4年3組と表記された教室まで敬一は2人を追って来た。
 2人を追って中に入ろうとするが、しかしそれは敵わない。
 何故なら敬一自身が同級生の女児達の注目の的になってしまったからである。

同級生1

ねぇねぇ君だぁれ?

同級生1

去年は居なかったよね?

同級生1

私達と同い年?

敬一

うわぁすっごい好機の目。それにそれだけじゃないなこれ……オレの事すっごい高く評して見ている気がする。
これじゃあ逃げられないなぁ

 敬一は面倒に思ったが、諦めてこの状況を活用する方法を考える。

敬一

しょうがない。こうなったら話に乗ってやってついでにあの2人の情報を聞き出すか

 上から目線な考えでもあるが即座にこうやって切り替えられるのも天才故の事である。

 敬一は家に来る大人達に対してやるような完璧な笑顔の演技で会話に応じた。

敬一

オレの名前は神谷敬一って言うんだ。今日から君達と同じこの学校で4年生になるけど元々は違うところに通っていて、転校して来たんだ。
オレのお父さんとお母さんが忙しい人達でね……

同級生1

へぇ転校って大変そうだね~すごいね~

同級生2

わからないことがあったら言ってね!
教えてあげるよ

敬一

オレ成績とかも良いし勉強も出来る方だからそんなに困らないとは思うけど、その時は宜しく

同級生3

そ、そうなんだ。お父さんとお母さんは何をやってるの?

敬一

お父さんはお医者さん、お母さんは看護師さんだよ。だから転校が多いんだよね~。
お陰でもう慣れたしどんな学校行こうが成績トップ取れるレベルだから全然苦労しないんだけど

 敬一は何とはなしに事実を話しているつもりなのだが、女児達は引いていた。

同級生3

ふ、ふーんそうなんだ

同級生2

あ、私達行くね

同級生1

う、うん。行こっ

敬一

え? ちょっと待ってよ。
オレ聞きたい事あるんだけど

 敬一は呼び止めたが彼女達はもう耳を貸さなかった。

敬一

このオレが失敗するなんて……だから新しい学校は嫌なんだ。
大体呼び止めたのそっちじゃん

 内心でそんな風に思う。でもそれが良かったのかも知れない。
 そのお陰で敬一はある出会いをするからだ。

???

聞きたい事って何か困ってるの?

 敬一の発言に引いて去っていった女児達とは明らかに違う男児の声が横から敬一に問い掛ける。

 周辺への注意を怠っていた敬一は驚いて思わず声を上げた。

敬一

うわぁっ

???

あ、ごめん。驚かせるつもりは無かったんだけど……君の様子が気になって

 本当に申し訳無さそうなその声に落ち着いて相手を視界に捕らえれば靴箱から気になって追っていた男児がそこに居た。

敬一

君は……

 まさかの相手に思わずそう漏らした敬一に彼は笑顔で名乗る。

???

白峰明彦って言うんだ。宜しくね。
えーっと……

 そんな彼の優しい雰囲気に押されるように敬一も名乗った。

敬一

敬一。神谷敬一だよ。明彦君って呼んでも良いのかな?

明彦

うん。それか皆は良く『アキ』って渾名で呼ぶよ

敬一

そうなんだ……じゃあアキ君、で。
オレの事も渾名で呼んで良いよ

明彦

じゃあケイ、ね!宜しく

敬一

うん宜しく、アキ君

明彦

でもケイは何でボクとユズちゃんを見てたの?

敬一

ユズちゃん?

明彦

あ、ごめん。わからないよね。
ボクと一緒に靴箱から教室に歩いていった女の子は松原結月って言うんだ。だからユズちゃん

敬一

ああ、あの子か。
……やっぱアキ君は気付いてたんだねオレが2人の様子を観察してるって

明彦

うん。ボクがユズちゃんを守るって決めてるから結構周りは見る方なんだ

敬一

凄いねアキ君……そういう事言えちゃうんだ

明彦

え、何か変だったかな?

敬一

変って言うか……素直で格好良いなって

明彦

そうかな? ありがとう

敬一

でもさ、それって辛くない?

明彦

え?

敬一

だってあの子……そんな君の想いなんて全く気付いてないし、気付こうともしていないように見えた

 敬一のその言葉に少し明彦は沈黙した。

明彦

…………

 その後笑顔で静かに言う。

明彦

……凄いなケイって。ちょっと見ただけでそこまでわかっちゃうんだ

 その笑顔が敬一には泣いているように見えて、何か言わなければならないと思わせた。

 すると……

敬一

そんな事言ってくれたのはアキ君が初めてだよ。皆気持ち悪いって言うからね

 全く言うつもりが無かった自嘲するような言葉が自然に出た。
 しかし驚いたのは一瞬で、今度は自分の意思で続ける。

敬一

小さい頃から厳しい教育を受けてきたらいつの間にかオレ、表情からその人の気持ちを全部読み取れるようになっていて……皆見透かされるのに怯えて近付かなくなる

 いつものように何か言葉を掛けて貰う事を望んで言ってる訳でも無いしどんな反応が来るのか予想して話している訳では無いが、そうやって自分を曝け出せる事はとても気持ちが良かった。
 初めての感覚だった。

敬一

だけどアキ君は違うんだね……やっぱりオレとどこか似ているからかな

明彦

……似てる?

敬一

オレもさ、知ってるんだ。
一生懸命気持ちを伝えようとしてるのに……受け取ろうとさえしてくれないって感覚。
だからアキ君達の会話の様子から目が離せなくて見ていたんだ。
オレと重なって見えて

明彦

……そうだったんだ

敬一

気にさせちゃったみたいでごめん……でもオレはあの子に何かするつもりは無いし、仲良くしてくれると嬉しいな

 今までの自分からは考えられないような素直な言葉だが、似たもの同士だからか明彦には言えた。

 両親とは違う明彦はしっかりとその気持ちを受け取ってくれる。

明彦

勿論だよ

 互いを曝け出した出会いの会話がきっかけで友達になった2人は時が経つにつれ、互いに親友のような感覚になる。
 常に明彦の傍に居る結月もそのうち敬一とも仲良くなって、それからは3人で帰宅するのが恒例になっていった。
 敬一が再び転校する……小学校6年生になるまでは……。

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