幽霊よりも甘味が食べたい
第16話
「開かずの教室の神隠し」
(弐)
幽霊よりも甘味が食べたい
第16話
「開かずの教室の神隠し」
(弐)
し、白鷺……鳴美さん……
……っておい、佑美奈! なんでお前がその名前を知っている!
あっ、いやその、それはっ
しまった、ついピヨ助くんの前でその名前を出してしまった。
わたしが狼狽えていると、宙に浮かんだ女子生徒――鳴美さんは、可笑しそうに笑う。
まぁまぁ九助くん。いいじゃない、それくらい。小さいことは気にしないの
気にするだろ!
ていうか、俺の名前を……
それもよ。ゆみちゃん、あなたの名前くらいとっくに知ってたと思うわよ?
な、なにぃ? おい、本当か?
え、ええと……その……
九助という名前なら、初めて鳴美さんの声を聞いた時に聞いてしまっている。
しかもその後に試しに呼んでみたら、ピヨ助くんはまったく気付かず普通に反応してみせた。
そのおかげで、それがピヨ助くんの本当の名前だとわかっていたけど……結局、本人に確認はしていなかった。
ったく、なにを隠してるんだよ、佑美奈!
うぅ……。
あ、とりあえずね、鳴美さんがピヨ助くんの先輩だってことは知ってるよ。
だからピヨ助くんはほら、話を進めるといいよ。うん
わたしは誤魔化すためにもそう言って見たが、ピヨ助くんはクチバシを歪めてますます困惑顔になった。
な、なん、なんなんだよお前は……
まぁまぁ。落ち着きなさいよ九助くん。
……ピヨ助くんの方がいい?
そんなのどっちでもいい!
ああ、頭痛くなってきたぞ……ったく
ピヨ助くんは小さく頭を振り、深呼吸をする。
よし、わかった。まずは鳴美先輩から話を聞くとしよう。佑美奈は終わってからたっぷり聞くからな
う、うわー……
……ここで鳴美さんに出会った以上、隠していたのがバレるのは避けられないことだった。
とはいえ、少し気が重たい。
いいわよ。私になにを聞きたいの?
決まってるだろ。ここにいるってことは、やっぱりこの怪談を一人で試したんだな?
そうね。そして私は……失敗した。脱出できなくて、元々ここにいた生徒と入れ替わりで、ここに留まることになった
それって、鳴美さんが神隠しに遭ったってことですか?!
そういうことになるわね
ここに入った人は、いなかったことにされてしまう。
存在が……消される。
そう。私は神隠しに遭った。
なのにどうして、九助くん。あなたは私のことを思い出せたの?
……! そうだ、そうだよ!
存在が消されてしまうのならば、ピヨ助くんだって鳴美さんのことを忘れてしまうはずだ。
ふん。最初は俺も忘れていた。
だが、一人で怪談調査を続けている内に、手帳に書かれた調査結果に違和感を覚えた。これは、俺一人で調べたものではない、とな。
それから再調査を繰り返す内に、先輩の存在を思い出したというわけだ
ふぅん……そんなこともあるのね? 怪談に触れて、霊感が高まったおかげかしら?
たぶんそんなところだろうな。
……気付いた時は愕然としたがな
……ごめんなさいね。ちょっと、ドジ踏んじゃって
ドジって……ったく、本当にあんたって人は……
諦めたようにため息をつくピヨ助くんと、それを見て微笑む鳴美先輩。
きっとこれが、当時のいつものやり取りなのだろう。
もう少しだけ、九助くんに今の私について説明してあげる
鳴美さんはふわっと椅子から降り、静かに床に立つ。
今の私は、白鷺鳴美であり……
『開かずの教室の神隠し』の幽霊。
二つの意識は融合しているのよ
融合だと? 正確には鳴美先輩ではないのか?
いいえ。鳴美としてのアイデンティティは残っているわ。
むしろ幽霊の方の知識を共有できている感じかな。おかげで、この学校についてはかなり詳しくなった。
……気分は学校の主ね
わたしはその言葉に、夢でもそんなことを言っていたことを思い出す。
ということは……鳴美先輩。この怪談の真実が、もうわかっているのか?
もちろんよ。全部、わかってる。
……でも、それをそのまま教えることはできない
え、どうしてですか?
わたしが思わずそう問いかけると、鳴美さんは当然だと言わんばかりに笑って答える。
ふふっ。だって、わたしはこの怪談の幽霊だから。それを言うことはできないのよ
言うことができない……ですか
なるほどな。鳴美先輩ではあるが、怪談の幽霊でもあるというのは、そういうことか
わたしは少し考えて、ようやくその意味を悟る。
怪談の真実を語るということは、この怪談の脱出方法である、開かずの教室の本当の場所を話すのと同じことだからだ。
怪談の幽霊として、それを話すことはできないようになっているんだ。
ふむ……。だったら、とっととこの怪談を終わらせるしかないようだな
そうね。早くしないと、私は解放されるけど、今度はゆみちゃんがこの怪談の幽霊になっちゃうわよ?
ゆ、幽霊になるとどうなるんですか?
さっきも言った通り、この怪談の幽霊と融合する。色々知識は入るけど、ここから動くことはできなくなるのよね
動けない? 一歩も外に出られないってことですか?
ええ、そうよ。現に、わたしはここから一歩も外に出ていないから
それは困ります! 甘い物が食べに行けなくなるじゃないですか!
……お前、そんな理由が一番でいいのか?
当たり前だよ! なに言ってるの、ピヨ助くん!
あーはいはい。お前はそういうヤツだよ。
じゃあいくぞ、この開かずの教室の本当の場所だが……
…………
ピヨ助くんは手帳をめくり始める。
その姿を見て、わたしは心がざわついた。なにかが引っかかっている。
見ると、鳴美さんもなんだか悲しそうな目をしているような……。
……あ。待って、ピヨ助くん
なんだよ、お前のためにも早く終わらせようと……
その本当の場所って、誰から聞いたの? 突き止めたのピヨ助くんじゃないんだよね?
まあな。もうわかってそうだが、もちろん鳴美先輩に……
そこまで言って、ピヨ助くんのまん丸い目が二倍くらいに大きくなった。
……げ、ドジ踏んだって、まさか
ピヨ助くんが鳴美さんを見ると、彼女は嬉しそうに笑う。
うん。あなたに教えた、2年5組の教室という答え、間違ってたんだよね
色々な意味で衝撃の告白を、さらっとするのだった。
続く