クロウくんが僕たちの船室で過ごし始め、
数日が経過した。
今のところは順調な旅が続いている。


僕は今回の船旅でも酔い止めの薬を作る毎日。

というのも、船酔いで辛そうにしている人が
たくさんいるのを知って処方してあげたら、
それがきっかけで噂が広まったんだ。


そして運航会社である
ジリジリ観光の担当者のニックさんから
正式に依頼を受けたというわけ。

その人とクロードさんが顔見知りだったのも、
話がすんなり進んだ理由かもしれない。


ただ、今回はライカさんもいるので
少しだけ負担が減ってすごく助かっている。
 
 

ライカ

トーヤさん、
私の担当していた成分抽出が
終わりました。
確認していただけますか?

トーヤ

あ……分かりました。
でもライカさんがやったのなら
僕が確認しなくても
大丈夫だと思うんですけど。

カレン

一人前の薬草師だし、
シンディさんのところでの
キャリアもあるもんね。

ライカ

いえ、この調薬の責任者は
トーヤさんです。
その立場である以上、
きっちりしていただかないと。

 
 
ライカさんはキッパリと言い切った。

でもカレンの言うように、
僕が確認をする必要がないくらいに
ライカさんの調薬レベルは高い。


それはサンドパークにいた時に
何度も目の当たりにしている。

――だったら僕の結論は決まってる。
 
 

トーヤ

では、責任者の立場として
そのまま使うことにします。
僕はライカさんの腕を
信頼していますから。

ライカ

トーヤさん……。

トーヤ

何かあった時は
僕が責任を取ります。
それでいいですよね?

ライカ

はい、そういうことであれば。

 
 
ライカさんは嬉しそうだった。

でも本当に彼女の腕は信頼できるんだもん。
これは当たり前のことだ。
 
 

セーラ

トーヤくん、
ちょっとカッコイイですねぇ。
少しは自分に自信が
出てきたのかもしれませんねぇ。

トーヤ

そんな……。
まだまだ僕なんて……。

クロウ

僕のことも助けてくれましたし。

カレン

あんまりみんなして
トーヤを困らせないの。
それに気が緩んだ時こそ
危ないんだから。

セーラ

カレンちゃんは冷静ですねぇ。
こういうしっかりした子が
一緒にいるというのは
トーヤくんも幸せ者ですねぇ。

カレン

な、何を言ってるんですかっ、
セーラさんっ!!

クロード

そうですよ、
その程度なら私でさえ
代わりが務まります。

カレン

っ!

 
 
クロードさんは微笑みながら言い放った。
物腰はすごく柔らかいけど、
カレンとの間には火花が散っている。

なんか空気が急にピリピリしてきたような……。
 
 

カレン

クロードさんはトーヤと知り合って
まだ日が浅いですよね?
トーヤの好みとか、
分かってるんですか?

クロード

これから学ばせていただきます。
じっくりと。

カレン

トーヤは忙しいんです。
調薬をしていない時は
休ませてあげてくださいね。

 
 
 
 
 

クロード

っ!

カレン

っ!

 
 
 
 
 

トーヤ

あ……あの……。

 
 
カレンとクロードさんは一触即発な雰囲気。

僕は慌てて間に入ろうとしたけど、
クロウくんが僕の服を軽く引っ張りながら
首を横に振っている。
 
 

クロウ

トーヤさん、
今は何も言わない方が
いいと思いますよ?

ライカ

ふふっ、私もそう思いますっ♪

 
 
僕はどうしてそんなことを言われたのか、
よく分からなかった。

でも直感的にそうした方がいいと思ったので、
素直にクロウくんとライカさんの忠告を
聞くことにした。


それからしばらくの間、
カレンとクロードさんの静かなる緊張状態は
続いたのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
それから数時間が経過し、
僕とカレンは完成した酔い止めの薬を
医務室へ運んだ。

そこには運航会社が雇っている
担当医さんがいて、
その人に全部手渡して船室へと戻ろうとする。


でもその時、医務室に誰かが駆け込んでくる。
 
 

ニック

あっ! カレン先生!
トーヤ先生!

 
 
それは運航会社の担当者のニックさんだった。
ここまで全力疾走してきたのか、
額に大汗をかいている。

ちなみにクロードさんと顔見知りというのは、
この人だ。
 
 

カレン

どうなさったのですか?

ニック

急患が出たんです。
診察をして
いただけませんでしょうか?

トーヤ

えっ?

カレン

もちろんです。案内してください。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
案内された船室では
幼い女の子がベッドに寝かされ、
苦しんでいた。

すぐ横ではご両親らしき人たちが
悲痛な面持ちで容態を見守っている。
 
 

レイ

……う……ぐ……。

カレン

すごい熱……。
これはまずいわ……。

トーヤ

ニックさん、
氷を用意していただけますか?

ニック

それが……陸走船の冷凍装置が
故障していて……。

 
 
ニックさんはハンカチで汗を拭きつつ、
申し訳なさそうに返答する。


悪いことは重なるものだ。
こんな時に冷凍装置が使えないなんて……。

ここはまだイフリートの砂漠の範囲内。
氷系や水系の魔法は使えない。
 
 

カレン

セーラさんなら
直せるかもしれないわ。
頼んでみましょう。

トーヤ

あっ、そうだねっ!
僕、船室へ戻って伝えてくる。
ついでに解熱剤も持ってくるよ。

カレン

お願い。

 
 
こうして僕は自分たちの船室へ急いだ。

一方、カレンはその場に残り、
診察魔法で詳しい病状を調べることに。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
船室に戻った僕は
セーラさんに事情を説明した。

するとセーラさんは自分の胸を叩き、
すぐに快く引き受けてくれる。
 
 

セーラ

分かりましたぁ。
お力になれるかどうかは
分かりませんがぁ、
見るだけ見てみますねぇ~。

トーヤ

お願いします、セーラさん。

クロード

あのっ、トーヤ様。
私にお任せいただけますか?
なんとかなると思います。

トーヤ

えっ? クロードさん、
冷凍装置を直せるんですか?

クロード

いえ、別の方法で
氷を用意できるのです。
一時的なものですが。

トーヤ

ホントですかっ?
ぜひお願いします。

クロード

では、患者さんのいる部屋へ
案内をお願いします。

セーラ

ではでは、
私は冷蔵装置の調子を
見てきますぅ。

トーヤ

クロウくんはここにいてね?

クロウ

はいっ! 留守番してますっ!

 
 
僕たちはそれぞれ行動を開始した。


絶対にあの子を救ってみせる。

待っててね、
きっと病気の苦しみから開放してあげるから。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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