だけどナイフが心臓に突き刺さる寸前、
僕は動きを止めてそれを鞘に収めた。

そしてニッコリとサキュバスに微笑みかける。


当然、サキュバスは何が起きたのか分からず
混乱しているみたい。
 
 

トーヤ

……驚いた?
もうこんな悪事をしないって
約束してくれるなら、
何もなかったことにしてあげる。

エーデル

えっ?

トーヤ

もちろん、カレンの解放や
クロードたちの呪いを解いた上で、
罪を償うって条件は付くけどね。

エーデル

どう……して……。

トーヤ

僕、薬草師だから
傷付けるのは好きじゃないんだ。
話して分かる相手なら
平和的に解決したい。

トーヤ

もし約束できないなら、
戦うのも仕方ないけどね。

エーデル

……アンタ、本当に魔族なの?
甘すぎると思うけど?
もしここで約束したとして、
いつか破るとも限らないのに。

トーヤ

かもね。
でも僕の憧れている親友が
そういう人だから
僕もそうありたいんだよ。



僕はアレスくんの顔を思い浮かべた。

きっと彼が僕と同じ立場だったら
こういう判断をするに違いない。


そんな僕の言葉を聞いて
サキュバスは半ば呆れながら大きく息をつく。
 
 

エーデル

うん、分かった。約束する。

トーヤ

ホントっ?

エーデル

――なんて言うわけが
ないだろうっ!

トーヤ

っ!?

 
 
サキュバスは不意に態度を豹変させた。

敵意に満ちたオーラを漂わせながら
隠し持っていた小刀で
僕に斬りかかってくる。


その切っ先は僕の喉元へ向かってきて――
 
 
 
 
 

セーラ

やぁああああぁーっ!

 
 
 
 
 
やられると思ったその時、
バトルアックスでドアを破壊しつつ
セーラさんが突入してきた。


その勢いのまま、
斧の背の部分でサキュバスに重い一撃!

サキュバスの体は壁まで吹き飛んで
そのままグッタリとする。
ただ、意識は失っていないようだ。


そしてセーラさんに続き、
ライカさんも部屋に入ってくる。
 
 

トーヤ

セーラさん、
それにライカさんまで……。

ライカ

ご無事ですか?

トーヤ

は、はい……。

セーラ

チェックメイト……なのですぅ。

 
 
セーラさんはサキュバスに
バトルアックスを突きつけたまま、
冷たい瞳で見下ろしていた。

それで観念したのか、
サキュバスはガックリと項垂れる。
 
 

エーデル

ぁ……っ……。

セーラ

ライカちゃん、
とりあえずこのサキュバスに
縄をかけてほしいのですぅ。

ライカ

承知しました。

 
 
セーラさんの指示を受けると
ライカさんは持っていたカバンの中から
ロープを取り出して、
サキュバスをグルグル巻きにした。


あれならもう逃げられないし、
魔法だって唱えられないはず。

警戒を緩めるわけにはいかないけどね……。
 
 

トーヤ

どうして2人がここへ?

セーラ

トーヤくんたちが
こっそり宿を出て行くのに気付いて
付けてきたんですよぉ。

エーデル

このストーカー女!
男女の逢い引きを覗くなんて
趣味わるぅ! ドスケベ!

セーラ

うるさいですよぉ、そこぉ!

 
 

 
 

エーデル

ぎゃ!

 
 
セーラさんはニコニコしながら
サキュバスの顔を
バトルアックスの柄で小突いた。


ただ、セーラさんは力が強いから
それでも相当痛いんだろうなぁ。

この期に及んで口の減らないサキュバスも
悪いんだろうけど、ちょっと可哀想。
 
 

セーラ

覗きのワケが
ないじゃないですかぁ!
興味がないとは言いませんけどぉ♪

トーヤ

セ、セーラさん、
相変わらずだなぁ……。

ライカ

セーラさんは
最初からカレンさんが
偽物だと気付いていて
警戒していたそうなんです。

トーヤ

えぇっ?

 
 
偽物だって気付いていたのっ!?

ど、どうしてっ?
僕だって気付くのに時間がかかったのに!


何か手かがりになるような違和感って
あったかなぁ……?
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第91幕 激しく動く主導権

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