僕は解熱剤や役に立ちそうな薬を持ち、
クロードさんやライカさんと一緒に
女の子のいる船室へ戻った。

ベッドでは依然として女の子が苦しんでいる。
 
 

カレン

あっ、トーヤ!

トーヤ

女の子の容態はどう?

カレン

思った以上に深刻よ。
ウイルス性の感染症にかかって
肺炎も起こしてる。

トーヤ

えぇっ!?

カレン

しかも知られていないウイルスよ。
だからピンポイントで効く薬は
ないかもしれない。

トーヤ

そんな……。

レイ

…………。

 
 
そうなると自己治癒能力を補佐する薬か
抗ウイルス系の薬で
効果が出るのを期待するしかないか……。

いずれにしても体力が持つかどうかが
カギになってくると思う。
 
 

クロード

あの、私たちがここにいても
大丈夫なのですか?

カレン

安心してください。
抵抗力が弱い子どもや
お年寄り以外は
ほぼ発症しないことは
診察魔法で確認できていますので。

カレン

――って、
クロードさんがなぜここへ?

トーヤ

それなんだけど、
クロードさんが氷の問題を
なんとかしてくれるんだって。

カレン

セーラさんは?

トーヤ

冷凍装置の修理に向かったよ。

カレン

そうなんだ。

クロード

では、準備をいたします。
氷はバスタブに入れるということで
よろしいですか?

カレン

はい、お願いします。

ライカ

では、トーヤさんも
クロードさんと一緒にバスルームへ
行っていてください。

ライカ

この時間を利用して
女の子の着替えをしますので。

トーヤ

分かりました。

カレン

……絶対に覗いちゃダメよ?

トーヤ

の、覗かないよ……。

 
 
カレンの目は鋭く吊り上がっていた。


そこまで不機嫌になることないのに。
だって僕が覗くわけないもん。

それとも信用されてないのかなぁ……?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
僕とクロードさんはバスルームに入った。

そこにはシステムバスになっていて、
広さは奥行きと高さ、横幅のそれぞれが
2メートルくらい。

すごくじめじめしていて、息苦しさもある。
 
 

トーヤ

クロードさん、
ここで何をするつもりなんですか?

クロード

氷系の魔法を使い、
バスタブを氷の粒で満たします。

トーヤ

えっ? でも、まだこの地域は
イフリートの砂漠の
範囲内ですよね?
使えないんじゃないですか?

クロード

実は方法があるんです。
以前、お話ししましたよね?
万が一、水が足りなくなった時には
奥の手があると。

トーヤ

そういえば……。

 
 
確かポートゲートからサンドパークへ向かう
陸走船の中で、
大きな水のタンクを見た時の話だ。

もし滴りの石にトラブルが起きても
奥の手があるって話を聞いた。


あの時は企業秘密か何かということで、
何度聞いても教えてくれなかったんだよなぁ……。
 
 

クロード

でもそのために使う魔法道具が
稀少で非常に高価なので、
所有している方は
ほとんどいないのです。

クロード

詳細な価格は
申し上げられませんが、
おおまかに言うと
お城が買えるくらいの価格です。

トーヤ

いぃっ!?

 
 
まさかそんなに高いものだとは思わなかった。
宝石に換算したとしても、
相当な量になるんだろうなぁ。

庶民の僕には想像もつかないよ……。
 
 

クロード

お客さまや社員に
万が一があってはいけません。
だから弊社では全ての陸走船に
配置しているのですよ。

トーヤ

ということは、
クロードさんが持っているものも
サラサラ陸運の所有物という
ことですか?

クロード

はい、その通りです。
もちろん、マイルの許可を得て
持ってきています。

トーヤ

でも持ってきてしまったら、
サラサラ陸運の陸走船は
大丈夫なんですか?

クロード

ご心配なく。
予備がありますので。

トーヤ

す、すごい……。

 
 
お城が買えるくらいに高価なものなのに
予備まで持っているなんて……。

あらためて僕たちはすごい人たちと
知り合いになったんだなぁって思う。
 
 

クロード

では、始めます。

クロード

…………。

 
 
クロードさんは懐から
小さなロッドを取り出した。

上部には血の色をした
丸い魔法玉が付いていて、
見ていると少し気持ちが悪くなってくる。


……でもどこかで感じたことのあるような
懐かしい気配。

どうしてそんな感覚がするのか、
理由は分からないけど。
 
 
 
 
 

クロード

……っ……!

 
 
 
 
 
クロードさんが何かを呟くと
魔法玉が淡く光った。
それをバスルームの四隅に軽く触れていき、
最後にその光の軌跡で魔方陣を描く。


すると部屋の中に空間の揺らぎが生まれ、
それが少しずつ膨らんでいく――。
 
 

クロード

う……。

トーヤ

クロードさんっ!

 

結界が完成すると同時に、 
クロードさんは半ば意識を失いかけた感じで
倒れそうになってしまった。


それを見た僕は慌てて彼の肩を両手で掴んで、
なんとか体を支えようとする。
 
 

トーヤ

うぐ……重い……っ!

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
支えきれずにバランスを崩し、
僕たちは一緒に床へ倒れてしまった。

でも寸前までなんとか踏ん張ったおかけで
お互いに大きな衝撃を受けたり、
頭を打ったりしなかったのは良かったけど……。
 
 

トーヤ

っ!

クロード

…………。

  
  
気が付くと、目の前にはクロードさんの顔。
しかも息遣いさえ聞こえるくらいの距離だ。
こうしてよく見てみると、
すごくきれいな肌をしてるなぁ。


――と、ボーッと見つめていたら、
不意にクロードさんと目が合ってしまった。

ちょっと気まずい……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第75幕 クロードの奥の手

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