千秋たちが購買でスペシャルデリシャスバーガーを手に入れた頃、椿は屋上でにぼしくん(ヘラクレスオオカブト)にリンゴを与えていた。

 屋上には他にも生徒たちがおり、各自昼食を広げながら楽しそうに友人と話している。

 その中の数名がチラチラと椿の方を見ていたが、クラスが違うためか声を掛けてくる生徒はいない。

 しかしにぼしくんの事が気になって仕方がないようで、中には椿の近くまで来てそのまま何もせずに戻る男子生徒の姿もあった。

相原 千秋(あいはら ちあき)

ごめん新島、遅くなった。
先に食べてても良かったのに。

高梨 紅(たかなし こう)

この俺の右腕が疼いてな・・・・・・。
つい書を書き記すのに夢中になってしまった。
この借りは必ず返す。

新島 椿(にいじま つばき)

いや、俺はにぼしくんにごはんをあげてたから大丈夫だ。

それにしても二人とも旨そうなの持ってるな!
俺にもひと口分けてくれ!

相原 千秋(あいはら ちあき)

ほら。

 千秋は紅のバーガーを奪うと一口ちぎって椿へ差し出した。少し不服そうな顔をしながらも転校生は黙ってそれを見守る。

高梨 紅(たかなし こう)

なにゆえ俺のバーガーを供物にする?


・・・・・・そうか、そういう事か!
これは何かの儀式なんだな、エンド・オブ・ワールド!

相原 千秋(あいはら ちあき)

ちぎるとバーガーの形が崩れるから自分のはちょっと。
まあ迷惑料的なやつかな。

あとその妙な呼び方やめろって言ったよね?

高梨 紅(たかなし こう)

う、うむ、すまん。

そうか・・・・・・。
これが呪われし書物を記さねばならぬ俺に与えられた罰というわけだな。
フン、甘んじてそれを受けよう。

新島 椿(にいじま つばき)

よくわかんねーけどサンキュー高梨!

新島 椿(にいじま つばき)

こ、これは・・・・・・!
一言でいうと旨い!!!

 一言で表現しなくても椿はどうせ「旨い」しか言わないだろうと心の中でツッコミを入れつつ千秋も自分のバーガーに口を付ける。

 スペシャルデリシャスバーガーという名前なだけあってそれはかなり美味しいものだった。バンズに挟まったアボカドとミートパティの何とも言えない絶妙なハーモニー。

 今度食べる時もあの忍者のような後輩に頼んで購入してもらおう。そんな事を考えながら残りを平らげる。

矢津 誠一郎(やづ せいいちろう)

あーー!
新妻センパイじゃないスか~。
何かボールに虫ついてるっすよ!

新島 椿(にいじま つばき)

む、お前は確か・・・・・・矢津!

俺は新妻じゃない新島だ!!!
あとこいつは虫じゃない!
にぼしくんと呼べ!!

射和 京平(いざわ きょうへい)

椿先輩やっほー。
それヘラクレスオオカブトでしょ。
かわいいね。

新島 椿(にいじま つばき)

おお、射和も来てたのか。
にぼしくんはかっこよくもあり可愛くもあるな!

矢津 誠一郎(やづ せいいちろう)

にぼし・・・・・・?
よくわかんないけどそれ絶対俺に近付けないで下さいよ。

 椿たちが昼食を食べ終わり、のんびりとしている所へ彼らの後輩である誠一郎と京平がやってきた。

 どこかで昼食は済ませたらしく手には何も持っていない。どうやら千秋の話を聞いて屋上が気になり見学に来たようだった。

矢津 誠一郎(やづ せいいちろう)

あ、そーいやこないだはすんませんでした~。
俺らリベンジのこと完全忘れてたけど悪気はなかったんスよ!
ちょっとしたアレで~~。

新島 椿(にいじま つばき)

済んだことだ、気にするな!
でも次こそはリベンジ待っているからな。

矢津 誠一郎(やづ せいいちろう)

や~!
もう俺は遠慮しとこっかな。
アイツらはまだ諦めてないみたいなんで言っときま~す。

相原 千秋(あいはら ちあき)

何お前ら知り合い?
もしかして新島に絡んだ1年って矢津の事なの?

詳細は第2話 椿先輩と1年生カルテット参照↓

新島 椿(にいじま つばき)

ん?
相原も矢津たちを知ってたのか!

相原 千秋(あいはら ちあき)

ああ、矢津は水泳部の後輩。
そこのもじゃもじゃ君の事はよく知らないけどさっきオレたちの昼飯を買ってきてくれたんだよ。

高梨 紅(たかなし こう)

すばやい身のこなしがまるで忍びのようだった。

射和 京平(いざわ きょうへい)

恐れ入りますニンニン。

矢津 誠一郎(やづ せいいちろう)

みんなびみょーに知り合いとかびっくりっすよね~。

射和 京平(いざわ きょうへい)

すべてが必然。
おれらくされ縁。

円周率みたいに続いてく永遠。

新島 椿(にいじま つばき)

お、出たな!
モジャモジャラップ!

高梨 紅(たかなし こう)

今のは呪文だろうか・・・・・・?

それにしてもこの地に集いし者たちがみな繋がっているとはな。
これは何か起こる予兆かもしれない。

相原 千秋(あいはら ちあき)

まーた始まったぞ。

高梨 紅(たかなし こう)

早速来るべき時に備え、我々も準備をしておかねばならんな、終焉を導く者<エンド・オブ・ワールド>
いや・・・・・・EOW。

相原 千秋(あいはら ちあき)

ん?
オレいま何かに巻き込まれた?

高梨 紅(たかなし こう)

どうしたEOW・・・・・・?
お前も何か感じるのか。
まさか暗黒大陸の地響きを・・・・・・?

相原 千秋(あいはら ちあき)

感じない。

オレが高梨の仲間みたいな雰囲気になってるけど何も準備とかしないからね。
だいたい来たるべき時っていつなの?

あと変な呼び名は略でもやめろ。

高梨 紅(たかなし こう)

な・・・・・・!
何故そこまで俺を拒絶する?
EOW・・・・・・!

相原 千秋(あいはら ちあき)

いや、高梨を拒絶してるわけじゃないんだけど・・・・・・。

矢津 誠一郎(やづ せいいちろう)

エンド・オブ・ワールド???
・・・・・・。

相原 千秋(あいはら ちあき)

・・・・・・。

矢津 誠一郎(やづ せいいちろう)

さっきも購買で言ってたそれ何なんスか。

相原 千秋(あいはら ちあき)

さあ? 何だろうね。
高梨の言う事はオレもよくわからないんだ。

矢津 誠一郎(やづ せいいちろう)

終焉を? 導く者?
エンド・オブ・ワールドってもしかして千秋センパイの事なんじゃ・・・・・・?

相原 千秋(あいはら ちあき)

・・・・・・。

 基本的に紅の妄想話はスルーしようと思っていた千秋だが、うっかりツッコミを入れ後輩の注意を引いてしまった。

 後悔してももう遅く、面白いものを見つけたという目でこちらを眺めてくる後輩の視線が痛い。

新島 椿(にいじま つばき)

相原もカッコいいあだ名つけて貰ったんだな!
俺は黒い・・・・・・何だっけ?
ブラックカメ?

高梨 紅(たかなし こう)

黒いカメじゃない。
お前の名は漆黒の断罪者<ブラック・カメリア>だ!

矢津 誠一郎(やづ せいいちろう)

漆黒の断罪者と終焉を導く者!
わあいいなあ、かっこいい名前~。
今度からセンパイたちのことそう呼ぼっかな~なんて。

相原 千秋(あいはら ちあき)

・・・・・・矢津。

矢津 誠一郎(やづ せいいちろう)

やっべ~~!
千秋センパイが眼鏡外してる!
これは俺怒られるやつ・・・・・・。

 よく水泳部をサボっていた誠一郎は、これまで何度か千秋に叱られていた。他の先輩のように怒鳴るわけではないが淡々とした口調で注意をしてくる。

 何度か叱られているうちに、彼が怒る時は眼鏡を外す癖があるらしいという事に気が付いた。

 そして今まさに眼鏡を外し睨んでくる千秋を前に誠一郎は焦った。少しだけからかうつもりがやりすぎてしまったようだ。

相原 千秋(あいはら ちあき)

あまり調子に乗ってると痛い目みるよ。

ああ・・・・・・そうそう今からプールサイド500周ぐらいしてきたら?
昼食食べて元気がありそうだし行けるんじゃないかな。

矢津 誠一郎(やづ せいいちろう)

・・・・・・すみませんでした。
せめて50周でゆるしてください。

新島 椿(にいじま つばき)

ははは、そこまで怒らなくてもいいじゃないか。
高梨は転校してきたばかりだから、後輩たちとも交流を持てて良いと思う。
今日は大目に見てやったらどうだ?

相原 千秋(あいはら ちあき)

・・・・・・まあね。

矢津 誠一郎(やづ せいいちろう)

椿ちゃ~ん!!
そうだよね、俺もそう思う!
みんなで仲良くしよ~!!

新島 椿(にいじま つばき)

貴様、椿ちゃん呼びはヤメロ・・・・・・。

矢津 誠一郎(やづ せいいちろう)

センパイたちこわい・・・・・・!

高梨 紅(たかなし こう)

矢津と言ったか、お前はなかなか見どころがあるようだな。

ちなみに俺は虚ろなる煉獄の云々・・・・・・

矢津 誠一郎(やづ せいいちろう)

こっちのセンパイもある意味怖ぇ!
何か語り出しちゃったし!
ちょっとからかうだけのつもりが俺も巻き込まれるやつじゃねコレ。

射和 京平(いざわ きょうへい)

虚ろなる煉獄先輩!
俺もなんかかっこいい名前欲しいです。

高梨 紅(たかなし こう)

ふむ、よかろう・・・・・・。
吾輩が貴様に名を与える。

射和 京平(いざわ きょうへい)

蝙蝠が喋った!

新島 椿(にいじま つばき)

喋る蝙蝠ってすごいよな~!
にぼしくんも喋らないかなあ。

相原 千秋(あいはら ちあき)

さすがに昆虫は喋らないんじゃないかなあ(蝙蝠も喋らないと思うけど)

矢津 誠一郎(やづ せいいちろう)

え?
あれって腹話術じゃないの?
えええ?
でも千秋センパイの機嫌直ったっぽいし何でもいっか。

高梨 紅(たかなし こう)

・・・・・・。

射和 京平(いざわ きょうへい)

・・・・・・。

高梨 紅(たかなし こう)

・・・・・・。

射和 京平(いざわ きょうへい)

・・・・・・。

高梨 紅(たかなし こう)

すまない。
ファウストはすぐに名を告げることはできないと言っている。
これは秘密の名前なのでそう簡単には出てこないものなんだ。

射和 京平(いざわ きょうへい)

無念。

新島 椿(にいじま つばき)

ブラックカメは秘密の名前だったのか!!!
知らなかった・・・・・・。

相原 千秋(あいはら ちあき)

思いつかなかったんだな。

矢津 誠一郎(やづ せいいちろう)

思いつかなかったのかなぁ?

射和 京平(いざわ きょうへい)

俺も秘密の名前欲しかった・・・・・・。

高梨 紅(たかなし こう)

・・・・・・そう気を落とすな。
大丈夫だ、近いうちに何かしらの御告げがあるさ。
俺たちは皆ソウルメイトなのだからな。

相原 千秋(あいはら ちあき)

・・・・・・。

 転校生が加わり、前よりも少し賑やかになった千秋の日常。

 今後は一体どうなってゆくのか。紅の発した「ソウルメイト」という言葉の響きに微妙な不安を感じつつ、千秋は昼休み終了のチャイムを聴いていた。

第11話 椿先輩と虚ろなるなんちゃらの転校生④ ~完~

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