幽霊よりも甘味が食べたい

第13話
「保健室の子供の声(4)」



















ミカ

やーっと期末試験終わったね~

佑美奈

ほんとだよ。疲れたなぁ

ミカ

ゆみゆみ、今回すごい頑張ったんだね。すごい疲れてるよ

佑美奈

……うん。でも、結果はダメだと思う

ミカ

そうなの? あたしは赤点は回避できたと思うな~

佑美奈

赤点は大丈夫だと思うけど、いつもより悪いかも……

ミカ

ありゃりゃ。だから急にここに来ようって言い出したんだね。喫茶店『星空』

佑美奈

うん。ここのパンケーキは絶品だからね。甘い物だけがわたしの救いだよ






 今回の学期期末試験。

 試験勉強、実はぜんぜん頑張れていなかった。
 他のことに気を取られてしまい、集中できなかったのだ。


佑美奈

どうして……早川先生はたけるくんに会えなかったんだろう


 たけるくんは先生が保健室を出た直後に声をかけてみると、言っていたのに。

 ……たけるくん、試さなかったの?

 それとも先生が気付かなかっただけ?

 ピヨ助くんと話してもう一度放課後に保健室に行ってみたりもしたけど、あれ以来たけるくんは現れてくれなかった。



 そんなこんなで消化不良のまま時間が過ぎ、期末試験を迎えてしまったため、満足に勉強ができなかった。

 ……言い訳っぽいけど、でも、本当に気になって仕方がなかったのだ。

 せっかく甘い物を食べに来たのに、こうして考え込んでしまうくらいには。






ミカ

ゆみゆみ~? ほんとだいじょぶ? ぼうっとしちゃって

佑美奈

あ、ううん、大丈夫だよ。早くパンケーキ来ないかなって……あっ、きたきた!


 喫茶店『星空』のパンケーキ。もちろんダブル!
 ミカちゃんも同じくダブルを注文している。






ミカ

へへ~。赤点回避のご褒美ご褒美

佑美奈

まだテスト返ってきてないのに……すごい自信だ


 でもきっと、本当に回避できてるんだろうなぁ。

 もっともわたしだったら、ご褒美はここのパンケーキだけじゃ足りない。2、3件はハシゴする。







佑美奈

……よし。気を取り直して食べよう!
甘い物食べる時に難しいこと考えるのはダメだよね。
いただきま~す


 パンケーキにメイプルシロップをかけ、ナイフを入れて一口サイズに切り、フォークで口に運ぶ。

 ここのパンケーキはいわゆるスフレパンケーキで、分厚い生地が特徴。少しだけカリっとした表面がふわっふわな食感を優しく包み込み、染みこんだシロップの甘みと共に口の中に広がっていく。

佑美奈

ああ……しあわせだなぁ……。
これだよ、この体に染み渡るように、甘さが広がっていく感じが最高なんだよ。
これこそしあわせってやつなんだよ











ミカ

そういえばさ~。
試験前に話した怪談、覚えてる~?

佑美奈

むぐ……ぐ……ごくん。

それって、保健室の?


 まさかミカちゃんからその話題を振られるとは思ってなくて、喉に詰まりそうになったパンケーキを慌てて水で流し込む。

 ……ああ勿体ない。
 もっとゆっくり味わいたいのに。

ミカ

そうそう~。なんかねぇ、また別の話を聞いたんだけど~

佑美奈

別の話……? 保健室の?
って、いつ聞いたの?

ミカ

今日だよ~。テスト前に隣のクラスの子に聞いたんだ~

佑美奈

……余裕だね、ミカちゃん。

それで? ど、どんな話だったの?


 まさか……もう、改変が起きている?
 だとしたら、どうして……。



ミカ

なんかね、お母さんを探すんじゃなくて、一緒に遊ぼうって誘ってくるんだって

佑美奈

………………え?


 一緒に……遊ぼう?
 それって、確か……。

ミカ

あとは同じみたいだけどね~。台詞だけ違うバージョンだって。
おっかしいよねぇ

佑美奈

え、あ……うん。
そう、だね。なんか、おかしいね


 わたしはぱくっと、パンケーキを一口食べる。


 おかしいってレベルじゃない。わたしにとっては衝撃的な話だった。

 一緒に遊ぼうと誘ってくる。

 それって、ピヨ助くんが5年前、ううん、6年前に調べた内容と一緒だ。

佑美奈

改変して……内容が戻った? そんなことがあるの?


 いくらなんでも、って思ったけど、わたしはある可能性に思い当たった。

佑美奈

はっ! もしかして、たけるくん……乗っ取り返された?


 たけるくんはもともとあった怪談を乗っ取ったわけだけど、その時までいた幽霊がどうなったのか、気にはなっていた。
 もしかしたらその幽霊はまだいて、取り返そうとしていたなら……?

 わたしたちがたけるくんに、乗っ取ったんだよって教えたせいで、取り返されてしまったとか……。

佑美奈

確認……しなきゃ。先生、まだいるかな……









ミカ

ゆみゆみ~? ねぇ、ほんとにヤバイんじゃない?
甘い物を前にして手が止まるなんて、ゆみゆみらしくないよ~?

佑美奈

あ……大丈夫大丈夫。
あまりの美味しさに感動しちゃって


 急いで学校に戻らなきゃいけなかったけど、でも……。







佑美奈

……あま~い!
美味しいねぇ、ミカちゃん。
テストの出来なんて忘れられそうだよ

ミカ

お、いつものゆみゆみだ~




 甘い物を疎かにすることはできない。

 パンケーキはしっかり味わい残さず食べてから、急いで学校に向かったのだった。




















早川先生

どうしたの? テスト終わってだいぶ時間が経つのに

佑美奈

すみません……どうしても、お話ししたくて。戻って来ちゃいました

ピヨ助

おい……どうするつもりだよ




 学校に戻るとピヨ助くんと合流し、簡単に説明して保健室に駆け込んだ。
 早川先生は正に帰ろうとしていたところだったけど、荷物を置いてこないだと同じように椅子を勧めてくれた。

 ピヨ助くんはまだ情報を整理できていないのか、後ろでわたしを睨んでいる。

 ……とはいえ、わたしも整理しきれてない。
 どう話を切りだそう?



早川先生

そうね、私も少し話したいことがあったのよ

佑美奈

え……? そうなんですか?

早川先生

ええ。
弓野さん、本当に内緒にしてくれてるのね。
昨日ミカさんとお話ししたけど、あのことについてはまったく触れられなかったわ

佑美奈

それは、もちろんですよ。
約束通り、誰にも言ってません


 先生の子供のこと。
 当然だけど、誰にも話していない。

早川先生

うん。……あ、弓野さんを信じていなかったわけじゃないのよ。でもちょっと、お礼を言いたくて。
ありがとう、弓野さん

佑美奈

い、いえ、そんな


 お礼を言われるようなことではないんだけど……。






佑美奈

あ……そういえば、先生。
その、お子さんの写真って、いつも持ち歩いてるんですか?

早川先生

ええ……。
どうしても、割り切れなくて、ね

佑美奈

割り切る……。
先生は、忘れたいんですか?

早川先生

ううん。忘れることは絶対にできない。

でもね、いつまでも未練を抱えたままじゃよくないでしょう?

割り切るというのは、忘れることじゃない。もう会えないってちゃんと理解して、前に進むことなのよ


 未練……。

 もし、たけるくんと会えていれば……その未練をなくすことができたんだろうか。
 前に進めたんだろうか。






佑美奈

先生。お子さん、どんな男の子だったんですか?

早川先生

……え?


 先生は少しだけきょとんとした顔をして、クスリと笑う。

早川先生

そうね、写真、見せてあげる

佑美奈

え?! い、いいんですか?

早川先生

ええ。あなたにならいいかなって。

……誤解もしてるみたいだしね


 先生は言いながら、胸ポケットから写真を取り出す。

佑美奈

誤解? ……って、え?

ピヨ助

……なんだと?


 先生が取り出した写真。そこに写っていたのは……。
















 

幸子











早川先生

かわいいでしょ?



 そう、可愛らしい、女の子だった。










佑美奈

は……はい。かわいいです、ね

早川先生

どこで勘違いしたのかわからないけど、私の子は息子じゃなくて娘よ?

佑美奈

で、ですよね。あはは、どうして勘違いしたんだろう……


 言われてみれば、先生は一度も息子とは言っていない。

 わたしたちが勝手に怪談と結びつけ、男の子だと思い込んでいただけだ。



早川先生

……元気にしてるかな

佑美奈

元気に……ですか?

早川先生

んん? あ、ごめん。
もしかしてとは思ってたけど、そこらへんも誤解されちゃってるかな?

佑美奈

ま、まだあるんですか?

早川先生

あんまり深く説明するつもりはなかったから、誤解しちゃうのも仕方なかったんだけど

佑美奈

は、はぁ。
それで……いったい、なにが








早川先生

私ね、実はバツイチなの。
親権を旦那に取られちゃって。
会えないのよね、娘に








佑美奈

あ……え……

ピヨ助

ちょっと待て……えぇ?


 わたしもピヨ助くんも、驚きすぎで口をぱくぱくさせることしかできない。





早川先生

でもね、どうも……親子関係上手くいってないみたいなのよね。
やっぱり私の方から動いた方がいいのかしら……


 そのあとも少しだけ先生は話をしてくれたけど、殆ど頭に入らず、わたしたちは保健室を後にした。






















ピヨ助

どうなってんだよ、なんなんだよこの怪談は!

佑美奈

わたしが聞きたいよ……


 わたしたちは落ち着くために、自分の教室にやってきていた。
 さっき明らかになった事実のせいで、わたしたちは大混乱している。






ピヨ助

ハァ…………よし、整理するぞ。
大丈夫か、佑美奈

佑美奈

大丈夫じゃないけどいいよ






ピヨ助

つまり……だ。保健室の怪談に、あの先生はまったく関係なかった

佑美奈

う、やっぱりそういうこと?


 早川先生の子供は、男の子じゃなくて女の子だった。

 というより、そもそも生きてる。離婚して、離ればなれになってしまったのだ。

 ピヨ助くんの言う通り、怪談とはまったく関係がない。
 それなのに、わたしたちは勝手に関連付けてしまっていた。




佑美奈

じゃあ、結局たけるくんって……誰なの?

ピヨ助

決まってるだろ?
そもそも、怪談ジャックなんてなかったんだ。当然、お前がさっき言ってた取り返されたってのも違う

ピヨ助

……つまり、昔からずーっと同じ幽霊だったんだよ。変わってなんかいなかったんだ、あのクソガキは……!




佑美奈

え……えええ!? だって、入れ替わったんだって、ピヨ助くんが言ったのに!

ピヨ助

うっ……し、仕方ないだろ! 俺にだって、間違うことはある。
……くそう


 ピヨ助くんがめちゃくちゃ悔しがってる。

 でも……そっか、入れ替わりはなかったんだ。
 確かに、それで納得がいく部分もある。



 ……もしかして、たけるくんは全部わかっていた?
 わたしたちが見当違いな推察をしていたことを。

 それに対する答えが、怪談の内容を元に戻す、だったのかもしれない。

佑美奈

実際、ミカちゃんから聞いたその話から、色々勘違いが発覚したんだもんね


 正確には戻ったのは幽霊の台詞だけみたいだけど、わたしたちにはそれで十分だった。









佑美奈

はぁ……たけるくんにしてやられたね、ピヨ助くん

ピヨ助

…………

佑美奈

ピヨ助くん?







ピヨ助

だったらどうして、この5年の間に内容が変わったんだ?
どうして、お母さんを探す幽霊になったんだ?

佑美奈

え……? それもそうだね……。

あ、でもほら、先生が写真を見てたの知ってたし、なにか影響受けたりはしてたんじゃないかな?

ピヨ助

……台詞に関してはそうなのかもな。
だが、内容については……


 そこでピヨ助くんは、廊下の方をちらりと見る。





ピヨ助

チッ、忘れていたな……。
もう一つ、内容が変わってしまう可能性があるじゃないか

佑美奈

え? 心当たりがあるの?

ピヨ助

ああ。佑美奈、お前も知ってるはずだ。
あるだろ、短期間で内容が大きく変わってしまった怪談が

佑美奈

短期間で大きく変わった怪談……?

あっ、とい子さんの……!


 わたしも思わず、ピヨ助くんと同じように廊下を見る。









ピヨ助

そうだ。つまりな、この怪談は、すでに誰かが怪談調査を行い、その結果内容が大きく変わったんだよ

佑美奈

…………!!


 確かにとい子さんの時も、わたしたちが調査したあとに内容がガラリと変わってしまった。

 それと同じ事が、この5年の間に起きたのだとしたら……。



ピヨ助

くそっ……やっぱりかよ。やっぱり、自ら怪談に巻き込まれて、一人で調べてたんだな。だからあんなに詳しく……。

だったら6年前の時点ですでに、なにか仕込んであったのか?

ちっ、やはりなんとしても自分で調べておくんだった




佑美奈

え……? ピヨ助くん?

ピヨ助

…………なんでもない

佑美奈

なんでもないことないでしょ? ちゃんと教えてよ







ピヨ助

……ちっ。実はな、この怪談を調べたのは俺じゃないんだ。俺は調査結果だけ聞かされて、それを手帳に写しただけだ。

……今言えるのはそれだけだ


 それはつまり、ピヨ助くんに調査結果を教えた人が調べた段階で、改変が起こっていたってこと?

 その調査をした人って、もしかして……。







ピヨ助

はぁ、疲れた。佑美奈、とりあえず今日はもう帰れよ

佑美奈

う、うん……


 頷いたものの……。なんだか、このまま帰るのも気が引けてしまう。

佑美奈

なんかピヨ助くん、かなり荒んじゃってるし








ピヨ助

あー、報酬のドーナツな、2個やるよ。
全部間違えたからな。すまなかった

佑美奈

え?!
う、ううん。……いいよ、1個で。

なんか、その……わたしも勘違いしてたし

ピヨ助

……そうか。お前がそんなこと言うなんて、明日は雨だな。ドーナツ出すのは今度でいいか?

佑美奈

うん。むしろ、今度にして欲しいかな


 なんとなく、今は貰う気になれなかった。









ピヨ助

じゃ、また明日……は、休みか。
次は終業式か?

佑美奈

うん、そうなるね


 わたしは鞄を取って立ち上がる。

 そっか、もう一学期は終わりだ。
 そうなると……。





 教室を出ようとしたところで、一旦立ち止まってピヨ助くんに話しかける。



佑美奈

安心して。毎日じゃないけど、夏休みも来てあげるから

ピヨ助

なっ……! なんだその言い方!
俺が寂しいみたいじゃねーか!

佑美奈

話し相手いないと暇じゃない?

ピヨ助

いやそりゃそうだが、ってお前に会う前はずっと一人だったっての!

佑美奈

うわー、一人宣言。
それすっごく寂しそう

ピヨ助

やめろ! 寂しくなんてない!

佑美奈

あっははっ。

あ、ねぇピヨ助くん

ピヨ助

なんだよ?!




佑美奈

やっぱり報酬のドーナツ2個でいい?

ピヨ助

あぁ?!

……ダメだ。1個だ

佑美奈

えー? いいでしょ、さっきは2個くれるって言ったのに!

ピヨ助

自分で1個でいいって辞退したんだろ!




 そんな風に。

 ピヨ助くんといつも通りのやり取りをしながら校門まで歩く。



佑美奈

……やっぱり、暗いまま別れちゃうのは気分悪いしね


 いつまでも考えてても仕方ない。

 そもそも、怪談の真相自体はピヨ助くんの手帳に書かれている通りでいいってことなんだし。
 特別問題はないはずだ。


 ……もっとも、それはつまり今回の調査は完全な無駄足だったってことだけど。

 わたしとしては、ドーナツが食べられればそれでいい。

佑美奈

……ちょっと消化不良というか、まだ引っかかることもあるけど


 わたしにとっては、幽霊よりも甘い物だ。

佑美奈

そうだよ、わたしはなによりも甘い物が好きなんだから。
これ以上は、わたしの領分じゃないよ。
……うん



 ……なんなら、夏休みの間にピヨ助くんに昔の調査内容を聞けばいいよね。

 だからもう、これ以上考えるのは止めよう。












 やはり疲れていたのか、その日はすぐに眠くなってしまい、夜は早めに寝て……。









 そこで、わたしは、不思議な夢を見た。



















 

ぼくが……行方不明に?

 

そう。君はね、大昔に行方不明になってしまった男の子の幽霊なんだよ。
実際にその子がどうなってしまったかは、わからないけどね。なにせ行方不明だから

 

そっか……。ぼく、友だちと遊んでて、はぐれちゃって……。
そこから、よく思い出せないんだ

 

ふぅん。ところで君の怪談。
最近誰も試す人いないでしょ?

 

うーん……試す人はいるよ。
ドアは開けてくれないけどね

 

でしょうね。開けたらすぐ殺されちゃうとか、誰も開けたがらないよ

 

お姉ちゃん、開けたよね

 

それはそうよ。調査したかったんだから。
君だって殺さなかったでしょ? たけるくん

 

だって、まずは私の話を聞いて! って土下座するんだもん

 

あはは、よかったよ効果があって

 

むー……

 

でさ、話を戻すけど。君、怪談の内容を少し変えた方がいいよ

 

変えるって?

 

今のままだとインパクトが強すぎてみんな引いちゃうから、もう少しマイルドにしないと。
例えば幽霊の世界……死後の世界に連れて行くとか、そういう感じに

 

そんなのでいいの? どっちにしろ同じことだよね?

 

いいのよ。意外とそこ、大事よ?

あとは……こういうルールを追加するのはどう?

 

ルール……? あんまり難しいのはやだよ

 

大丈夫、簡単よ。まず、ドアを開けたらその人に手を伸ばすの。君の手を取った人が、怪談を知らなければ、セーフ。手を離して解放してあげて

 

えー……なんかつまんないな。
じゃあもし、怪談を知ってたら?

 

怪談を知っていて、怪談を試す目的でやってきて、さらにその手を取ったのなら……。

その時は、アウト。

そこまでするなら、元々の怪談通りにしちゃって構わないわ

 

元々の怪談通りって……うん、それならおもしろそう! そうしてみる!

 

あ、でもすぐに変えても効果がないよ。今までのインパクトが強いから。
1年か2年、ある程度生徒が入れ替わってからがいいかな。それまでは大人しくしてること。いい?

 

んー、ま、いっか。それくらいでいいなら待つよ

 

お、さすが長いこと幽霊してるだけあるね。

それから……これを提案した私のことは、見逃してね?

 

あはは! しょうがないなぁ。

いいよ、なるみお姉ちゃん。特別だよ?

























 朝、わたしは飛び起きた。






佑美奈

い、今の夢って……たけるくんと、こないだの、ピヨ助くんの先輩?





 ああ、そっか。全部把握できた。できちゃった。

 ピヨ助くんの先輩らしき人、たけるくんに『なるみお姉ちゃん』と呼ばれていた人は……。




佑美奈

危険だった保健室の怪談を安全なものにして、しかも回避方法を付けたんだ!


 怪談を知らずに遭ってしまった場合は助かるし、知っているなら絶対に手を取ったりはしないから、実質たけるくんに殺される人はいなくなる。

 たけるくんを上手く誘導して、怪談の危険性を下げたんだ。










佑美奈

……あれ? でも、待って?





 わたしは思わず、自分の手を見る。


 あの時……たけるくんとの別れ際。
 わたしはたけるくんの手を取ってしまった。

 それはルールで言えば、アウトで、その場合は……。





佑美奈

元々の怪談通りになる。
変わる前の怪談は、確か……


























ピヨ助

いいや。
……ドアを開けた瞬間、問答無用で人形にされてしまい、おもちゃにされて、最後には四肢をもがれて殺されてしまうんだ

佑美奈

うわっ、こわっ! そんな危ない怪談だったの?
それは確かにさっき聞いたのと全然違うね



















 

あ~あ……














































佑美奈

うっ……!!



 四肢をもがれて殺されるところを想像してしまい、わたしは血の気が引く。



 夢であの先輩が言っていた通りだ。


 死後の世界に連れて行かれるのと、四肢をもがれて殺されるのは、死ぬという意味では確かに同じだけど。


 恐怖の質がまったく違うのだと、私は思い知った。


















「幽霊よりも甘味が食べたい」


怪談「保健室の子供の声」編 完








……続く?

第13話「保健室の子供の声(4)」

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