部室を出た私は、
新たな被写体を求めて街を歩いていた。

こうなったら足で稼ぐしかないもん。
 
 

大河内 駿

あれ? 鷲羽さん?

鷲羽 早希

あっ、大河内先輩っ♪
大学の帰りですか?

 
 
駅前を歩いていたら、
偶然にも大河内先輩とバッタリ会った。


はわわぁ、なんてラッキーなんだろう。

いつ見てもカッコイイなぁ。
ここを歩いていて良かったぁ……。
 
 

大河内 駿

まぁね。
鷲羽さんは写真の撮影?

鷲羽 早希

はいっ!

大河内 駿

もしかしてコンテストのやつ?

鷲羽 早希

そうです。
綾音はもう撮ってましたか?

大河内 駿

あ……ど、どうなんだろ?
まだ撮ってないんじゃないかな?

 
 
急に大河内先輩の歯切れが悪くなった。
なんだろ、デジャビュのような……。



――そっか、終業式の日だ。

綾音がなぜか怒鳴ったあと、
大河内先輩は同じような態度になった。



なんなんだろう、この嫌な感じ。
私にとって良くないことが
伏せられているような気がしてならない。
 
 

大河内 駿

それよりも時間があるなら
少し話をしない?
撮った写真を見せてよ。
お茶くらいなら奢るからさっ!

鷲羽 早希

は、はいっ! 喜んでっ!
でも私が撮ってる写真の内容、
綾音には言わないでくださいよ?

大河内 駿

ははは、それはないさ。
むしろ俺は綾音より
鷲羽さんに味方したいし。

鷲羽 早希

えっ!?

大河内 駿

あのバカ、調子に乗りすぎだから。
鷲羽さんに鼻を
へし折ってやってほしいもん。

鷲羽 早希

そ、そうなんですか……。

 
 
そこまで言うのは、
さすがに綾音に可哀想だと思う。

だって大河内先輩にとっては実の妹でしょ?


それとも兄妹ってこんなものなのかな?
私はひとりっ子だからよく分からない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
私たちは近くの喫茶店へ入った。
そしてテーブルで飲み物を飲みながら
大河内先輩に写真を見せる。



――それにしても、
これっていわゆるプチデートみたいな?

周りから私たちってどう見えるのかな?
やっぱり恋人同士!?

あぁ、本当にそうだったらいいのにっ!
 
 

大河内 駿

なるほど、前よりも
いい写真を撮るようになったね。
さすがに綾音も
うかうかしていられないな。

鷲羽 早希

ホントですかっ!?

大河内 駿

もともと鷲羽さんには
才能があったからね。
しかも努力を重ねて成長してる。
綾音の出る幕はないよ。

鷲羽 早希

そんな……。
綾音は天才だから
私と同じように努力をしたら
すぐに追い抜かれちゃいますよ。

大河内 駿

ふふ、綾音は飽きっぽいから
それはできないよ。
努力を続けられるというのも
鷲羽さんの才能なんだよ。

大河内 駿

あいつ、きっと鷲羽さんの
そういうところを
羨ましく思ってるんじゃないかな。

鷲羽 早希

っ!?

鷲羽 早希

そうか……だから綾音は
私のことをすごいって
言ったのかもしれないな……。

大河内 駿

アイツは完全にセンスだけで
写真を撮っている。
確かにある意味、
それは天才と言えるかもな。

鷲羽 早希

はい、綾音は天才ですよ。
被写体の最もいい場面を見切って
その瞬間を切り取っています。

鷲羽 早希

まるで写真の中に
時間を封じ込めたみたいな。

大河内 駿

それは一理あるね。
だけどそれはそれ。
鷲羽さんは鷲羽さんの色をした
自分だけの写真を撮ればいい。

鷲羽 早希

はい、そのつもりです。
コンテストで綾音以上の結果を
出せるようにかんばりますっ!

 
 
私は力強く言い放った。

でも大河内先輩はなぜか悲しげな顔をする。
そして少し沈黙したあと、
意を決したように私を見つめてくる。
 
 

大河内 駿

鷲羽さん……実は……。

鷲羽 早希

どうしたんですか?

大河内 駿

…………。

 
 
大河内先輩はなぜか目を逸らして、
再び沈黙してしまった。

さっきから時々、様子がおかしい。



何か言いようのない胸騒ぎがしてならない。
告白――だったらいいんだけど、
そんな感じじゃないのは空気で分かる。


やがて大河内先輩は
いつもと変わらない笑顔を私に向けた。

まるで何事もなかったかのように……。
 
 

大河内 駿

いや、なんでもない。
納得できる写真が撮れるといいね。

鷲羽 早希

は、はい……。

 
 
私は一応、返事をする。

でも心の中には大きな不安が生まれ、
いつまで経ってもモヤモヤが消えない。


揚げ物ばかりを食べたあとのような
そんな気持ち悪さが続く。

この嫌な感じが
単なる気のせいだといいんだけど……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第11枚 大河内先輩とデート?

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