目覚ましの音で、僕は長い夢から目覚める。

都 大樹

うーん…

手を置いた時計に目をやる。

時刻はきっかり朝の七時だった。
眠たくて今にも閉じてしまいそうな目をこすり、必死に状況を掴もうとする。

その、一瞬前だった。

やあやあ、おはようございます。酷いですねえ、乙女の冗談を無下にするなんて

そんなことでは、あの3人にも愛想をつかされてしまいますよ? と言っても、もう手遅れですけどね

都 大樹

手遅れ? ってやばい!? もう約束の時間じゃないか!?

長い夢を見たせいで忘れていたのか。本来ならばとっくに起きてカフェにいるべき時間に、当の本人が遅刻するなんて。

僕は顔も洗わず慌てて家を飛び出した。

見慣れた通学路。むしろもう見飽きたと言っても過言ではない。

鮮明に覚えている。僕のこの物語は、あるいはここから始まったのかもしれないのだから。

人通りは少なかった。というか道路を走る車以外、つまり僕の様に歩道を歩いているような人は1人もになかった。

不思議な感覚だ。まるで、世界に僕だけしかいないような感覚。どこかで、依然味わったかのような。

都 大樹

いや、あれは僕1人だけではなかったね

その通り。もちろん私もいましたよ

感傷に浸りながら、僕は時間に遅れていたことを思い出す。

ちょうど信号は青に変わった。車が来ていないことを確認して、横断歩道を渡ろうとした。

その時。

都 大樹

あれ?

何か見てはいけないものを見てしまったかのような。そんな得体のしれない気持ち悪さが、胸の底から沸き立った。

クラクションが鳴る。ハッと我に返れば、横断歩道の信号は点滅していて、右折する車が3台も、僕のせいで進めずにいた。

都 大樹

おっとと

急いで横断歩道を渡り切る。もう3分もすれば、大学に着く距離だった。

だけど。

さっきからこの胸を締め付ける不気味な嫌悪感が、僕の足をその場所に縫い付ける。一歩たりとも、進むことはできなかった。

見えないけれど、はっきりと伝わってくるプレッシャー。恐る恐る、僕はその元凶の方へ首をぐるりと回転させる。

そして、

そして。

そして…

僕は『それ』見てしまい——

——発狂した。

都 大樹

桐谷ーーー!?

* * * * *

こんにちは。ご覧頂きありがとうございます。

遅刻した都が見た桐谷は、どうなっていたのでしょうか。次回より、前々から言っていた『矛盾』の正体にもう少しづつ迫って行くつもりです。

さて、夢から醒めて、物語も以前の様に地の文が多めのスタイルに戻してみました。夢の間は会話が多めでしたが、その辺りはどのように感じられているのでしょうか。

それでは、今回はこの辺りで失礼します。

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