鷲羽 早希

はふぅ~。
やっと涼しくなってきたぁ~♪

 
 
私は冷房の入った部室の中で
扇風機に当たっていた。

おかげでかなり涼しくなってきた。


ちなみにこの扇風機は
現像したネガや焼いた写真を乾かすのに
使われている小型のものだ。

すると暗室で道具の準備をしている
天王寺部長の声が聞こえてくる。
 
 

天王寺 那珂也

冷蔵庫に入っている
俺の私物のサイダー、
少しなら飲んでもいいぞ。
ただ、冷蔵庫のドアは
素速く開閉しろよ。

鷲羽 早希

はーい、分かってまーす。

 
 
私は自分のロッカーの中から
マグカップを取り出してテーブルの上に置いた。
そして部室の冷蔵庫のドアを開ける。


あぁ、中は冷気に包まれていて涼しい……。


かなり年期が入っていてオンボロだけど
充分に稼働してくれている。



冷蔵庫内にはモノクロフィルムが
所狭しと並べられていて感度やメーカーも様々。
カメラ屋さんのフィルム売場みたい。

そうした物の隙間にできた狭い範囲に
部員それぞれの飲み物や食べ物などの私物が
詰め込んである。



当然、1人当たりのスペースはわずかなので
すぐに一杯になっちゃうんだよね。
 
 

鷲羽 早希

んしょっ……と……。

 
 
私は1.5リットルのペットボトルに入った
サイダーをカップに注いだ。
するとシュワシュワという微かな音と
ほのかな甘い香りが伝わってくる。


私は椅子に座り、それを一口。

口の中や喉がすごく心地いい。
この爽快感が炭酸飲料の良さだよね。
 
 

鷲羽 早希

天王寺部長、
冷蔵庫で保管している
フィルムの量を
少しは減らしてくださいよぉ。

天王寺 那珂也

フィルムは生ものだ。
冷蔵庫保管が基本だと
鷲羽だって知っているだろう。

鷲羽 早希

そりゃ、知ってますけど、
あれじゃ飲み物とか食べ物とか
入れるスペースが足りませんよぉ。

天王寺 那珂也

馬鹿者! それでは本末転倒だ!

 
 
そう言いながら天王寺部長は
こちらの部屋に戻ってくる。

そして鋭い目つきで私を睨みながら
冷蔵庫をポンポンと軽く叩いた。
 
 

天王寺 那珂也

これはフィルム保管用として
先輩方が部費を少しずつ積み立てて
やっと購入したものだ。
本来の目的を放棄してどうする?

鷲羽 早希

やっぱりダメですか。
能代先輩のこと、
頭が硬いって言ってましたけど
人のことは言えないような……。

天王寺 那珂也

それにあのフィルムは
数に制約はあるが、
部員なら自由に使っていいんだぞ?

鷲羽 早希

現像も自分でやるっていう
条件付きじゃないですか。
みんなそれが面倒臭いから
使わないんですよ。

天王寺 那珂也

面倒臭い……か……。

 
 
天王寺部長はため息混じりに呟いた。
少し寂しそうな顔をしているようにも見える。

そのあと、天王寺部長はパイプ椅子に座り、
私の方へ視線を向けてくる。
 
 

天王寺 那珂也

ところで、鷲羽はさっき
なぜ俺が銀塩写真に
こだわっているのか
知りたいと言っていたな?

鷲羽 早希

はい、それを教えて
いただけるんですよね?

 
 
すると天王寺部長は
横にあるロッカーへ手を伸ばし、
中から印画紙の入った箱を取り出した。

それを開け、中から写真を2枚選別して
私へ手渡してくる。
 
 

天王寺 那珂也

その2枚は同じ場面を
撮影した写真だ。
一方はカラー、一方はモノクロ。
どうだ、何か違いを感じるか?

鷲羽 早希

えっと……。

 
 
写真に目を落としてみると、
どちらもうちの高校の校舎を
撮影したものだった。


確かに構図は同じで、
多少の違いはあるものの大きな差はない。

カラーかモノクロか、
本当にそれだけの違いのようだった。


私はそれをじっくりと眺めてみる。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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