僕は両手でカレンを突き飛ばした。

そして腰に差していたナイフを
即座に握りしめ、
切っ先を向けながら距離をとる。
 
 

カレン

っ!? な、何をするの?

トーヤ

……僕に近付くな。

カレン

なんでそんなことを言うの?
もしかして、
突然のことで混乱してる?
大丈夫、安心してよ。

トーヤ

お前はカレンじゃない!
カレンを騙るなんて
僕は絶対に許さない!

カレン

私は本物よ、信じて……。

 
 
瞳を潤ませながら僕を見つめてくる
カレンの偽物。
でもその反応にも違和感がある。


コイツはまた墓穴を掘ったみたいだね。
 
 

トーヤ

もし本物のカレンなら
僕が偽物だって指摘した時点で
顔を真っ赤にしながら
激怒するはずだけど?

カレン

っ!?

トーヤ

もしそれでも本物だって
言い張るなら、
高等麻酔薬のビリビノイドの
主な原材料を言ってみてよ?

カレン

マンドラゴラの実と根、
悪魔草の汁、カラス茸、
闇の輝石の粉でしょ?

トーヤ

……正解。

 
 
僕は正直に頷いた。

だって原材料を完璧に言い当てたから。
薬草師として、違うとは言えない。


ただ、一方で今の答えを聞いて
僕は曖昧だったものが確信へと変わる。
 
 

カレン

良かった。
これで私が本物だって
信じてもらえるわよね?

トーヤ

カレンはビリビノイドの作り方、
知らないんだよ。
これでキミが偽物だって
明らかになったね。

カレン

なっ!?

トーヤ

クロードたちに変な薬品を
飲ませたでしょ?
だから犯人には薬の知識が
あるって思って鎌をかけたんだ。

トーヤ

ゴメンね、騙しちゃって。
でもお互い様だよね?

 
 
僕が微苦笑すると、
偽物の姿が湯気のように揺らめいた。

そしてとうとうサキュバスは正体を現す。


やっぱり幻影魔法か変身魔法か薬か、
とにかく何らかの手段で
カレンそっくりに化けていたんだね。
 
 

エーデル

ふ……ふふふ……
これは一杯食わされたわ。
どうして私が偽物だって
気付いたの?

トーヤ

クロードたちとか、
目の前に苦しんでいる人がいる時に
カレンが自分の欲望のために
僕に嘘をつくわけがないもん。

トーヤ

それにカレンはもっと不器用で
高潔な子だよ。
こんな誘い方、絶対にしない。

エーデル

ふぅ~ん。

トーヤ

あと、カレンとは匂いも違う。
カレンはいい匂いに混じって
かすかに薬品の匂いもするからね。

トーヤ

僕は薬草師だけあって、
普通の人より嗅覚が敏感なんだ。

 
 
匂いが違うって気付いたのは、
すぐ隣まで接近されたからなんだけどね。

微妙な違いだったけど、僕には分かったんだ。


――職業病みたいなものかな?
 
 

トーヤ

ほかにも色々と理由があるけど、
まだ聞きたい?
僕とカレンの絆、
甘く見ないでもらえるかな?

エーデル

私、ますますあなたのことが
気に入ったわ。
それなら力ずくで
あなたを手に入れさせてもらう!

トーヤ

……っ!

 
 
サキュバスは何かを呟いた。

すると手のひらに黒い霧のようなものが
揺らぎ始める。



もしかして何かの魔法っ!?

避けるか防ぐか、
とにかく対処をしないとまずい!


――と、思ってる間にサキュバスは
僕の方へ手のひらを突き出す!
 
 

エーデル

はぁあああぁーっ!

トーヤ

っく!

 
 

 
 
僕は目を瞑り、
咄嗟に腕で防御の姿勢をとったものの、
黒い霧の直撃を食らってしまった。


このあと僕はどうなるのだろうかと
ビクビクしていたんだけど――
 
 

 
 
 
 
 

トーヤ

……あれ?
なんとも……なってない?

 
 
不思議なことに、
体には何の異常も起きていなかった。
痛みはないし、気分だって変わらない。

かといって、
時間差で効果が出る感じでもなさそうだ。


一方、サキュバスは目を白黒させながら
呆然と立ち尽くしている。
 
 

エーデル

嘘……魔法が効いていない?
確かに悪夢(ナイトメア)の魔法を
かけたはずなのに!

トーヤ

そうか、僕に状態異常無効化の
特殊能力があるって知らないんだ。

トーヤ

今度は僕が攻撃する番だよ?
覚悟はいい?

エーデル

ひっ!

トーヤ

やぁああああぁっ!

 
 
僕はナイフを強く握りしめ、
サキュバスに向かって突進していった。

もはや打つ手なしと覚悟したのか、
サキュバスは恐怖に顔を引きつらせたまま、
避けようともせずに佇んでいる。


あっという間に僕とサキュバスの距離は縮み、
切っ先は相手の心臓へ!
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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