時間は少々、遡る。
横山と西村の諍いが起きている頃。
こちらのダブル眼鏡はというと。

町田

飯島君
そのまんじゅうはどこにあるんだ?

飯島

校長室ですよ

饅頭に路線変更したダブル眼鏡は、校長室を目指していた。
最初町田が言い出した喰えない鯛は先を越されていた。
選択しなくて本当によかったと思う飯島。
体力には自信がないのだ。

町田

校長室……?

飯島

ええ
意外かもしれませんが

町田は思い当たる節があるとしれば、来客用の茶菓子。
だがアレは単なる饅頭だ。
校長は大の甘党で有名で、饅頭みたいな腹をしている血糖値のヤバイ大人なのである。

町田

……

考えを巡らせてみるが喰えない饅頭。
饅頭大好きな校長。分からない。
共通点は饅頭だけだ。

飯島

考えてますね、町田さん
校長のこのことを知っているのは一部です
思いつかないのも道理ですよ

町田

ん?
そりゃどういう意味で?

意味深なことを言う飯島に、問う町田。
彼は苦笑する。

飯島

強いて言うなら、校長の饅頭大好きパワーが危うく自分の生命を殺すところだった、ということですよ

町田

ふむ……
毒でも盛られたか?

まさか毒殺を企てられたのか?
あんな中年のハゲが?
七福神みたいな顔をしている人の良いおっさんが?

飯島

その着眼点は正しいですよ

町田

なんだとッ!?
本当に校長を狙う輩がいたのか!

だとしたらそれはそれで大問題だ。
人殺しの事件に発展する。
校長が死ぬか生きるのかの瀬戸際だ。
急いでその饅頭とやらを回収しなければ。

飯島

……着眼点は毒の方なんですけど……

町田は陰謀の説を良いと言われたと勘違いして、一人で戦慄している。
恐らくは巨大な黒幕がいるのではないかと真剣に考えていた。

飯島

さて、じゃあ答えを見せましょう……
ついていきてください

町田

わが校の校長を狙った毒のある饅頭……
分からない……
そんなモノを作り出した存在とは……

腕を組んで険しい顔をする町田を連れて、飯島は校長室へと進んでいく。
決して陰謀などではない。
もっと単純かつ、校長の黒歴史なだけだ。
その答えが、明かされる。

町田

これは……ッ!

飯島

これが答えですよ、町田さん

校長室に入り、飯島が示したもの。
それは、奥まった部分にある死角だった。
そこには、小さな水槽が置いてある。
その中身を見た町田は叫んだ。

町田

スベスベマンジュウガニかっ!!

飯島

はい、その通り!
これが食べられない饅頭の正体です

スベスベマンジュウガニ。
その名を一度は皆さん、聞いたことがあるだろう。

無駄にインパクトのある名前で有名な小さなカニだ。
聞いた感じ、美味そうな感じの名前がするだろう。
お茶の欲しくなりそうな名前である。

だがそれは大きな間違いだ。

この生物、食ったら死ぬ。
比喩ではない。本当に死ぬ。
足や甲殻にテトロドトキシン、所謂フグ毒含めて数種類、ヤバイ毒が含まれている。
胴体は安心かと思うだろうが、油断して喰うと最悪死ぬ。
5センチ程度の小さな身体に、大人が数人楽に死ねる致死量の毒が含まれているのである。

幸い、挟まれたり触ったりしなければこの毒は問題ない。
そう、食わなければ。
が、この校長は愚かだった。
なんと海水浴でこのカニを見つけて食おうとしていたのである。味噌汁で。
それを気がついて止めたのがこの男、飯島。

飯島

僕が止めていなければ、校長は今頃あの世ですよ
饅頭と聞いて、嬉々として食べようとしていたんですよ?

町田

あの人アホだな

陰謀説じゃなかった。単純に無知による自滅だった。
皆さんも、海水浴とかで見かけるからって、そのへんに居るカニを捕まえて調理しようなんて思わないように。
思わぬところに毒のある生物はいるものなので。
カニを食いたいならお店で買うか外食をしましょう。

ともあれ、校長がその様子を見て発狂しているのを観客はうるさそうに見ながら、ダブルメガネは食べられない饅頭を入手した!

赤坂

喰えないガム……ねえ?
チューインガム?

有栖川

それは食べられるよ?
オススメしないけど

赤坂

あぁ?
じゃあなんだよ、インカム?

有栖川

そもそもガムじゃないね

赤坂

……

赤坂

わかんね

有栖川

デスヨネー

うって変わって赤坂ペア。
短気でバカな赤坂はサッパリだった。
食べられないガム? なんだそら?

有栖川は未だに行く先を告げないし、道中喋りながらゆっくりと進む。
既に数人、クリアしたペアがいるようだ。
その中には伝説のロリコンドマゾペアもいるようで。
あの存在自体が黒歴史で、交番に連れて行かれたこともあるとかっていうド変態が。

有栖川

わたしとしては、あの末期のド変態に負けたのが無性に悔しいんだよね
顔見たら八つ裂きにしてやるのに

赤坂

今度そうするか?
丁度バールのようなものなら家にあるよ

有栖川

いいねえ、鉈とノコギリ今度持ってくるよ
バラバラにして畑の肥料にしてやろっと

などとロリコン駆逐の物騒な話をしているが、追記としてこの二人は彼女さんの方と知り合いであり、ドマゾが発揮されているのをその目で見て、怖気がしたので存在を抹殺すると心に誓っている。
取り敢えず抹殺。社会でも物理的でも。

西村

OH……
リアル生命の危険を感じるZE!

粟飯原

なにいってんの?

真上の廊下をそいつと彼女さんが歩いているなど赤坂ペアは全く知らない。
ドマゾだけは殺意に気がついて喜んでいた。
それはいいとして。

有栖川

さて、赤坂
ついたよー

有栖川がとある教室の前に到着して、ドアを開けた。
ついていく赤坂。

そこは理科室だった。
今は人気がない。彼女達だけのようだ。

赤坂

理科室……?
ここで何探そうって?

有栖川

探すんじゃないよ、作るんだよ
わたしが、この場でね

赤坂

はぁっ!?

借り物競走主体のゲームで創る!?
何をどうやってクリエイトするって言うんですかこいつ!?
だから学校だからこそっていったのか。
無ければ作ればいいっていうクリエイター魂で!

有栖川

指定が緩くてよかったよ
持ってくる形状は問わないってことは別に既存のものを持っていく必要はないんだからさ
なければ即興で作っちゃえばいいんだ

赤坂

なんつう恐ろしいことを……

完全に上手だった。
その発想はなかったとでも言おうか。
時間制限内だったら何をしてもいいのを逆手にとって、まさか新しいものを作り出すとは。
さすが、学校でも成績優秀者は考えることが違う。

有栖川

ちょっと下がっててね
危ないから

そう言うと手馴れた様子で準備室に侵入する有栖川。
入ってくるなと警告して、扉を閉める。
数秒後。

赤坂

何やってんだあいつ……

何かやばそうな音がする。
本当に何を作っているんだ。
戦々恐々としながら待つこと5分。

有栖川

ただいまー
終わったよ、じゃあ行こうか

有栖川は、手に何かを持ってきて出てきた。

中に銀色の液体が入ったシャーレ。
慎重に持ちながら、彼女はドヤ顔で言う。

有栖川

この組み合わせは誰もしてないと思うよ
これで第一ゲームは勝ったね

赤坂

……ごめん有栖川
なにこれ?

自信満々の有栖川に、赤坂は怖々聞いた。
これが喰えないガム? 確かにぱっと見食えないが……。
有栖川はニコッと笑って答えた。

有栖川

これはね、アマルガムだよ

赤坂

余るガム?

有栖川

いや、アマルガム
水銀と他の金属を混ぜた合金だよ
広義では、全般のことを指すらしいよ

有栖川が作ったのは『アマルガム』。
簡単に言うと水銀の加工物であり、この女は厳重に保管されていた水銀を勝手にパクって使用してこれを作ったのだ。
まさか薬品の棚をガラスごとぶっ壊して強奪するとは、誰も思うまい。
成績じゃ優秀だがこいつの素行は頗る悪い。
チンピラと大して変わらない。

尚、壊した薬品棚のガラスはしっかりとこんなこともあろうかと隠しておいた新品のガラスにはめ直して完了。
理科室は有栖川の遊び場なのでやりたい放題している。
こんな貴重なモノを遊び道具にできるなんて理科室って素晴らしい。

赤坂

……食ったらどうなる?

有栖川

ヘタすると死ぬんじゃない?
まあ、病院行きは間違いないね

有栖川の言うとおり、このまま食べるなど有り得ない。
確実に悪影響が出るであろう。
何はともあれ、借り物競走の趣旨を翻す手段で、赤坂ペアは喰えないガムを手に入れた!

饅頭&ガムも当然受理された。
双方、分かりやすく食べると死ぬ。
間違いないので、第一ゲームはクリア。
そして。
彼女達が勝ち抜けしたのち、ゲームは無事終了した。
黒歴史を明かされる恐怖の第一ゲームで、それなりに沢山の生徒が脱落して破滅を迎えることとなったのだった。

食べられないガムとまんじゅう

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