私たちはバカな話をしつつ
夕方になるまで町のあちこちを歩き回った。

おかげで足は筋肉痛気味だし、
お肌だってかなり焼けちゃったと思う。
汗もたくさんかいた。


でも充実感があって
こういうのもたまにはいいかななんて
許せてしまう私がいる。

ちょっと自分でも意外な気分かも。
 
 

誉田 一政

次が最後だ。
そして僕の一番の
お薦めスポットだ。

 
 
私たちは傾きが15度くらいの
急な上り坂を歩いていた。


そこは自動車同士が
やっとすれ違える程度の狭い道幅なので、
歩行者はその車道の隅を歩くしかない。

しかも大型の路線バスも通っていて、
さらに交通量もすごく多いから
みんなで周囲に気を配りながら進んでいく。
 
 

鷲羽 早希

周りは住宅街なのに
なんでこんなに車が多いのかな?

誉田 一政

ここは明治時代より前から
主要道路だったのさ。
だからもともと交通量は多い。
道もくねくねとカーブしてる。

誉田 一政

その道路沿いに住宅が建って
そのまま発展してきた。
建物より道路が先なんだよ。

白井 菜由

だから道路の拡幅が
できないワケね。

誉田 一政

そういうこと。
区画整理をすれば別だけど
権利関係が複雑だから
なかなか難しいみたいだね。

鷲羽 早希

さすが誉田くん。
郷土資料館に
就職できるんじゃない?

誉田 一政

この程度、みんな知ってることさ。
アドバンテージにはならないよ。

鷲羽 早希

綾音はどう思う?

大河内 綾音

え……?
あ、そうだね……。

鷲羽 早希

っ?

 
 
なぜか綾音は上の空で、
生返事みたいな感じだった。


最初はあれだけテンションが高かったのに、
今はもうそれが見る影もなくなってる。

さすがに疲れたのかな?
 
 

誉田 一政

おっと、そろそろ前に
すごい景色が見えてくるぞ。

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
私たちは坂道を登り切った。

そしてその先に広がっていたのは
鮮やかな夕焼け空と遠くまで一望できる景色。
眼下に小さく見える街は茜色に染まっている。

正面の遠くには低い山並みが左右に伸びて
その奥には富士山が見える。


道路は奥に向かって
なだらかな下り坂になっていて、
ジェットコースターみたい。



私たちの町に……
こんな素敵な場所があったんだ……。
 
 

鷲羽 早希

…………。

鷲羽 早希

この景色……最高……。

誉田 一政

どうだ?
僕のとっておきの場所だって
説明しなくても分かるだろ?

鷲羽 早希

うん……。

 
 
私は景色に見とれながら返事だけした。
だってこの景色を
少しでも長く見ていたいから。

きちんと目の奥に焼き付けておきたいから。



写真にも撮りたいけど、
それじゃ伝わらない感動ってあるもん。

やばいかも……感動して泣きそう……。
胸の奥も火傷しそうなくらいに熱い……。

 
 
その時、すぐ横からパシャっと小さな機械音。
 
 

大河内 綾音

……はい、早希のベストショットを
いただきました。

大河内 綾音

早希も景色の写真撮りなよ。
このまま撮らないなんて
勿体ないよ?

鷲羽 早希

……うん、そうだね。
だけど今は記憶の中に
強く焼き付けておきたいの。

鷲羽 早希

誉田くん、
案内してくれてありがとう。
本当にここはいい景色だね。

誉田 一政

だろ? とっておきなんだ。

大河内 綾音

そうだ、この景色をバックに
全員で記念写真を撮ろう!
――すみませーんっ!

 
 
綾音は近くで小型犬の散歩をしていた
40代くらいのおばさんに声をかけた。

そして私たちは記念写真を撮ってもらう。




そのあと、私も景色の撮影を始めた。

ちょっと逆光気味だけど、
それがシルエットになっていい感じ。


一応、光を補正したパターンも撮ったけど、
それだと相変わらず面白味がないなぁなんて
自分でも思ったり。
 
 

鷲羽 早希

あっ……。

 
 
私は坂からの夕景を眺めている
綾音や菜由、誉田くんの姿に目を奪われた。

そして次の瞬間、
私の指は自然にシャッターを切っていた。



そこに写っていたいたみんなの姿、
なんて活き活きしているんだろう……。


楽しい気持ちや感動、興奮、美しさ――

様々な感情がひしひしと伝わってくる。
一度しかない高校一年生の
夏のきらめきが写真の中に凝縮されている。



私にもこんな素敵な写真が撮れたんだ……。

 

鷲羽 早希

ねぇ、みんな!

白井 菜由

どうしたの?

誉田 一政

ん?

大河内 綾音

私に愛の告白かっ?

鷲羽 早希

もう、綾音ったら……。

鷲羽 早希

あのね、
今、みんなの写真を撮ったんだけど
コンテストに出してもいいかな?

大河内 綾音

ほほお、見せてみたまえ。

 
 
私はカメラのディスプレイを
みんなの方に向けた。

すると3人はほぼ同時に感嘆の声を発する。
 
 

白井 菜由

よく撮れてるねっ!
うん、使っていいよっ!

誉田 一政

すげぇ、いい写真だっ!
これなら被写体の俺は
有名になること間違いなしだなっ♪

大河内 綾音

…………。

鷲羽 早希

綾音、ボーッとしちゃって
どうしたの?

大河内 綾音

感動しすぎて
声が出なかっただけっ!
もちろん、オッケーだよっ!!

大河内 綾音

やっぱり早希はすごいな……。
私じゃ勝てないよ……。

鷲羽 早希

またまたご謙遜をっ♪
これはみんなのおかけだよ。

 
 
うん、やっぱり私は考え過ぎちゃってた。

感情のまま力を抜いて撮ってみるって
こういうことだったのかも。
これならどんな結果になっても後悔しない。



そしてこの夕陽の色――
みんなと見たこの“夏色”を絶対に忘れない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
しばらく写真を撮影したあと、
私たちは坂道を離れて家路についた。

そして自宅の周りにまで戻ってくる。
 
 

大河内 綾音

家に着いたら、
記念写真のデータを
メールで送るね。

鷲羽 早希

うん、待ってる。

大河内 綾音

最高の思い出になったよ。
誉田、ありがとね。

誉田 一政

おいおいっ!?
急にどうした?
大河内がそんな態度だと
逆に気持ち悪いよ。

大河内 綾音

そっかな……へへへ……。

鷲羽 早希

綾音……っ?

 
 

私も綾音の態度に違和感を覚えた。

誉田くんが感じたのとは
違うタイプのものだと思うけど……。


うまく説明できない。
ただ、ネガティブ寄りなのは間違いない……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第14枚 みんなで見る夕景

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