しばらく待ってもメイドは戻って来なかった・・・。
しばらく待ってもメイドは戻って来なかった・・・。
こりゃだまされたか?
とはいえ、長くライター生活をしているとこんな事態には時たま遭遇する。俺はメイドの様子を確かめようと廊下に出てみた!
こ、これはクセナキスのEvryali
普通の人にはデタラメな不協和音にしか聴こえないだろうが、音大中退の俺のテンションは上がった!エヴリアリ。現代音楽の巨匠、ヤニス・クセナキスのピアノ独奏曲がこんなところで聴けるとは!超高音域と超低音域を同時に使った連打音をピアニストの技術的限界まで使用するこの超難曲を弾きこなせるなんて!こいつは間違いなく本物だ!
俺は、憑りつかれたように音のするほうへ歩いていった!すると・・・
な、なんだ!
ど、どうしたんですか?
あ、これは・・・すみません。
部屋に戻った俺に、メイドさんはすまなそうにこう言った。
申し訳ありません・・・。お嬢様が私の説得に応じなくて・・・出てきて下さらないのです・・・
ええっ、彩音さんは取材にOKしていないのですか・・・?
すみません・・・・。引きこもりを抜け出すきっかけになればと私が勝手に投稿したもので・・・
そうですか・・・。
こうなると指が6本というのも怪しいところだ・・・。いくらピアノの天才でもただの引きこもりの女じゃ記事にはしにくい・・・。
とはいえ、音大中退の元ピアニストとしては、大いに興味はそそられる展開だ。
まあ、うちの雑誌は「面白いウソはウソじゃない!」がモットーだから、ドア越しにでもいいから取材して話を膨らませ、本当に指が6本あるのか結論はうやむやな記事にするのがよさそうだ!
せっかく東京から来たのだし・・・何とかドア越しでもいいので取材させていただけませんかね?
そうですよね!それでしたら多分大丈夫かと・・・
何とか元は取れそうだ!だがそう思った次の瞬間、思わぬ人物が現れた!
こらっ!富美子!お前、庭の手入れはどうなってるんだ!
あっ、ご主人様!申し訳ありま・・
ふざけるな!メイドの分際で!!
突然現れた観音寺家の当主とみられる老人は、俺の見ている目の前でメイドを殴りつけた!
ちょ、ちょっと何ですか・・・突然、止めてください!
はあ?何だ貴様は?
すみません、申し遅れました!自分、ストリエ出版の有馬と申します。お嬢様の件で取材をと思いまして・・・
なんだと・・・貴様・・・
出版と聞いたとたん、老人の顔色が変わった!体をわなわな震わせ猛烈な勢いで怒り始めた!
ブンヤが何の用だ!!出ていけ!今すぐ出て行かんか!!
ええっ・・・
彩音なんて女はここにはおらん!さっさと出ていかないと警察をよぶぞ!!
結局、俺は逃げるように館から去るほかはなかった・・・。