千秋たちが購買でスペシャルデリシャスバーガーを手に入れた頃、椿は屋上でにぼしくん(ヘラクレスオオカブト)にリンゴを与えていた。
千秋たちが購買でスペシャルデリシャスバーガーを手に入れた頃、椿は屋上でにぼしくん(ヘラクレスオオカブト)にリンゴを与えていた。
屋上には他にも生徒たちがおり、各自昼食を広げながら楽しそうに友人と話している。
その中の数名がチラチラと椿の方を見ていたが、クラスが違うためか声を掛けてくる生徒はいない。
しかしにぼしくんの事が気になって仕方がないようで、中には椿の近くまで来てそのまま何もせずに戻る男子生徒の姿もあった。
ごめん新島、遅くなった。
先に食べてても良かったのに。
この俺の右腕が疼いてな・・・・・・。
つい書を書き記すのに夢中になってしまった。
この借りは必ず返す。
いや、俺はにぼしくんにごはんをあげてたから大丈夫だ。
それにしても二人とも旨そうなの持ってるな!
俺にもひと口分けてくれ!
ほら。
千秋は紅のバーガーを奪うと一口ちぎって椿へ差し出した。少し不服そうな顔をしながらも転校生は黙ってそれを見守る。
なにゆえ俺のバーガーを供物にする?
・・・・・・そうか、そういう事か!
これは何かの儀式なんだな、エンド・オブ・ワールド!
ちぎるとバーガーの形が崩れるから自分のはちょっと。
まあ迷惑料的なやつかな。
あとその妙な呼び方やめろって言ったよね?
う、うむ、すまん。
そうか・・・・・・。
これが呪われし書物を記さねばならぬ俺に与えられた罰というわけだな。
フン、甘んじてそれを受けよう。
よくわかんねーけどサンキュー高梨!
こ、これは・・・・・・!
一言でいうと旨い!!!
一言で表現しなくても椿はどうせ「旨い」しか言わないだろうと心の中でツッコミを入れつつ千秋も自分のバーガーに口を付ける。
スペシャルデリシャスバーガーという名前なだけあってそれはかなり美味しいものだった。バンズに挟まったアボカドとミートパティの何とも言えない絶妙なハーモニー。
今度食べる時もあの忍者のような後輩に頼んで購入してもらおう。そんな事を考えながら残りを平らげる。
あーー!
新妻センパイじゃないスか~。
何かボールに虫ついてるっすよ!
む、お前は確か・・・・・・矢津!
俺は新妻じゃない新島だ!!!
あとこいつは虫じゃない!
にぼしくんと呼べ!!
椿先輩やっほー。
それヘラクレスオオカブトでしょ。
かわいいね。
おお、射和も来てたのか。
にぼしくんはかっこよくもあり可愛くもあるな!
にぼし・・・・・・?
よくわかんないけどそれ絶対俺に近付けないで下さいよ。
椿たちが昼食を食べ終わり、のんびりとしている所へ彼らの後輩である誠一郎と京平がやってきた。
どこかで昼食は済ませたらしく手には何も持っていない。どうやら千秋の話を聞いて屋上が気になり見学に来たようだった。
あ、そーいやこないだはすんませんでした~。
俺らリベンジのこと完全忘れてたけど悪気はなかったんスよ!
ちょっとしたアレで~~。
済んだことだ、気にするな!
でも次こそはリベンジ待っているからな。
や~!
もう俺は遠慮しとこっかな。
アイツらはまだ諦めてないみたいなんで言っときま~す。
何お前ら知り合い?
もしかして新島に絡んだ1年って矢津の事なの?
詳細は第2話 椿先輩と1年生カルテット参照↓
ん?
相原も矢津たちを知ってたのか!
ああ、矢津は水泳部の後輩。
そこのもじゃもじゃ君の事はよく知らないけどさっきオレたちの昼飯を買ってきてくれたんだよ。
すばやい身のこなしがまるで忍びのようだった。
恐れ入りますニンニン。
みんなびみょーに知り合いとかびっくりっすよね~。
すべてが必然。
おれらくされ縁。
円周率みたいに続いてく永遠。
お、出たな!
モジャモジャラップ!
今のは呪文だろうか・・・・・・?
それにしてもこの地に集いし者たちがみな繋がっているとはな。
これは何か起こる予兆かもしれない。
まーた始まったぞ。
早速来るべき時に備え、我々も準備をしておかねばならんな、終焉を導く者<エンド・オブ・ワールド>
いや・・・・・・EOW。
ん?
オレいま何かに巻き込まれた?
どうしたEOW・・・・・・?
お前も何か感じるのか。
まさか暗黒大陸の地響きを・・・・・・?
感じない。
オレが高梨の仲間みたいな雰囲気になってるけど何も準備とかしないからね。
だいたい来たるべき時っていつなの?
あと変な呼び名は略でもやめろ。
な・・・・・・!
何故そこまで俺を拒絶する?
EOW・・・・・・!
いや、高梨を拒絶してるわけじゃないんだけど・・・・・・。
エンド・オブ・ワールド???
・・・・・・。
・・・・・・。
さっきも購買で言ってたそれ何なんスか。
さあ? 何だろうね。
高梨の言う事はオレもよくわからないんだ。
終焉を? 導く者?
エンド・オブ・ワールドってもしかして千秋センパイの事なんじゃ・・・・・・?
・・・・・・。
基本的に紅の妄想話はスルーしようと思っていた千秋だが、うっかりツッコミを入れ後輩の注意を引いてしまった。
後悔してももう遅く、面白いものを見つけたという目でこちらを眺めてくる後輩の視線が痛い。
相原もカッコいいあだ名つけて貰ったんだな!
俺は黒い・・・・・・何だっけ?
ブラックカメ?
黒いカメじゃない。
お前の名は漆黒の断罪者<ブラック・カメリア>だ!
漆黒の断罪者と終焉を導く者!
わあいいなあ、かっこいい名前~。
今度からセンパイたちのことそう呼ぼっかな~なんて。
・・・・・・矢津。
やっべ~~!
千秋センパイが眼鏡外してる!
これは俺怒られるやつ・・・・・・。
よく水泳部をサボっていた誠一郎は、これまで何度か千秋に叱られていた。他の先輩のように怒鳴るわけではないが淡々とした口調で注意をしてくる。
何度か叱られているうちに、彼が怒る時は眼鏡を外す癖があるらしいという事に気が付いた。
そして今まさに眼鏡を外し睨んでくる千秋を前に誠一郎は焦った。少しだけからかうつもりがやりすぎてしまったようだ。
あまり調子に乗ってると痛い目みるよ。
ああ・・・・・・そうそう今からプールサイド500周ぐらいしてきたら?
昼食食べて元気がありそうだし行けるんじゃないかな。
・・・・・・すみませんでした。
せめて50周でゆるしてください。
ははは、そこまで怒らなくてもいいじゃないか。
高梨は転校してきたばかりだから、後輩たちとも交流を持てて良いと思う。
今日は大目に見てやったらどうだ?
・・・・・・まあね。
椿ちゃ~ん!!
そうだよね、俺もそう思う!
みんなで仲良くしよ~!!
貴様、椿ちゃん呼びはヤメロ・・・・・・。
センパイたちこわい・・・・・・!
矢津と言ったか、お前はなかなか見どころがあるようだな。
ちなみに俺は虚ろなる煉獄の云々・・・・・・
こっちのセンパイもある意味怖ぇ!
何か語り出しちゃったし!
ちょっとからかうだけのつもりが俺も巻き込まれるやつじゃねコレ。
虚ろなる煉獄先輩!
俺もなんかかっこいい名前欲しいです。
ふむ、よかろう・・・・・・。
吾輩が貴様に名を与える。
蝙蝠が喋った!
喋る蝙蝠ってすごいよな~!
にぼしくんも喋らないかなあ。
さすがに昆虫は喋らないんじゃないかなあ(蝙蝠も喋らないと思うけど)
え?
あれって腹話術じゃないの?
えええ?
でも千秋センパイの機嫌直ったっぽいし何でもいっか。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
すまない。
ファウストはすぐに名を告げることはできないと言っている。
これは秘密の名前なのでそう簡単には出てこないものなんだ。
無念。
ブラックカメは秘密の名前だったのか!!!
知らなかった・・・・・・。
思いつかなかったんだな。
思いつかなかったのかなぁ?
俺も秘密の名前欲しかった・・・・・・。
・・・・・・そう気を落とすな。
大丈夫だ、近いうちに何かしらの御告げがあるさ。
俺たちは皆ソウルメイトなのだからな。
・・・・・・。
転校生が加わり、前よりも少し賑やかになった千秋の日常。
今後は一体どうなってゆくのか。紅の発した「ソウルメイト」という言葉の響きに微妙な不安を感じつつ、千秋は昼休み終了のチャイムを聴いていた。