商店街を離れた私は
自宅のすぐ近くまで戻ってきた。
すると生活道路の片隅で
挙動不審な男子がいるのが目に留まる。
彼は周囲を気にしつつ何かを調べているみたい。
私は気付かれないように
ソロリソロリと静かに後ろから近付く。
商店街を離れた私は
自宅のすぐ近くまで戻ってきた。
すると生活道路の片隅で
挙動不審な男子がいるのが目に留まる。
彼は周囲を気にしつつ何かを調べているみたい。
私は気付かれないように
ソロリソロリと静かに後ろから近付く。
わっ!
んぎゃぁああぁっ!
うわぁあああぁっ!
驚かすつもりが、
彼の大声に驚いて私までビックリしちゃった。
思わず声を上げてひっくり返りそうになる。
なっ、なんだ鷲羽さんか。
驚かせないでよ……。
うふふっ、ゴメンねっ♪
久しぶり、誉田くん!
おぉっ! そう言われてみれば、
会うのは中学の卒業式以来かぁ!
鷲羽さん、元気そうだねっ?
うん、まぁまぁかな。
彼は中学時代にクラスメイトだった
誉田 一政(ほんだ かずまさ)くん。
今は都心にある私立の進学校へ通っている。
当時から誉田くんは歴史――
特に郷土史に興味があって、
こうして街の中を取材していた。
つまりまだそれを続けているみたいだね。
写真部だった私は
歴史部の顧問の先生からの依頼もあって、
撮影の手伝いをしたことが何度もある。
誉田くんとはそれで仲良くなったんだよなぁ。
そういえば、
その時の写真も学校の暗室で焼いたっけ。
誉田くんは相変わらず取材?
まぁね。地元のことって
日常の中に溶け込んでいるから
普段は意外に注意深く見ない。
だから発見の連続で楽しいよ。
全く飽きる気がしない。
今だって道祖神様を見つけたんだ。
きっと明治時代よりも前に
創られたものだと思う。
誉田くんの指差す先には、
手のひらサイズの石像が建てられていた。
隣にあるお地蔵様の影にに隠れているから
注意深く見ないと気付かないと思う。
それを見つけるなんて、
さすが誉田くんだなぁって感心しちゃう。
よくこんな小さいものに
気付いたね?
実は偶然なんだよ、僕も。
最初はこのお地蔵様を
調べていてね。
きっと歴史の神様が僕を
導いてくれたんだろうね。
ふーん、そうなんだ。
歴史の神様……かぁ……。
誉田くんらしい捉え方だと思う。
それでもやっぱり見つけられたのは、
好奇心と探求心の賜物だと思う。
偶然じゃなくてきっと必然だったんだよ。
――なんて、私も少し彼の影響を
受けちゃったかな?
……にしても、鷲羽さん。
少し見ないうちに
一段ときれいになったね。
なっ!?
からかわないでよっ!?
照れくさくて顔がどんどん熱くなってくる。
きれいになったなんて、
嫌な気はしないけどやっぱり焦っちゃう。
するとそんな私の姿を見て
なぜか誉田くんはプッと小さく吹き出す。
まぁ、お世辞半分、
本音半分ってところかな。
っ!?
も、もうっ、何よそれぇっ!
そういうのは思ってても
言わないでよぉっ!
あっははははっ!
ゴメンゴメン。
ところで鷲羽さんこそ、
写真は続けてるの?
あ……うん……。一応ね……。
鷲羽さんは腕がいいからなぁ。
良かったら、
また撮影を手伝ってくれない?
時間がある時でいいからさ。
……いいよ、
私みたいな下手くそで良ければ。
私は苦笑しつつ、つい自虐的に言ってしまった。
綾音と比べて結果の出ないことに、
少しは自棄になっていたのかもしれない。
事実とはいえ、やっぱり悔しいから。
誉田くんだってきっと
さっきみたいに社交辞令で
腕がいいって言ってくれているんだろうし。
すると誉田くんは急に真面目な顔になって
私を見つめてくる。
あのさ、
鷲羽さんはもっと自分に
自信を持った方がいいよ。
えっ?
ちょっとビックリした。
だって綾音にも同じことを言われてたから。
もっと自分に自信を持て、か……。
鷲羽さんは
下手くそなんかじゃない。
僕は鷲羽さんの撮った写真を
評価している。
これは100%本音だ。
そうじゃなきゃ、
大切な研究に使う写真を
撮ってくれなんて言わない。
あ……。
私は胸がドキッとした。
確かに誉田くんの研究に対する情熱は
筋金入りだし、
その姿勢だってすごく真面目だ。
そのことは私もよく知っている。
だから今の言葉には説得力があるし、
嘘じゃないって信じられる。
……ありがと。
そう言ってもらえると嬉しい。
それならまた連絡するよ。
連絡先は変わってないんでしょ?
うん。
じゃ、そろそろ僕は取材に戻るね。
またね。
なんだか誉田くんと話をして、
少しだけ元気が出た。
私も今度のコンテスト、
いつも以上に気合いを入れてみようかな?
そして今度こそ綾音に負けないような作品を
撮ってみせる。
――ううん、絶対に勝つんだ!
次回へ続く!