天王寺部長が手渡してきた2枚の写真。
大きな違いは
カラーかモノクロかということくらい。


でもきっとこれには何か意味があるはずだ。
だからこそ、提示してきたんだと思うし。

私は目を凝らして眺めてみる。
 
 

鷲羽 早希

確かに受ける印象は違うけど……。

 
 
カラーの方は現実味があって
状況がよく伝わってくる。

一方、モノクロは何か時代を感じさせて
すごく昔の建物に見える。
でも迫力や印象はモノクロの方が強いかも。


そうか、そういう利点があるから
天王寺部長はモノクロ写真に
こだわっているのかも。

――ちょっとした発見だなぁ。
 
 

鷲羽 早希

確かにモノクロの方が
強く印象に残りますね。
視覚情報が限定されている分、
そう感じるのかもしれません。

天王寺 那珂也

ふふ、そうか。
鷲羽にはそう見えたか。
だがな、それは気のせいだ。

天王寺 那珂也

同じものを撮影したんだから
印象だって同じに決まっている。
違いがあったとしても、
そんなものは微々たる差さ。

鷲羽 早希

なっ!?

 
 
天王寺部長はニヤニヤしながら
サラッと言い放った。

私は呆然としたまま言葉を失ってしまう。
 
 

天王寺 那珂也

写真というのは見る人間によって
印象も評価も大きく変わる。
事実、俺はその写真、
カラーの方がいいと思うからな。

天王寺 那珂也

カラーとモノクロの差なんて
微々たるものさ。そして評価は
個人の好みに左右される割合の方が
圧倒的に高い。

 
 
私はそうじゃないと思うけどなぁ。

それにその理屈なら、
天王寺部長の行動に疑問が残る部分がある。
私はそのことをぶつけてみる。
 
 

鷲羽 早希

だったら天王寺部長は
何でモノクロの銀塩写真に
こだわるんですか?

天王寺 那珂也

別にこだわっているワケじゃない。
たまたま結果的に
そうなっているというだけだ。

鷲羽 早希

結果的に?

天王寺 那珂也

答えはさっき鷲羽自身が
口にしていたじゃないか。

鷲羽 早希

えっ?

天王寺 那珂也

さっき言ってただろ。
フィルムは面倒臭いって。
そういうことさ。

鷲羽 早希

意味が分かりません。

 
 
フィルムは面倒臭い。それは確か。
だって撮ったら現像をしないといけないし、
プリントもしないといけない。

つまりデジカメと違って
撮ったその場で写真の確認が
できないってことでもある。


ネガだって時間が経てば劣化するから
きちんと管理しないといけない。
面倒臭さの大パレードだ。



便利なデジカメがあるんだから
そっちに移行するのは自然な流れだし、
そうしてる人だって多い。

天王寺部長の言動が理解できないよ……。
 
 

天王寺 那珂也

面倒臭いというのは
手間がかかるからだろ?
でもそれだけ自分で作った感が
強く残るということでもある。

天王寺 那珂也

鷲羽は“DIY”って知ってるか?

鷲羽 早希

“Do it yourself”のことですか?

天王寺 那珂也

そうだ。日曜大工のことだな。
つまり自分で作る楽しみ。
だから俺は自分で現像して
写真を焼いているんだ。

天王寺 那珂也

モノクロなのは単価が安いからだ。
部費が青天井ならカラーで焼くよ。

 
 
天王寺部長はメガネの位置を直しながら
頬を緩めた。


そっか、カラーは現像に使う薬品が
モノクロと比べて高いもんね。
手軽さという意味では色々とハードルも高いし。


カメラ屋さんに現像に出した方が安いし
仕上がりも確実かも……。
 
 

天王寺 那珂也

作品の善し悪しなんて、
いくらでも変わる。
でも自分で作る楽しみは絶対だ。

天王寺 那珂也

自分が良いと思ったシーンを
撮影して現像して焼く。
全ての行程を自分でやる。
そこに楽しさがあるんだ。

鷲羽 早希

じゃ、天王寺部長は
作品の内容はどうでもいいって
思ってるんですか?

天王寺 那珂也

そうではないが、比重は小さいな。
ただし、コンテストに出す作品は
誰かの目に触れるものだと
意識して撮る。

天王寺 那珂也

いわゆる自分の中で
棲み分けをしているのさ。
DIY的な写真とコンテストの写真。
同じである必要はないわけだろ?

鷲羽 早希

確かに……。

 
 
そうだ、思い返してみれば
天王寺部長がデジカメを使っている時って、
コンテストや写真展などへ
作品を出す前後ばかりだったかも。

あとはほかの部や
先生たちから撮影を依頼された時とか。


そういうことだったんだぁ……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第9枚 カラーとモノクロの違い

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