ノースエンドを出発した僕たちは、
デビルズキャニオンの間を進んでいった。


どこまでも続く切り立った岩肌と、
幾重にも重なる断層。
眺めているだけで圧倒されてしまう。

今まで小さな谷を見たことはあったけど、
ここまで大規模なものは初めてだ。



この大峡谷は谷の間を流れる
ドラゴンリバーによって
長い年月をかけて削られたものだという。

自然の力ってすごいなぁ……。
 
 

トーヤ

カレン、疲れてない?
大丈夫?

カレン

うん、なんとか。
トーヤこそ足を痛めてない?

トーヤ

僕も大丈夫だよ。
みんなも調子が悪かったら
遠慮なく言ってね。

クロード

あ……私は少し足が
痛くなってきたような気が。

トーヤ

えっ? そうなの?

カレン

トーヤ、騙されちゃダメよ。
クロードはトーヤに近付きたくて
言ってるだけなんだから。

クロード

っ!?
そ、そんなわけ……
ないじゃないですか……。

クロウ

目が泳いでますけど……。

トーヤ

だけど本当だったら
大変なことになるよ……。
カレンはお医者さんなんだから
患者さんの話を
信じてあげないとダメだよ。

カレン

う……。

セーラ

今回はトーヤくんの方に
分がありますねぇ~♪

ライカ

でしたら、
そろそろ休憩しましょうか?
朝からずっと歩き続けていますし、
ついでに昼食をとるのもいいかも。

トーヤ

ですね。僕は賛成です。

セーラ

じゃ、休憩しましょ~。

 
 
こうして僕たちは河原に敷物を広げ、
休憩と昼食をとることにした。


ライカさんとクロウくんが
ランチボックスや食器を準備し、
僕とクロードはお茶の準備。

カレンとセーラさんは周りを警戒する。


そして準備が整ったらみんなで食事をして、
そのあとはしばらくその場で
休憩をすることになった。




僕は仰向けに寝転んで、空を眺める。

左右にはどこまでもそびえる渓谷。
その隙間を埋め尽くす澄んだ青――。

耳に聞こえてくるのは、
穏やかなせせらぎの奏でるコンサートだ。



のどかで平和で、
こんな時間がこれからもずっと
続いていけばいいなぁって思う。


これも女王様やアレスくんのおかげだ。

そして僕たち一人ひとりがみんなで
守っていかなければならない。
 
 

カレン

トーヤっ♪

トーヤ

カレン?

 
 
突然、僕の視界にカレンの笑顔が入ってきた。
どうやら僕のすぐ隣に移動してきて
頭の横に座ったみたい。

随分と機嫌良さそうだけど、どうしたのかな?
 
 

カレン

耳かきしてあげよっか?

トーヤ

えっ?

カレン

いいじゃない、たまには。

トーヤ

ぅわっ!

 
 
僕が返事をする前に、
カレンは僕の頭を掴んで膝枕をさせてくる。


頭に伝わってくる柔らかな感触と温かさ。
そしてカレンのいい匂い。

さすがに照れくさいし、
瞬時に血液が顔に集まってしまって熱い。
 
 

カレン

静かにしててね。
動いたら危ないから。

トーヤ

……う、うん。

 
 
セーラさんとライカさんは
ニヤニヤしながらこっちを見ている。


ちなみにクロードとクロウくんが静かなのは
眠っているからかな?
ふたりとも静かに寝息を立てているもんね。
 
 

トーヤ

っぁ……っ♪

 
 
優しい感触を耳の中に感じる。
耳かきが壁に当たるたびにくすぐったくて
思わず声が出てしまう。


でも気持ちいい……。


なんだろう、このしあわせな気持ち。
うまく説明できないけど、
胸の奥に熱い感情が生まれて落ち着かない。



やがて耳かきが終わり、
僕は体を起き上がらせた。
 
 

トーヤ

ありがとう、カレン。

カレン

どういたしまして。

トーヤ

今度は僕がカレンにしてあげる。

カレン

えぇっ!?

トーヤ

どうしたの? そんなに驚いて?

カレン

は……恥ずかしい……。

トーヤ

僕だけやってもらったんじゃ
悪いもん。
カレンにもしてあげたい。

カレン

……うん。

 
 
僕は正座をしてカレンに膝枕してあげた。

そして彼女の耳の周りにかかっている髪を
優しく掻き上げる。


――なんだろ、すごくドキドキする。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

トーヤ

えっ?

カレン

何っ?

 
 
突然、渓谷に響く轟音と振動。
それから少し遅れて
熱気を帯びた突風が吹いてくる。


これにはカレンはもちろん、
クロードとクロウくんも目を覚まして
身を起こす。
 
 

カレン

あ、あれはっ!

セーラ

ワイバーンなのですぅ!

 
 

ガァオオオオオォーン!

 
 
渓谷の奥の方からこちらへ向かって
巨大なモンスターが飛来するのが見えた。

見た目はドラゴンにそっくりだけど
よく見るとちょっと違うみたい。
例えば、顔とか腕とか肌の様子とか。



セーラさんはワイバーンって言ってるけど
どういうモンスターなのかな?
 
 

トーヤ

ワイバーンって何ですか?

セーラ

渓谷地帯に多く生息している
ドラゴンの亜種なのですぅ。
性格はどう猛で好戦的という
厄介な相手なのですぅ。

トーヤ

で、でもドラゴンの
亜種なんですよね?
話せばなんとかなるかも。

セーラ

それが亜種といっても
本質的には別の種なのですよぉ。
頭はおバカさんなので
話なんか通じないのですぅ。

クロード

えぇ、ヤツらは
本能のままに襲ってくるだけ。
しかもブレスも吐きますので
注意が必要です。

トーヤ

じゃ、もしかして
さっきの熱風は……。

クロード

えぇ、おそらくは
炎を吐いた余波でしょうね。
でも私たちが力を合わせれば
倒せない相手ではありません。

ライカ

油断さえしなければ
きっと大丈夫ですよ。

トーヤ

そうなんですか……。

 
 
クロードたちはそう言うけど、
鋭い牙とか巨体とかブレスとか、
そんなので攻撃されたら怪我じゃ済まないよ。

少なくとも、
弱い僕はきっと一撃も耐えられない……。
 
 

誰か助けてくださいぃ~っ!

トーヤ

えっ?

 
 
ワイバーンの飛んでくる方向から
助けを求める声が聞こえた。

声の感じからすると女の子かな?
 
 

セーラ

誰かがワイバーンに
追われているみたいですねぇ。
助けないといけません~っ!

カレン

クロード、セーラさん。
私と一緒に前衛をお願いします。
ライカさんは後衛で結界魔法を、
トーヤはフォーチュンで援護を。

クロウ

あの、僕はどうすれば?

カレン

クロウくんは戦える?

クロウ

いえ、あまり得意ではありません。
でも少しは攻撃魔法が使えるので、
状況を見て魔法で攻撃します。
それでよろしいですか?

カレン

それでいきましょう。

 
 
こうして僕たちは武器を構え、戦いに備えた。

僕はフォーチュンに河原の石をセットする。
今回は周りにたくさん落ちているから
弾切れの心配がなくていい。


――フォーチュン、今回もよろしくね!



本当は戦いそのものを避けたいけれど、
隠れられる場所がないもんね……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第94幕 峡谷の凶暴モンスター

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