天才、神童、神に与えられし手・・・どれもガキの頃の俺によく付けられた称号だ。
天才、神童、神に与えられし手・・・どれもガキの頃の俺によく付けられた称号だ。
世間は俺をそうやって持ち上げて祝福し、いつからか俺はそれを当たり前として受け入れていた・・・。
そんな俺の人生でもっとも輝かしかったのは、全日本学生ピアノコンクールで優勝した頃。俺の演奏を聴いた時の審査員の唖然とした顔は、今でも忘れることができない・・・。
このまま音大に入学して、首席で卒業・・・。そしてそのまま世界的なピアニストになる。あの時の俺は、それがごく当然のことと思っていた・・・。
だが、俺に音楽の才能はあっても努力の才能はなかった・・・。作曲理論や音楽史、一般教養・・・。音大の授業は、持って生まれた才能に加えて、地道な努力が要求されるものばかりだった。
はじめは見下していた他の連中も・・・気付けば皆、俺よりもはるかに先を進んでいた。
そうなると音大に俺の居場所はなかった。「ここに俺の才能を理解できるものはいない!」そううそぶいて俺は音大を去った。
あれから10年・・・。今、俺の両手はピアノの鍵盤でなく、薄汚れたキーボードに向かう毎日だ。
ふう、何とか今月も締切に間に合わせられそうだな!
どうよ明ちゃん?今月号の原稿は?
はい、何とか間に合いそうです!
そうか!そりゃいいね!
今、俺が働いてるのは「ストリエ出版」。パチンコ攻略誌や芸能情報誌、ヤクザの実話系のルポなんかを得意とする中小の出版社だ。
いいね~!この『グンマーの山中に潜む、熊の着ぐるみの凶悪殺人鬼』の記事!!田舎の閉鎖的なヤバさがよく出てるよ!
そうっすか!ありがとうございます!!
そんなストリエ出版で俺が所属してるのは「月刊アウターゾ-ン」編集部。今の記事みたいなインチキ臭い古今東西のB級のネタを探して雑誌にするのが俺の仕事だ!
「面白いウソはウソじゃない!」がモットーなので、話のウラなど全く取っていない。ソースがネットの噂やホラー小説、場合によっては完全なねつ造のときもある。
もちろん、読者もその辺りのことは分かって買っているので、特に抗議が来たりすることはない。
ところで明ちゃん・・・。来月号のネタなんだけどね?
えええ、もう来月号の話っすか?まだ全然何もないっすよ!!
うん。実はユウジがいいネタ見つけたんだけど・・・。アイツ今免停中だからさ・・・。
残念だけどアキラ先輩に譲るッス!しっかり取材お願いします!!
免許が必要ってことは・・・。
ふう・・・どうせまたどっか山奥の妖怪か何かなんだろ?
さすがアキラ先輩!!そのとおりッス!
何でも青森の山奥に「6本指の天才ピアニスト少女」が引きこもってるらしいっす!
何だそれ?全然、意味分かんねえよ?
だからお前が行って確かめるんだろうが!!
音大中退ならちょうどいいな!頼んだぞ!
しょうがないなあ・・・。分かりましたよ!
こうして俺は、青森県の山奥村へと向かった!!