敬一の過去の話はそんな本人の言葉によって静かに締め括られた。
彼の言葉通りもう辺りは暗くなって来ている。
それからは第一志望だった星華男子高等学校に合格して今こうしてここに居るんだ。
……俺の話はこんな感じ。話してたら結構遅くなっちゃったね
敬一の過去の話はそんな本人の言葉によって静かに締め括られた。
彼の言葉通りもう辺りは暗くなって来ている。
……大変だったんだな
明彦は相槌に悩んでいたが、結局そう返した。
相変わらずアキ君は優しいよね。大半俺の自業自得なのにそれを責めたりしないんだ
苦笑気味に敬一は応じる。
しかし明彦は笑う事はせず真顔で言った。
だって俺に話すって事はケイは自分の中で既に反省してるって事だろ?
それを更に責める必要なんて無いよ
……流石アキ君だね。
相変わらず君は人の本質を見抜くのに長けている……敵わないなぁ
何言ってる。俺がこうなったのはケイ、大体御前のせいだよ
え、俺? ユズちゃんじゃ無いの?
敬一にしては珍しく驚いた反応になる。
しかし明彦はとても冗談には見えない真面目な表情で返した。
確かにユズを守る為に身に着けた能力ではあるけどこれを育てたのはケイだ。
俺が御前の天才能力に憧れて身に着けられたらと思ったのが大きいし、何よりも御前の秘密主義が俺にこの能力を必要とさせた
俺そんなに秘密主義かな?
ああ。ケイは俺の表情から全部読めるから……相談とかも凄い乗ってくれるし頼りにしてる。でもケイが俺を頼って相談した事は殆ど無いし自分の事を話してくれた記憶ってのも俺は殆ど持っていない。
だから俺が気が付いてやらないといけないって思ったんだよ。そうしたら何時の間にか御前の事が御前よりもよっぽど良くわかるようになったんだ。
だからこれは中々俺を頼ろうとしない御前のせいだ
そう言われるとそんな気になってくるなぁ
だからもっと俺の事も頼れよな
……わかったよ、有難う
その笑顔は絶対に頼らないつもりだろ
さぁ? それはどうかな
まだまだ全然甘いよアキ君。俺が君を頼ってないって? そんな訳無い。
今だってこうして一緒に居る事で君を頼ってるんだよ。
……まぁ絶対に言わないけどね
むぅ……
そんな風に拗ねてると置いてくよ、アキ君
言いながら敬一は駆け出した。
あっ待てよ
慌てて明彦が追い掛けて来る。
そして明彦は敬一に追い着いて並ぶ頃に問い掛けた。
なぁケイ御前さ……天音さんの事本当は……
今それ聞く?
呆れたような表情になって問い掛けてくる敬一に更に明彦は言い募った。
どうしてもそれだけははっきりさせたいと思っていたのである。
でも御前がちゃんと人を好きになれない理由はさ……
そんなに踏み込もうとしてくるなんて全く君は……しょうがないお節介だねぇ……
敬一は嘆息するが数秒の沈黙の後静かに走るのを辞めて明彦と向き合い、答えた。
……そうだよ。負い目から伝えられなかったけど本気で好きだった。
……彼女の事があったから俺は人を好きになれなくなった。それも察しの通り
……やっぱり
君がそんな風に辛そうな顔をして気にしたってしょうがないでしょ。これは……俺の中の問題だからさ
……ケイは一生懸命俺の為に動いてくれるのに、俺は又何にも出来ないんだな
やるせない気持ちになってそんな言葉が思わず零れた。
……全く馬鹿だなぁ君は
言いながら敬一は明彦を叩く真似をする。
えっ
驚く明彦に敬一は照れたような表情で返した。
……君はそのままで居てくれればそれだけで俺の為になる。だから何もしなくて良いんだよ
ケイ……
全く何言わせてくれてんの。大体こういう台詞は女の子に言いたいよ、俺は
照れからそんな憎まれ口を叩きながら視線を逸らす敬一に明彦は笑顔になった。
わかったよ、ケイ。俺はこれからも御前との関わりは何も変えない。
それで大好きなケイが救われるってならずっと……
俺に言うよりユズちゃんに言ってくれる? ほんっとうに君は恥ずかしいんだから
そ、そんなの恥ずかしくて出来るか
まぁそうだよね、相変わらずヘタレだね
……うぅ
まぁしょうがないね、それがアキ君だから
ううう……
しょうがないから又助けてあげる
……微妙な気持ちだがそれは本気で頼む
はいはい……それに今はねアキ君、こんな俺を変えてくれそうな人が居るんだよ。だから俺はもう大丈夫。
……今度はもう、間違えないから
本当か?
俺は君には嘘なんて吐けないよ。まぁ誰かってのは秘密だけど……構いたくなる子が居るんだ
そうして敬一は愛おしそうに自分のスマホに最近追加されたある連絡先をなぞった。
そっかぁ……
……何で君は俺よりも嬉しそうなの
大好きなケイが再び前に進もうとしてる。嬉しいに決まってるだろ
……相変わらずさらっと恥ずかしい事言うなぁ。彼女には言えない癖に
そ、それを突っ込むのは無しだろ
そうだったね
そんな2人の楽しそうないつもの掛け合いを付近の電柱の影に隠れながら見守る人物が居た。
良く手入れされた黒髪を靡かせるその人物は驚いたような表情で呟いた。
……敬一君?
the end
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