僕たちはサララの案内で峡谷を進んでいった。
幸いなことに、
あの後はモンスターたちには遭遇せず
ここまで順調に来られている。
僕たちはサララの案内で峡谷を進んでいった。
幸いなことに、
あの後はモンスターたちには遭遇せず
ここまで順調に来られている。
ねぇ、サララ。
どうして町に住まないの？
私は縁があって居候を
させていただいている身でして、
『ここに小屋があるから』としか
お答えのしようがありません。
家主さんは静かに暮らしたくて
この場所へ移ってきたらしいです。
私も目立って生活したくないので
都合いいというか……。
そうなんだ……。
何か事情があるのかもなぁ。
じゃ、家主さんが病気ってこと？
はい、そうです。
ガイネさんという技巧師さんです。
えっ？
それってクロウくんの
探している人よね？
おそらくそうでしょう。
まさかこんな場所に
隠れ住んでいるとは……。
クロウくんは無事に目的の人に
辿り着けたみたいで良かった。
僕たちの探しているガイネさんも
見つかるといいんだけど。
そうだ、サララなら何か知ってるかな？
ねぇ、サララ。
ダンリの町にその人以外に
ガイネさんって人いる？
詳しくは知りませんが、
おそらくほかに
ガイネさんという人は
いないと思います。
おかしいですねぇ。
おかしいというのは？
僕たちもガイネさんという
名前の人を探してるんだ。
薬草師とか医師とかを
していると思うんだけど。
あっ！ そういえば、
家の中には医学書が
たくさん置いてありました。
関係あるのかも。
医学書があるというだけだと確信は持てない。
でも逆に技巧師さんにとっては
あまり必要のないものとも言える。
しかもそれがたくさんあるというのは
やっぱり違和感を覚えざるを得ない。
だとすると、
私たちの探しているガイネさんと
クロウ様の探しているガイネさんは
同一人物かもしれませんね。
本人に会って確かめてみましょう。
それが確実ですね。
それにしても、
もしガイネさんが技巧師だったとしたら
シンディさんはどうして
その人を訪ねなさいって言ったんだろう？
それからしばらく渓谷をさらに進み、
一軒の小屋へやってきた。
そこは渓谷の壁面をくりぬいた
少し高い位置にあって、
眼下にはドラゴンリバーが小さく見えている。
また、峡谷は奥の方まで見渡せて、
景色は最高の場所だ。
――ちなみにサララの話だと、
ここからダンリの町まで歩いて数時間らしい。
戻りましたぁ。
サララに続いて僕たちも小屋に入った。
すると広い部屋の隅にはベッドがあって、
そこには誰かが横になっていた。
近寄ってみると、
その人は痩せ細っていて顔色も良くなかった。
これは明らかに何かの病気を患っている。
……それもかなり重い感じの。
その人は目を開けると、
視線だけをこちらへ向けて鋭く睨んでくる。
サララ、こいつらは誰だ？
実はですね――
サララは僕たちと出会った経緯を説明した。
続いて僕たちがシンディさんに紹介されて
訪ねてきたということを伝える。
するとその人は驚いた様子で
それを聞いたあと、
優しく穏やかな笑みを僕たちに向けてくる。
なるほどな。
お前らが先生の弟子にねぇ。
しかもシンディまでもが
実力を認めたか……。
では、あなたが僕たちの探している
ガイネさんなんですね？
その通りだ。
俺はシンディの兄弟子に当たる。
ただ、百数十年前に薬草師をやめて
今じゃ技巧師をしているがな。
治療する対象が生物から機械へ
変わったわけですねぇ。
そういうことだ。
だからブランクがありすぎて、
今は調薬なんてできないだろうな。
ガイネさんは自嘲しながら言い放った。
それは自分の病に対して何もできない現状を
自ら皮肉っているかのような――
僕はなんとなくそんな気がした。
次回へ続く！
