部室を出た私は、
新たな被写体を求めて街を歩いていた。
こうなったら足で稼ぐしかないもん。
部室を出た私は、
新たな被写体を求めて街を歩いていた。
こうなったら足で稼ぐしかないもん。
あれ? 鷲羽さん?
あっ、大河内先輩っ♪
大学の帰りですか?
駅前を歩いていたら、
偶然にも大河内先輩とバッタリ会った。
はわわぁ、なんてラッキーなんだろう。
いつ見てもカッコイイなぁ。
ここを歩いていて良かったぁ……。
まぁね。
鷲羽さんは写真の撮影?
はいっ!
もしかしてコンテストのやつ?
そうです。
綾音はもう撮ってましたか?
あ……ど、どうなんだろ?
まだ撮ってないんじゃないかな?
急に大河内先輩の歯切れが悪くなった。
なんだろ、デジャビュのような……。
――そっか、終業式の日だ。
綾音がなぜか怒鳴ったあと、
大河内先輩は同じような態度になった。
なんなんだろう、この嫌な感じ。
私にとって良くないことが
伏せられているような気がしてならない。
それよりも時間があるなら
少し話をしない?
撮った写真を見せてよ。
お茶くらいなら奢るからさっ!
は、はいっ! 喜んでっ!
でも私が撮ってる写真の内容、
綾音には言わないでくださいよ?
ははは、それはないさ。
むしろ俺は綾音より
鷲羽さんに味方したいし。
えっ!?
あのバカ、調子に乗りすぎだから。
鷲羽さんに鼻を
へし折ってやってほしいもん。
そ、そうなんですか……。
そこまで言うのは、
さすがに綾音に可哀想だと思う。
だって大河内先輩にとっては実の妹でしょ?
それとも兄妹ってこんなものなのかな?
私はひとりっ子だからよく分からない。
私たちは近くの喫茶店へ入った。
そしてテーブルで飲み物を飲みながら
大河内先輩に写真を見せる。
――それにしても、
これっていわゆるプチデートみたいな?
周りから私たちってどう見えるのかな?
やっぱり恋人同士!?
あぁ、本当にそうだったらいいのにっ!
なるほど、前よりも
いい写真を撮るようになったね。
さすがに綾音も
うかうかしていられないな。
ホントですかっ!?
もともと鷲羽さんには
才能があったからね。
しかも努力を重ねて成長してる。
綾音の出る幕はないよ。
そんな……。
綾音は天才だから
私と同じように努力をしたら
すぐに追い抜かれちゃいますよ。
ふふ、綾音は飽きっぽいから
それはできないよ。
努力を続けられるというのも
鷲羽さんの才能なんだよ。
あいつ、きっと鷲羽さんの
そういうところを
羨ましく思ってるんじゃないかな。
っ!?
そうか……だから綾音は
私のことをすごいって
言ったのかもしれないな……。
アイツは完全にセンスだけで
写真を撮っている。
確かにある意味、
それは天才と言えるかもな。
はい、綾音は天才ですよ。
被写体の最もいい場面を見切って
その瞬間を切り取っています。
まるで写真の中に
時間を封じ込めたみたいな。
それは一理あるね。
だけどそれはそれ。
鷲羽さんは鷲羽さんの色をした
自分だけの写真を撮ればいい。
はい、そのつもりです。
コンテストで綾音以上の結果を
出せるようにかんばりますっ!
私は力強く言い放った。
でも大河内先輩はなぜか悲しげな顔をする。
そして少し沈黙したあと、
意を決したように私を見つめてくる。
鷲羽さん……実は……。
どうしたんですか?
…………。
大河内先輩はなぜか目を逸らして、
再び沈黙してしまった。
さっきから時々、様子がおかしい。
何か言いようのない胸騒ぎがしてならない。
告白――だったらいいんだけど、
そんな感じじゃないのは空気で分かる。
やがて大河内先輩は
いつもと変わらない笑顔を私に向けた。
まるで何事もなかったかのように……。
いや、なんでもない。
納得できる写真が撮れるといいね。
は、はい……。
私は一応、返事をする。
でも心の中には大きな不安が生まれ、
いつまで経ってもモヤモヤが消えない。
揚げ物ばかりを食べたあとのような
そんな気持ち悪さが続く。
この嫌な感じが
単なる気のせいだといいんだけど……。
次回へ続く!