荷物の持ち方や配置を変えても
もはや綾音の積載キャパシティは
限界を超えていた。
私は両手に余裕があるので、
そのいくつかを持ってあげる。
荷物の持ち方や配置を変えても
もはや綾音の積載キャパシティは
限界を超えていた。
私は両手に余裕があるので、
そのいくつかを持ってあげる。
じゃ、私たちは失礼します。
おっと、待て。大河内、鷲羽。
夏休み明けにある写真コンテスト、
提出する作品を撮っておけよ？
分かってますって～っ！
昨日のミーティングで
聞きましたよ～っ！
大河内は信用ならんから
念を押してるんだ。
え～っ？
ちなみに鷲羽に関しては
何も心配していない。
お前と違って
しっかりしてるからな。
ひどいですよ、天王寺部長……。
あはは……。
そうなのだ。
夏休み明けに全国の高校生を対象にした
写真コンクールが開催される。
うちの学校の写真部の部員は毎年、
それに応募するのが恒例らしく、
応募締切は9月の第2金曜日――
でも写真をプリントをしたり、
応募用紙を書いたりする必要があるので
実質的にはそれより前までに
作品を用意しなければならない。
そんなこともあって、
始業式の日に部員が集まって
作品を見せ合うことになっている。
作品、どうしようかな……。
鷲羽、注意して大河内に
目を配っていてくれ。
頼んだぞ。
あ、はい。
早希も普通に返事を
しないでよ～。
部室を出た私たちは菜由と合流し、
家へ向かって歩いていた。
3人とも帰る方向は一緒。
ただ、この中では私の家だけが
離れた位置にあって、学校からも一番遠い。
うっぷ……。
隣にいる綾音は
部室を出てからずっと軽く嘔吐いていた。
部室に寄ったあとはいつもこうなる。
気持ち悪そうだね？
船酔いでもした？
いやいやいやいや……。
船なんて乗ってないし。
うっぷ……。
部室の中に漂ってた
酢酸の臭いのせいだよね？
うん。あの酸っぱい臭いが
苦手なんだよね……。
あぁ、部室前の廊下まで
漂ってきてたやつかぁ。
あれってなんなの？
モノクロ写真を
現像する時に使う酢酸だよ。
酢酸は現像の時に停止液として使われる、
一般的な薬品だ。
その原液を水で薄めて使う。
フィルムや印画紙の現像液はアルカリ性で、
ある程度の時間が経ったら
それを中和させて反応を停止させる必要がある。
その役割をする停止液が酸性の酢酸なのだ。
中和させないとどんどん現像現象が進んで
真っ黒になっちゃう。
でも綾音も使ってるんでしょ？
私はデジカメ専門だもん。
ああいう薬品は使わないの。
そっか、デジカメなら
パソコンとプリンターだけで
充分だもんね。
写真部内でも
天王寺部長くらいしか
使ってないよぉ。
早希もデジカメ？
うん、そうだよ。
昔はフィルム式のカメラも
併用してたんだけどね。
今はもうデジカメだけかな。
中学校の写真部では、
顧問が理科の先生だったこともあって
銀塩写真が主体だったなぁ。
暗室でほかの部員の子たちと
キャーキャー言いながら現像してた。
なんだか懐かしいな……。
フィルムは現像にもプリントにも
おカネかかるし、
プリントするまで
撮影したものを確認できない。
不便ばっかりなのに、
天王寺部長はなんでフィルムに
こだわってんのかな？
しかもモノクロだよ？
へぇ、カラーじゃないんだ？
ホント、時代遅れだよ。
もしかしたら中の人は
大正とか明治の人だったりして。
なにそれ？
中の人なんていないよ……。
もうっ、早希ったらぁ♪
そこは『中の人などいない！』って
言ってくれないと～。
それって言い方が違うだけでしょ？
意味は同じじゃん。
そっかぁ、早希にはこのネタが
通じなかったかぁ～。
うん、いいよ。私が悪かった。
許してヒヤシンス！
っ？ ヒヤシンス？
綾音はたまにこういうワケの分からない
謎のセリフを言うことがある。
なんなんだろ？ 何かのスラングなのかな？
ねぇ、早希。
機会があったら天王寺部長に
その辺のことを聞いてみてよ。
機会があったらね。
確かに言われてみると、私も気になるなぁ。
天王寺部長はデジカメも使うけど、
未だに銀塩写真の方が主体みたいだし。
何か理由があるのかなぁ……。
次回へ続く！
