学校を出た私たちは
商店街の入口までやってきた。


最近は商店街に元気がなくなってきてるとか、
シャッターが閉まったお店ばかりとか
景気の良くない話をよく聞く。

でもここの商店街は活気がある方で、
特に夕方になると多くのお客さんたちで
賑わっている。



そしてこの商店街で
お総菜屋さんをしているのが菜由の家、
和菓子屋さんをしているのが綾音の家なのだ。
 
 

鷲羽 早希

じゃ、私はここで。

大河内 綾音

うちに寄ってかない?
新作の和菓子、
つまみ食いしていきなよ。
荷物を持ってもらったお礼。

鷲羽 早希

つまみ食いって……。
せめて味見とか試食とかって
言いなよ……。

大河内 綾音

同じようなものじゃん。
菜由も来るでしょ?

白井 菜由

そうだね、今日は夕方まで
まだ時間に余裕があるし。

鷲羽 早希

でもお昼ご飯はどうするの?

大河内 綾音

うちで食べていきなよ。
ジャーにご飯くらいは
あるだろうし。

鷲羽 早希

もしかして、それ……。

 
 
私は嫌な予感がした。

ジャーにご飯ということは、
おかずは用意しないといけないわけで。



以前、同じような状況でその解決手段に
付き合わされたことがある。
そして恥ずかしい想いをしたんだよね。

おそらく綾音がやろうとしているのは……。
 
 

大河内 綾音

おかずは商店街バイキング♪

鷲羽 早希

それ、前に綾音のおじさんに
怒られたでしょ!
ダメだよっ! 恥ずかしいしっ!

 
 
私は即座に反対した。


商店街バイキングというのは、
お弁当箱にご飯を入れて持ち、
色々なお店を周りながら
おかずを食べ歩くというのもの。


あれほど恥ずかしい想いをしたことはない。
もし内容を知ってたら
絶対に付き合わなかったよ……。



でも綾音は何度もやっているらしく、
お店の人とも顔なじみということもあって
どんどんオマケをしてもらっていた。


で、家に帰っておじさんの猛烈な雷が
綾音に落ちたわけで。

ホントに懲りないなぁ、綾音も……。
 
 

大河内 綾音

早希は真面目だねぇ……。

鷲羽 早希

真面目というか、
それが当たり前だからっ!

大河内 綾音

じゃ、店のお餅を食べるしか
なくなるよぉ。

白井 菜由

だったらうちのお店から
適当におかずを見繕って
持っていってあげるよ。
2人は綾音の部屋で待ってて。

大河内 綾音

おぉっ! ナイスアイディア!

白井 菜由

最初に気付きなよ……。

 
 
菜由は苦笑しながら深いため息をついた。


うん、その方が普通だよね。
綾音が最初にそういう発想に至らないのは
なぜなんだろう?

これも天才ゆえのことなのかな……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
綾音の部屋はお店の2階にある。


仕事をしているおじさんとおばさんに
挨拶をして中に入り、
靴を脱いで階段を上がっていく。

そして部屋に着いた私は、
荷物を置いて座布団の上に座った。



ここは相変わらず物に溢れてるなぁ。
色々な物が雑多に置いてあって落ち着かない。

でも綾音はこれでも全ての物の位置を
把握しているみたい。
彼女の中ではこれがベストポジションらしい。
 
 

大河内 綾音

ご飯とお茶を持ってくるから
ちょっと待ってて。
お菓子は食後のお楽しみ
ということでっ♪

鷲羽 早希

うん、ありがと。
運ぶのとか、何か手伝おっか?

大河内 綾音

えっ? ホ、ホントに!?
いいのっ?

鷲羽 早希

もちろんだよっ!

 
 
 
 
 

大河内 綾音

だが断る

 
 
 
 
 

鷲羽 早希

えっ? えぇっ!?

大河内 綾音

早希はお客さんなんだから
デーンと構えて
座ってればいいのっ♪

 
 
そう言い残すと、
綾音は部屋を出てふすまをピシャッと閉めた。
そして階段を降りていく足音が響く。

な、なんだったのかな、今の……。
 
 

鷲羽 早希

それにしても――

 
 
部屋の中はすごく静かだ。
一方で窓の向こう側から商店街の宣伝放送が
定期的な間隔で聞こえてくる。

部屋が静かだから聞こえるとも言えるか。


内容は同じものの繰り返しだから、
少し聞き続けていると覚えてしまう。
 
 

鷲羽 早希

あっ……。

 
 
なんとなく部屋の中を見回していると
視線が捉えたのは
綾音の撮った写真とコンテストの賞状。


あれは高校に入学してすぐの頃、
一緒に近くの公園へ
撮りにいった時のものだ。



見た景色、撮った被写体、撮影条件――。

それらは私とほぼ同じ。
でも私は箸にも棒にも引っかからなくて
綾音は入賞した。



きっとその“ほぼ”という僅かな違いの部分が
天才である綾音と凡才である私との
大きな差に繋がっているんだろうな。


そして意識せずにそれができてしまうのが
天才である証。
正直、なんだか悔しい……。
 
 

大河内 綾音

お待たせぇ~!

鷲羽 早希

ぅわっ!

 
 
不意にふすまが開き、綾音が入ってきた。

私が写真を眺めていたところを
ガッツリ見られてしまった。


ちょっと気まずい……。
 
 

大河内 綾音

写真、見てたんだ?

鷲羽 早希

……うん。やっぱ、
綾音の写真は引き込まれるなぁって
ちょっと感心してた。

大河内 綾音

その写真、
早希と一緒に撮りにいったやつ。
すごく大切な思い出だから。

鷲羽 早希

賞も取ったもんね。

大河内 綾音

そう……だね……。
でも私は早希の写真の方が
すごいって思う。
絶対に勝てないなぁって。

鷲羽 早希

ふふ、それ嫌味?
私よりも結果を出しているのに。

大河内 綾音

……評価の基準はそれぞれだよ。
早希はもっと自分に自信を持って。

鷲羽 早希

ありがと……。

 
 
綾音は私を慰めてくれた。

そういうたまにフッと見せる優しさが
この子のいいところだ。
ちゃんと私のことを気遣ってくれている。


――だから憎めないし、大好き。


ただ、今みたいに
その優しさがつらく感じる時もあるけど……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第4枚 わずかだけど大きな差

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