【49】きみを誘(いざな)うは
















小鳥遊 杏子

……ここは?



本当に出られるとは
思っていなかったのかもしれない。

風に乱される髪を
押さえながら
杏子もあたりを見回している。

剣持 朱梨

出られたんだよ、俺たち

小鳥遊 杏子

……




杏子は黙ったまま
後ろを振り返った。





そこには巨大な時計塔が
そびえ立っている。

中身は城のようだったが
こうやってみるとメインは時計塔で
それに他の部屋が
申し訳程度に付随している
といった印象だ。


きっとあの中央を占めているのは
螺旋階段なのだろう。

俺たちはこの中にいたのか。
と今更ながらに思う。





さっきまでいた機械の部屋は
あの文字盤のある場所だとして、
あんな高いところまで
よく上ったものだ。







応接間はどのあたりだろう。

キリオは

美登里は

虎次郎は

うさぎは


あの中のどこかに
まだいるのだろうか。









そしてオッサンは……
















時計の元に行けるのはひとりだけ











期せずして
最後まで残ってしまった
と、言うべきか。

仲間だった彼らと
バトルロワイヤルをせずに済んだのは
良かったのかもしれないが、

それでも
置いてきてしまったことに
変わりはない。








ちくり、と良心が痛む。





他に方法は無かったのだろうか。

みんな一緒に、なんて
幼稚園的思考だろうけど

それでも



意味もわからず集められて

こんな結末なんか
誰も望んでいなかったはずなのに。






これは
あの黒ローブの仕業なのだろうか。

今となってはそれもわからない。


剣持 朱梨

……行こうか



感傷に浸っていても仕方がない。

俺は杏子を振り返った。

小鳥遊 杏子

どこへ?

剣持 朱梨

どこって、


わかってるだろうに。

その物言いに俺は首を傾げた。





やはり
みんなを置いて自分たちだけ
助かると言うのは
良心が咎めるのかもしれない。


脱出経路がわかったことだし
みんなを助けてから行こう
と、そう
思っているのかもしれない。



杏子なら言いそうだ。




そう言うことなら
不肖ながら俺も、

小鳥遊 杏子

どこへもいけない。
この世界はどこまでもつながっているの

剣持 朱梨

杏子?

小鳥遊 杏子

見て


杏子は後ろを指し示した。


時計塔がある。

円錐をさらに
細長くしたような……










小鳥遊 杏子

アイアンメイデンって知ってる?



唐突に、

本当に唐突に杏子は
そんなことを聞いてきた。

剣持 朱梨

え?



アイアンメイデン?

あの拷問に使うとかっていう?

小鳥遊 杏子

あれはアイアンメイデンなの。
人の血を啜り、魂を閉じ込める器

剣持 朱梨

なに……言ってんだ?


そりゃあ形は似ているかもしれないが。


でもあの中で1人死んで
4人が行方不明になっている今








その冗談は笑えない。













小鳥遊 杏子

誰も彼も私を置いて行ってしまった。
だからもう誰も出て行ってほしくないの

小鳥遊 杏子

精霊の時計は私の願いを叶えてくれた。もう誰も……誰も


熱に浮かされたように
杏子は言葉を紡いでいく。


なんだ?

これは杏子か?
俺が昔っから知ってる杏子は……





あれ?




小さい頃の彼女の顔が
思い浮かばない。

彼女はいつから
俺の幼馴染だったんだ?
















いつから?
















剣持 朱梨

……杏、子?

時は繰り返す。ずっと


これは、誰だ?

さあ行きましょう




これは、









鐘が鳴る。








目の前の風景が




ぐにゃりと変わっていく。
















次はどんなお話を見せてくれる?









目の前には
……螺旋階段があった。











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