熱で苦しんでいた女の子が
モンスターになっちゃったっ!

――これは見間違いなんかじゃないっ!


モンスターのすぐ隣でカレンが震えている。
突然のことに驚き、
足が震えて動かないみたいだ。
 
 

トーヤ

カレンっ!

 
 

 
 
僕はカレンの手を握り、
強くこちらへ引っ張った。
そしてモンスターとの間に入り、
両手を横に広げてカレンを庇う。


絶対にカレンを傷付けさせるもんかっ!


僕たちはモンスターの方を向いて牽制しつつ、
ベッドのある場所と反対側の壁際へ
後ずさりしながら移動した。
 
 

カレン

トーヤ……。

クロード

トーヤ様っ、そのナイフを私に!

トーヤ

あ、はいっ!

 
 
僕は腰に差していた護身用のナイフを
鞘に入ったままクロードさんへ手渡した。

クロードさんはそれを抜いて構え、前へ出る。



……そうか、船内でこんなことになるなんて
想像もしていなかったから、
クロードさんもカレンも丸腰だったんだ。

周りに武器になりそうなものはないし……。



しかもクロードさんは
魔法力を大きく消費しちゃってるから
できることは限られる。

接近戦で頼りになるセーラさんは
この場にいないし、旗色が悪すぎるよ……。 
 
 

ぐるるるる……。

 
 

クロード

ここは私が食い止めます。
その間に皆様はお逃げください。

カレン

何を言ってるんですか!
そんなことをしたら、
いくらクロードさんだって
無事では済まないですよ!

クロード

……えぇ。承知の上です。

ライカ

クロードさん……。

トーヤ

そんなこと、できるわけない!
僕たちは仲間でしょ! クロード!

 
 
僕は思わず叫んでいた。

だってクロードさん――いや、クロードを
犠牲にしてまで逃げたくない!
 
 

クロード

トーヤ……さま……。

カレン

そうよ、クロード!
カッコつけてんじゃないわよっ!

ライカ

みんなで切り抜けましょう!

クロード

……はいっ!

 
 
クロードの瞳には涙が浮かんでいた。


――うん、僕たちはいつまでも一緒だよ!



でも問題はこのピンチをどう乗り切るかだ。
接近戦ができるのはクロードさんだけ。
僕はナイフをクロードさんに貸しちゃってるし。

せめて武器になるようなものがあれば、
カレンも戦えるんだけど。


そうなると頼りになるのは
カレンとライカさんの攻撃魔法か……。
 
 

トーヤ

カレン、ライカさん。
魔法であいつを攻撃して、
クロードの援護をしてあげて。

ライカ

それはもちろんですが、
派手な攻撃魔法は避けないと。
船が深刻なダメージを
受けてしまいますので。

カレン

しかもこの密閉空間だと、
私たちまでダメージを
受けてしまうわ。

トーヤ

う……。

 
 
そうか、2人の言う通りだ……。


つまり攻撃魔法だと
決定的なダメージは与えられない。

いったい、どうすればいいんだろう?
 
 
 
 
 

ごぁああああぁーっ!

 
 
 
 
 

クロード

くっ!

 
 
ついにモンスターが飛びかかってきた。

簡単に肉が引き裂かれてしまいそうな
鋭い爪と牙が迫る!
 
 
 
 
 

 
 

がぁっ!?

 
 

トーヤ

えっ?

カレン

……そうはさせないんだから。

 
 
間一髪のところで
カレンが結界魔法を唱えていたようだった。

僕たちの前には光の壁が生まれ、
モンスターをこちらへ近付けさせない。
 
 

ライカ

…………。

 
 
続けてライカさんが何か呟いた。

するとモンスターの足下に魔方陣が出現し、
そこから眩い光が吹き上がって柱になる。
 
 
 
 
 

 
 
 
 

ライカ

光滅陣っ!

 
 
 
 
 
その声に合わせ、
光の柱はモンスターを完全に包み込んだ。


近くにいるだけで僕もちょっと息苦しい。

光系の攻撃魔法は
魔族にも効果が高い系統だから
影響を受けているのかも。
 
 

カレン

すごい……。
これは光系でも
高位の攻撃魔法よ。

クロード

しかも外部への影響は
ほとんど出ませんからね。
こういう状況では
最適の攻撃魔法ですよ。

 
 
やがて光が収まり始めた。
これでピンチは脱出できたはず――
 
 

トーヤ

えっ?

ライカ

そん……な……。

 
 
 
 
 

ぐるるる……。

 
 
その場にはモンスターが無傷で佇んでいた。


なんで全然効いてないのっ!?
僕たちは一様に目を丸くしながら愕然とする。
 
 

カレン

魔法耐性……。

トーヤ

えっ?

クロード

どうやら攻撃魔法に対して
かなりの抵抗力があるようです。
魔法で倒すのはかなり難しいかと。

トーヤ

そんなっ!

 
 
倒せたと思ったのに、ぬか喜びだ。

攻撃魔法も効果が薄いんじゃ、
どうやってこのピンチを切り抜ければ
いいんだろう……。


もう僕たちに残された攻撃手段はない。
援護が来るまで時間稼ぎをするしかないのか?
 
 

トーヤ

……あ。

 
 
その時、部屋に散乱している
様々な薬草や薬が僕の目に留まった。

あれは女の子の治療で使えそうなものを選んで
僕が船室から持ってきたものだ。



――そうだ、僕の力を総動員すれば、
もしかしたら
このピンチを切り抜けられるかもしれない!
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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