セレスフィーナ

なかなか見つからないわねぇ……。巨大花なんて、どこにも……。ルイヴェル~、サージェスさ~ん、そっちはどうかしら?

 盗賊達に攫われた王兄姫を追って、セレスフィーナ達はさらに山の奥へと足を踏み入れていた。
 手掛かりは唯ひとつ。『巨大花』……。
 その花のある場所が、盗賊達の隠れ家への入り口になっているらしい。
 けれど、どこを探しても目当ての物は見つからず、サージェスティンとの出会いから、すでに一時間は経過してしまっている。
 小さな泉の側で木の幹に背を預けると、セレスフィーナは女神のように美しい面差しを曇らせた。
 どうしよう……、双子の弟も、ガデルフォーン騎士団の長であるサージェスティンも、戻って来ない。

セレスフィーナ

不味いわね……。

 下手をしたら、抑えが危うくなっている自分の弟が面倒だとばかりに山ごと破壊してしまう恐れがある。まぁ、その場合は、術式を調整して、小さな王兄姫に危険がないよう配慮はするだろうが……。
 山ひとつ吹き飛ばすと……、後処理が云々。

ルイヴェル

セレス姉さん、こっちだ。

セレスフィーナ

ルイヴェル!!

サージェスティン

セレスちゃん、ごめんねー。ちょっと確認に手間取っちゃって。巨大花、確かにあったよ。術者の支配下に置かれた、見張り番って感じかな。

セレスフィーナ

わかったわ。急ぎましょう!!

 さっさと、その見張り番役とやらを片付けて、ユキを助けに行かなくては!!
 盗賊などという野蛮な集団の中で、あの小さな王兄姫がどれだけ心細い思いをしている事か……。
 あぁ、もしも……、もしも、自分達の愛する王兄姫殿下に傷のひとつでも盗賊達がつけていたら。

セレスフィーナ

騎士団に引き渡す前に、ボッコボコにしてあげるわ!!

 ――双子の弟に負けず劣らず、この姉も意外と過激な事を考える節があった。

魔物

ギャァォオオオオオ!!

ルイヴェル

植物型のディオマァムに、フィビィ種か……。強制的に凶暴性を植え付けられているようだな。

サージェスティン

みたいだねー。どうする、ルイちゃん?この山の中だと、魔術関係は使わない方がいいだろうし、俺が全部片付けようか?

ルイヴェル

たかが雑魚十体程度だ。魔術を使うまでもない。

ルイヴェル

これで十分だ。

サージェスティン

鞭……。ルイちゃん、あの

セレスフィーナ

……む、惨い。

サージェスティン

一応、殺さないように配慮はしてくれたみたいだけど……、かなり重症のトラウマ付きだよね、あれ。

魔物

グギギギ……。(訳:マジ、もう、やめ、て)

魔物

キュゥゥゥ……。(訳:お、お願いですから、い、命だけは……っ)

 哀れ、山の魔物達……。
 賊の巣を守る番人役ならば、それなりに強い魔物なのかと思われるところだが、彼らは情け容赦ないルイヴェルの鞭攻撃により、三分と持たずに瀕死の屍となってしまった!!

ルイヴェル

去れ。

魔物達は大急ぎで逃げて行った!!

セレスフィーナ

何だか可哀想だったけれど……、これで、ユキ姫様を助けに行けるわね。

ルイヴェル

急ぐぞ。

愚かな侵入者よ……。我が牙の餌食になりたくなければ、すぐにここから立ち

ルイヴェル

どけ。

ど、どうぞ、遠慮なくお通りくださいっ!!

魔物は全力で壁際に退避した!!

サージェスティン

うわー……、ルイちゃん、最強すぎぃ……。

セレスフィーナ

今の……、それなりに強い種の魔物だったわよね? 好戦的な性質なのに……、戦いもせずに引くなんて。

サージェスティン

セレスちゃん、それ考えない方がいいよー。今のルイちゃん相手には、伝説の神竜だって裸足で逃げ出しちゃうと思うし。

セレスフィーナ

そう、ね……。私もそう思うわ。

 最早、その行く手にどんな存在が立ちはだかろうと、ルイヴェルの歩みを止められる者はいない事だろう……。

大魔王さながらの圧倒的な気配が怖すぎて!!

セレスフィーナ

……それにしても、この洞窟、ちょっと不味いんじゃないかしら?完全に迷宮じみてるわ。

ルイヴェル

万が一、入り口やさっきの奴らがやられても、そう簡単には辿り着けないように考えて巣を選んだんだろうな……。

ルイヴェル

忌々しい……。

 どこまでも進んでも、洞窟内は複雑に入り組んでおり、賊の巣らしき最深部には辿り着けない。
 ここが『場』と呼ばれる領域でなければ、ユキや賊の気配を追って一気に進めるのに……。
 苛立ちの気配と共に舌打ちを漏らすと、ルイヴェルは岩壁を拳で打ち付けた。
 

ルイヴェル

クソッ!!

セレスフィーナ

ルイヴェル、大丈夫よ。ユキ姫様はきっとご無事でいらっしゃるから、冷静になりましょう?ね?

サージェスティン

そうだよー、ルイちゃん。俺の聞いた話じゃ、あの賊達は荷を襲いはしても、人を殺したりはしていない。だから、お姫様もきっと無事でいてくれるはずだよ。

ルイヴェル

……っ。

サージェスティン

そーれーにー、こんな事もあろうかと、『場』対策のアイテムも持って来たしねー!

サージェスティン

じゃじゃーん!『場』の影響を一時的に無効化出来る、お高いアイテム登場ー♪

セレスフィーナ

…………あ。

ルイヴェル

…………。

サージェスティン

痛ぁああっ!!

 アイテムを取り出したサージェスを、ルイヴェルの怒りに満ちた一撃が襲った!!

ルイヴェル

サージェス……、貴様、何故それを最初から出さなかった?

セレスフィーナ

サージェスさん、悪いけれど、フォロー出来ないわ。

サージェスティン

うぐぐ……っ。いやぁ、俺もすっかり忘れてたんだよねー……。ほら、ルイちゃん達と会えたのが嬉しくて、つい。

サージェスティン

痛だぁぁぁぁっ!ルイちゃん、ごめーん!!悪気はなかったんだよー。

ルイヴェル

後で覚えておけ……。

セレスフィーナ

でも、これでユキ姫様の許に行く事が出来るわ。急ぐわよ、ルイヴェル!!

サージェスティン

セレスちゃーん……、ボロボロになってる俺の事はどうでもいいんだー……?っていうか、ルイちゃん達だって、こういう便利道具の事すっかり忘れてたんだからおあいこだと思うんだけどぉ……。あ、聞いてないね?全然。

 怒れる大魔王によって背中を踏み倒されているサージェスティンの言葉に応える音はなかった。
 その代わり、アイテムを使用して『場』の影響を無効化した直後、洞窟の奥から恐ろしい悲鳴が響いてきたのであった。

1-9・巨大な花と……。(※光効果注意)

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