ガイネさんが命吸病だったなんて……。
もし今までガケ茸の煎じ薬を
飲むことしかしていなかったとしたら、
相当つらかったと思う。
全身の激痛と吐き気、
夜も眠れずに体力を奪われていく。
どれくらい前から
この病に冒されていたかにもよるけど、
こうして平然と会話ができているのは奇跡。
しかもその辛さを周りに感じさせないなんて、
なんでそんな我慢を……。
ガイネさんが命吸病だったなんて……。
もし今までガケ茸の煎じ薬を
飲むことしかしていなかったとしたら、
相当つらかったと思う。
全身の激痛と吐き気、
夜も眠れずに体力を奪われていく。
どれくらい前から
この病に冒されていたかにもよるけど、
こうして平然と会話ができているのは奇跡。
しかもその辛さを周りに感じさせないなんて、
なんでそんな我慢を……。
…………。
ふっ、トーヤ。
そんな悲しそうな顔をするな。
もし何か思うことがあるなら
お前の力でなんとかしてみせろ。
それに薬草師が
そんな顔をしていたら、
患者に不安を与えるだけだぞ?
ガイネさんは優しい瞳を向け、
僕の心を見透かしたかのような言葉を
投げかけてきた。
そうだよね、僕がこんなことじゃいけない。
ガイネさんは調薬から
百何十年も離れているとはいえ、
薬草師としての心は今でも持ち続けている。
僕にはそう感じられた。
トーヤ、調薬できるわよね?
うん、可能だよ。
ただ、僕の持っている
簡易的な道具じゃ無理だよ。
本格的な設備がないと。
ガイネさん、
調薬室はあるんですよね?
もちろんだ。自由に使ってくれ。
ただし、長いこと使ってないから
埃まみれだろうけどな。
みんなも調薬室の掃除を
手伝ってくれる?
承知しました。
はいっ!
ではでは、私は設備のチェックを
担当しましょ~。
ライカさん、
僕たちは道具の手入れを
しましょう。
手伝っていただけますよね?
はい、もちろんです。
僕たちは全員で手を重ね合わせ、
心をひとつにした。
うん、力を合わせればどんな困難だって
乗り越えていける。
僕はそう信じてる!
それにしても正直、驚いたぞ。
カレンの指定した4種の薬は
どれも調薬が難しい。
トーヤはそれができるのか。
えぇ、まぁ。
例え道具が調っていたとしても
成功率は50%程度ですが。
トーヤ、お前っ、
あの4種の薬の調薬成功率が
50%だとっ!?
ガイネさんは素っ頓狂な声を上げた。
そうだよね、驚くのも無理はないよね。
だって一人前の薬草師なのに、
成功率が50%しかないなんて……。
はい、まだまだ未熟なので
その程度の成功率しかないんです。
お恥ずかしいです。
バカ、恥ずかしいもんか!
全盛期の俺だって
成功率は10%程度だぞっ?
それくらい難しいんだぞっ?
そうなんですか?
難しすぎて、
私には調薬そのものが
できないですから。
そ、そうだったんだ……。
僕の意識としては、
一人前の薬草師ならどんな薬も
調薬成功率が70%を超えないと
ダメなのかなって思ってたからなぁ。
でもあの4種の薬って確かにデリケートで
神経を磨り減らす調薬になるけど、
何か所かの難しい場面を乗り越えちゃえば
成功しやすい素直な薬なんだけどな。
例えば、魔力熱の薬の方がクセがあって
よっぽど難しいと思う。
お前、何者なんだ?
ただの薬草師とは思えん。
その調薬技術、誰に習った?
ギーマ先生じゃないんだよな?
はい、僕の故郷に住んでいる
師匠から習いました。
名前はレオンさんと言います。
レオンだとっ!?
なぜかガイネさんは今までで一番驚いていた。
師匠のことを知っているのかな?
薬草師をしていたのなら
名前くらいは聞いたことがあったとしても
不思議じゃないけど……。
でも隠れ里に住んでいるくらいだから
そんなに有名だとは思えない。
腕が良いというのは確かなんだけどね。
は……ははは……なるほど……
そういうことか……。
それを聞いて少し納得した……。
師匠をご存じなのですか?
ンなことはどうでもいい。
ギーマ先生はそのことを
知っているのか?
いえ、話したことはないです。
するとガイネさんは真顔になり、
僕のアゴを掴んで自分の方に引き寄せた。
そして真っ直ぐに僕を見つめてくる。
き、急にどうしたんだろう?
息もかかる距離でジッと見つめられると
照れちゃうよ……。
トーヤ、ギーマ先生に会ったら
そのことをきちんと話すんだ。
そしてそれ以外のやつには
レオンさんのことを決して話すな。
レオン……さん……?
どうして『さん付け』なんだろう?
年長者の言うことは
黙って聞いておけ。
いずれ分かる時が来る。
は、はい……。
…………。
よく分からないけど、僕は素直に頷いた。
きっとガイネさんは
僕たちの知らない何かを知っている上で
アドバイスをしてくれたんだろうと思うから。
でも師匠って何者なんだろう?
今までよく考えたことがなかったなぁ。
次回へ続く!