
小さな王兄姫の危機に蚊帳の外に置かれた眼鏡の王宮医師からの、容赦なき一撃!!
カボチャのお化けは高速で壁に激突した……、哀れ。
本(もと)はと言えば、お前のせいだろうが……。この珍種生物め。
る、ルイおにいちゃん!!カボチャさんをいじめちゃ駄目!!カボチャさんもユキを守ってくれたんだよ!!
……カボチャ如きが。
可愛がっている幼子がカボチャを庇うのも、また何だか気に入らない様子の王宮医師だったが、彼は気付いてはならない『それ』に、今、気付いてしまった。
ルイおにいちゃん?
……これは、なんだ?
……あ。
ルイちゃん、あの……、お、落ち着いて?
賊のお頭への報復で忘れていたが……、小さな王兄姫の頬には、容赦なくぶたれた痕が残っていたのだ。
ルイヴェルがその赤く腫れている部分を労わるように撫で治療すると、ドス黒く恐ろしいオーラを漂わせながら立ち上がった。
……誰がやった?
る、ルイヴェル、あ、あのねっ、ちょっと落ち着いてちょうだいっ。報復なら私達がやっておいたからっ。
そうだよー、ルイちゃん!!俺とセレスちゃんでたっぷりとっ!!
誰が、ユキの顔にあんな痕をつけた?
………………。
セレスフィーナとサージェスティンの指先が賊のお頭を示した!!
大魔王化したルイヴェルに逆らうくらいなら、生贄の一匹くらい喜んで捧げよう!!
……という心境、なのかもしれない。
……うぅ。
治癒を施してやれば、やり直しが出来るな。
ま、まさか……、る、ルイちゃん?
やる気だわ……っ。さっき自分が出来なかった報復を、治癒の術で回復させて、エンドレスで気が済むまで殺る気だわっ!!
る、ルイおにいちゃん、だ――。
ちょおおっ!!幾らなんでも非道過ぎだよ~!!
駄目、そう制止の声をかけようとした三人+カボチャのお化けだったが、――結果は予想通り。
怒れる大魔王と化したルイヴェルによって何度も何度も治癒術を施され強制的に回復させられた賊のお頭は、何度も何度も何度も、まさにエンドレスで仕置きを受け続けたのであった。――そして。
こうなったのは、言うまでもない……。
番外編1・fin