幽霊よりも甘味が食べたい
第14話
「開かずの教室の神隠し」
(序)
幽霊よりも甘味が食べたい
第14話
「開かずの教室の神隠し」
(序)
…………
わたしは学校の食堂で一人、あんみつを食べていた。
定食についてくることのあるもので、寒天に豆、餡子に缶詰のミカンが乗せられた、フルーツあんみつ。
学食のデザートにクオリティを求めたりはしない。
わたしは、学校で甘味を食べられるだけで幸せなのだから。
あんみつを食べ続けるわたし。周りには、誰もいない。わたし一人だけの食堂。
どうしてわたしは、ここであんみつを食べているんだっけ?
どうして、誰もいないんだろう?
あんみつ食べ終わってから考えよう。
……
そう思って黙々とあんみつを食べていると、いつの間にか正面に女の子が座っていた。
いつからいたんだろう?
同じ制服を着た、ショートカットの女の子。頬杖を付いてわたしを見ている。好奇心の強そうな大きな瞳は、面白いものを見付けたと言わんばかりにキラキラと輝いていた。
どこかで……見たことがあるような……。
名前、聞いてもいい?
え……? 弓野佑美奈ですけど……
ゆみちゃんね。あなたはどうして、ここであんみつを食べているの?
どうして……ですかね。あ、甘い物が好きだからだと思いますけど
なにそれ? でも、あながち間違ってはいないのかもね。ふふっ
はぁ……。あの、あなたは?
私? そうね、この学校の主ってところかな?
学校の……主、ですか。それって校長先生じゃ
そういう意味の主じゃないのよ。
私はきっと、誰よりもこの学校のことに詳しい。
例えばこの学食は、元は一般校舎の一部だったのを改修して、学食と購買を作った、とかね。
知らなかったでしょ?
そうなんですか?
それは知らなかったです
それから第二会議室の天井の張り替えのこととか
え……?
保健室から聞こえてくる子供の声とか、廊下ですれ違いざまに囁く女の子の幽霊とか……ね?
ここでようやく、ぼんやりしていたわたしの頭が少しだけクリアになった。
今のは、わたしとピヨ助くんが調査した怪談のことだ。
あなたは今、不安を抱えている
不安……ですか?
幽霊が生み出したドーナツを食べ続けるなんて、普通じゃない。少なくとも、霊感は上がり続けている
やっぱり、そうなんですかね……?
でも、わたしはあのドーナツを食べるのをやめられない
ふふっ。別にやめろとは言わないわ。
でも食べ続けることで、あなたの周りで不思議なことが起きやすくなっているのも事実
不思議なこと……。怪談に巻き込まれやすいってことですか?
そうね。条件さえ満たせば、必ず怪談に巻き込まれる。
それ以外にも例えば……
私とこうやって話ができることも、不思議なことの一つね
はぁ……
あなたがあのドーナツを食べ続けるというのなら。ゆみちゃん、彼を助けてあげてね
彼……ピヨ助くんを……?
ぷっ、ピヨ助くんって、おかしな呼び方をしているわよね
女の子はそう言いながら立ち上がり、歩き去ろうとする。
あっ……待って下さい!
あの、名前を聞かせてもらえませんか?
私の名前? 私は……
女の子は振り返り、笑顔で答えた。
白鷺、鳴美だよ
続く