発生した気体は部屋の中に充満し始めた。

僕はそれを確認するとバスルームへと避難し、
ドアに体重をかけながら力一杯押さえつける。
 
 

トーヤ

はぁっ……はぁっ……。

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

がぁあああぁー!

 
 
 
ドアを破壊しようとする衝撃音とともに
悶え苦しむような
モンスターの声が聞こえてくる。


もしモンスターよりも先に
ドアが限界に来たら
僕に逃げる場所はない。倒せる力だってない。
いわゆる袋のネズミ……。


あとはうまくいってくれることを祈るだけだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
それからしばらくして、
ドアを攻撃してくる音がしなくなった。
モンスターのうめき声も聞こえなくなる。


勝負は決したのかな――と思った矢先、
ドアの向こう側で大きな爆発音が響き、
バスルーム全体が大きく揺れた。

そしてたくさんの人の声で騒々しくなる。
 
 

カレン

トーヤ、もう大丈夫よ!

 
 
 
 
 

 
 
カレンの声を聞き、僕はドアを開けた。

すると部屋にはカレンたちのほかに
陸走船の傭兵さんらしき人たちや
セーラさん、クロウくんの姿もあった。
 
 

カレン

トーヤ!

トーヤ

カレン、
モンスターはどうなったの?

カレン

うん、毒で倒せたみたい。
そのあと、セーラさんたちが
駆けつけてくれたから
窓に穴を開けて毒を排出したの。

クロード

モンスターが絶命しているのを
カレン様が確認しました。
ご安心ください。

トーヤ

そうだったのかぁ。

カレン

さすがトーヤねっ!
今回は100点をあげるっ!

トーヤ

てはは……ありがとう。

ライカ

お疲れ様でした、トーヤさん。
おかげで私たちは助かりました。

トーヤ

いえ、みんなで
力を合わせたからですよ。

セーラ

トーヤくぅん!
ご無事でなによりなのですぅ!

クロウ

まさかこんなことになるなんて。
想像もできませんでしたよ……。

トーヤ

セーラさん、クロウくん……。

 
 
セーラさんたちには心配をかけちゃったな。


それにしても今回のことで
セーラさんの存在感の大きさを再認識した。
最近は彼女に頼り切りだったかも。

僕ももっと強くならないとな……。
 
 

クロウ

非常事態なので
僕も特別に船室から出させて
もらっちゃいました。

トーヤ

そうだったんだ。

クロウ

まさか船室にモンスターが
現れるなんてビックリです。

ニック

後始末は我々にお任せください。
それと皆さんには詳しい経緯を
お聞かせいただきたいのですが。

トーヤ

はいっ!

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
僕たちは自分の部屋に移動し、
ニックさんへ事情を説明した。

それを聞いたニックさんは声を失い、
にわかには信じられないといった感じの
顔をしていた。


……でも当然だよね。
間近にいた僕たちだって、
まだ起きたことが信じられないくらいだもん。



ちなみにほかのお客さんに真実を伝えるのは
不安をあおるだけということで、
単にモンスターが陸走船を襲ってきたと
説明するらしい。

うん、その方がいいかも……。
 
 

セーラ

それにしても女の子が
モンスターになってしまった理由は
なんなんでしょうねぇ?

カレン

それは私たちにも分かりません。

クロード

でも原因が分からないのなら
また起きる可能性があります。
警戒しておいた方がいいでしょう。

ニック

そうですね。
ノースエンドに到着するまで
見回りやお客さまの様子の
チェックを強化します。

ライカ

あの、女の子のご両親は
どんな様子なんですか?

 
 
そうだ、僕もそれが気になっていた。

だって自分の娘がモンスターになっちゃって、
しかも倒されてしまったんだから。
きっと沈痛な面持ちでいるに違いない。
 
 

ニック

それがですね、
あのあと姿が見えないのです。
今、船内を探させていますが……。

ライカ

それはおかしいですね。
自分の船室で
あんな騒ぎがあったと知ったら
駆けつけてくるはずですが。

トーヤ

そうだよね……。

セーラ

何か裏がありそうですねぇ。

クロウ

ところで、僕はずっと
気になっていることがあるのですが
トーヤさんはなぜ
毒に冒されなかったんですか?

トーヤ

えっ?

クロウ

だってモンスターを
毒で倒したんですよね?
そこに一緒にいたんですよね?

トーヤ

えっと、それはね――

セーラ

毒を無効化するアイテムを
装備していたんですよぉ。
以前に私があげたものなのですぅ。

トーヤ

っ!

 
 
僕がセーラさんに視線を向けると、
彼女はかすかに目顔で合図を返してきた。


そうか、セーラさんは僕の能力を隠すために
機転を利かせてくれたんだ。

また助けられちゃったなぁ……。
 
 

トーヤ

そういうことなんだ。
いつもセーラさんには
助けられちゃってるよ。

クロウ

なるほど、そういうことでしたか。
納得しました。

 
 
こうして謎の事件はとりあえず幕を閉じた。

ただし、なぜ女の子がモンスターに
変身してしまったのか、原因は分からないまま。
結局、女の子のご両親も見つかっていない。


なんだか嫌な予感がするなぁ。
何事もなく旅が進められればいいんだけど……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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