なあ、三船。あんたは盗んだ薬をカバンにいれたんだよな？

ええ。今思えば迂闊でした。トイレに流すとか、他の人の荷物の中に隠すとか、他にも方法はあったはずなのに。まさか館長に見つけられてしまうとは……

いや、そこなんだが。もしかすると館長のポケットに入っていた薬は、あんたが盗んだものとは別物かもしれない

それはどういうことですか！？

説明は後だ。早速で悪いが調べてみてくれ

分かりました

あった！　ありましたよ私が盗んだ薬！！

やはり見つかったか

鑑識のじいさん、この薬が本物かどうか今すぐ分かるか？

儂を誰だと思っとる。そんなの夕飯前じゃ

ふむ。こりゃただの小麦粉じゃわい

それは本当なの！？

儂をなめるでないぞ。もちろん詳細な検証もするが、こりゃ小麦粉で間違いなの

やはりな。これこそが犯人の誤算なんだよ

一体どういう事よ？

犯人にとって、三船さんが薬を盗んだのは想定外だった。だから、本物の薬を返す際に、かなり焦っていただろう。なんせ自分が犯人だと断定する証拠になるかもしれないんだからな

これが、証拠ですか？

ああ。鑑識のじいさん。この場で指紋を取ることは出来るか？

当たり前じゃ。儂を誰だと思っとる

ならこのピルケースに付いた指紋を調べてくれ

仕方ない。少し待っとれ

出たぞ。ふむ。こりゃ、館長と三船さんの他に、秘書さんのも出てきたの

これが事件の全容だ。館長に偽の薬を与え、心臓麻痺を起こさせることで殺害した真犯人。それは、館長の秘書である草野志保、あんただっ！！

またですかあなたは！　確かにその方法なら私にも館長は殺せます。だけど、館長の右腕に書かれたダイイングメッセージの意味は何なんですか！？　もしかしたら、館長は私以外の真犯人を指しているかもしれないじゃない！！

確かに。その可能性もあり得るわよ。草野さんを犯人と決めつけるんだもの、もちろんダイイングメッセージの意味にも気付いているのよね

もちろんだ。館長はあのダイイングメッセージをわざわざ左腕で書いていた。そこには必ず意味がある

何を馬鹿なことを言っているんです。どちらの腕で書いても文字は文字ですよ。そんなことで意味は変わらない

重要なのはどちらの腕で書いたかじゃない。どちらの腕に書いたかということだ。つまり、今回のダイイングメッセージは、その文字を右腕に書くことで成立するものだった

ふ、何を馬鹿なことを

草野さん。『右腕』と言われて何か思い浮かべることはない？

そんなもの、何にもありませんよ

本当に？　館長の優秀な逸材として、彼女の為に力を尽くしてきたあんたが。館長の『秘書』であるあんたが、『右腕』という言葉におもいあたるものは本当にないのか？

だからそんなものあるわけが……ま、まさか！？

ああそうだ。あんたのことだよ秘書さんや

で、でも。右腕が私だからと言ってイコール犯人ではないはず

いや、館長はあんたが犯人だって書いてるじゃねえか

何を言ってるのよ。右腕には『く』としか書かれていなかったじゃない！

あの文字は書きかけだ。おそらく途中で力尽きたんだろう。そもそも館長はあんたが偽の薬を渡したことに気付いていたんだ。だけど、あのままじゃ自分を殴った脅迫状を出した三人が犯人にされると思った館長は、まずは三人は犯人じゃないということを伝えた

メモに書かれていた『白』は、暗証番号と同時に、『脅迫状を出した三人は白、つまり無実だ』ってことを伝えていたんだよ

そして右腕には書きかけの『く』。もうこれが何を示しているか分かるよな？

ふ、さすが。やるじゃない

認めるんだな？

ええ、そうよ。私が館長に偽の薬を渡して殺したの。昨日あの女が脅迫状が送られてきたって喚いていたから、チャンスだと思ってね