草野 志保(秘書)

私が館長の秘書になってから三年以上が立ちますが、事の発端は二年前、館長が心臓病と診断されたことでした

秘書の草野は、当時のことを想いだすように目を細めた。

草野 志保(秘書)

これまでと勝手の違う体にストレスが溜まっていたんだでしょう。今まで温厚だった館長が、気象の荒い人へと変わってしまったんです

東條 夕日

以前は温厚だったんだな

草野 志保(秘書)

ええ。でも、それからはこのホールの雑務は全て私に押し付け、日常の世話も任され、挙句にはまとまりかけていた結婚の話を、自分の傍から私が放れないように、相手の男性に嘘を吹き込んで破たんに追いやられたんです

矢野 樹理

どうして警察に相談しなかったの?

草野 志保(秘書)

彼はもう他の女性と結婚を結婚してしまったしね。館長を訴えても、その後に私に残るものはないと思いましたから。だけど、それからの二年間は、私にとって本当の苦痛でした。館長を本当に殺してしまいたいくらいに。だけど、人生を台無しにしたくないから我慢していたんです

小柳 真

なるほど。それで、館長に脅迫状が届いたことをチャンスと思い、今日決行したんだな?

草野 志保(秘書)

そうよ。以前から、ばれないように館長を殺す手段を練っていましたから。私以外に自分が犯人と思ってくれる人がいる程、いい機会はないですからね。でも、まさかあんなダイイングメッセージを残されるなんて……最後まで館長から解放されることはできなかったってことでしょう

渋谷

どんな理由があるにしろ、人を殺していい事にはならない! その罪は償ってもらうぞ

草野 志保(秘書)

はい。分かっています

その会話を最後に、渋谷は秘書の草野を連れて、パトカーへと向かって行った。

生徒会長

さて、私たちも帰りましょうか!

佐藤 立夏

まだクレープ屋は開いているのか!?

神嶋 伸也

あと一時間くらいは開いていたはずだ。急ごう!

その後俺たちも、クレープを目指してこの部屋を後にした。

小柳 真

おっと、そういえば携帯電話をかんっ調質に忘れてしまった!! 悪いが東條、取って来てくれないか?

東條 夕日

何で俺が

小柳 真

部長命令だ

東條 夕日

ち……分かったよ

仕方なく俺は、館長室へと戻って行く。

東條 夕日

あった、これだな

黒のスマートフォン。
それを手に取り、俺はみんなに元へ戻る。

その、一瞬前に。

音源に目をやれば、今手に持った形態が鳴っている。

相手は非通知だった。
何の気なしに(あいつの弱みでも握れればという魂胆が少しはあったかもしれないが)、俺はその電話に出る。

東條 夕日

はい。もしもし

そして、電話の相手はこう言った。

第三の親

姫宮愛沙は預かった。返してほしければ『一度離婚した人に蓋をした場所』へ来い

東條 夕日

な!? 貴様、誰だ!? 姫宮は無事なのか!?

第三の親

今はな。だが、タイムリミットは二十時だ。その時刻を過ぎれば、この女の無事は保証しない

東條 夕日

ま、待て! いきなり言われても俺は昨日この街に来たばかりなんだ。分かるわけがない。ヒントをくれ!

第三の親

ふん、仕方ないな。では、選択肢を与える。鵺夜(ぬえや)高校。アパートのスカラ。菊池公園。横山幼稚園。菊池裁判所。この五つの内のどこかにいる。では、検討を祈る

その言葉を最後に、通話は向こうから着られていた。

東條 夕日

くそ。鵺夜高校は俺の転校した高校だが、離婚した母との関連がないな。公園もまた然り。幼稚園や裁判所は離婚や母とそれぞれ関連がありそうだが……やはり一番はアパートのスカラか……

アパートのスカラとは、俺の引っ越し先のアパートのことだ。確か昨日会って話した隣の女性は、離婚経験がありだと言っていた。

東條 夕日

だが、離婚は二回だと言っていたな……ちっ。やはり俺ではだめか!

そう思い、この街に詳しいみんなの元に戻る。

だが。

そこには誰もいなかった。

東條 夕日

あいつら、一体どこに

残念なことに、俺はあいつらの連絡先を知らない。

つまりは手詰まりだった。

東條 夕日

やはり俺が行くしかないようだな

現在時刻、十九時十三分。
姫宮を救うために、俺は電話の主が残した場所を探るべく、意識を集中した。

* * * * *

こんにちは。ご覧いただきありがとうございます。

さて、漸く殺人事件編が解決しました。と思えば、東條君はまた新たな事件に巻き込まれた模様です。

一体愛沙ちゃんはどこにいるのでしょう? そして、彼女は無事なのでしょうか?

全ては読者の皆さんに懸かっています。

それでは、今回はこの辺りで失礼します。

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