バスルームの中には男の子がいた。
僕たちが急にドアを開けたからなのか、
驚きながら後ろへ跳び上がって
尻餅をついている。
バスルームの中には男の子がいた。
僕たちが急にドアを開けたからなのか、
驚きながら後ろへ跳び上がって
尻餅をついている。
キ、キミはいったい?
あうあう……。
ちょっとっ!
しゃきっとしなさいよっ!
ひゃんっ!
ダメだよ、カレン。
そんな頭ごなしに怒っちゃ。
でも……。
僕は薬草師のトーヤ。
それに医師のカレンと
商人のクロードさん。
キミの名前は?
驚かせないように、僕は優しく問いかけた。
すごく怯えているから、
落ち着いて話せるように気遣ってあげないと。
僕だっていきなり怒鳴られたら、
頭の中がごちゃまぜになって慌てちゃって
うまくお話ができないもん。
笑顔で話をしてくれるのを待っていると、
彼は強張っていた表情を少し緩め、
上目遣いに僕を見つめながら口を開く。
……使い魔のクロウです。
キミはなぜここにいるのですか?
ここは私たちの船室のはずですが?
部屋を間違えたとは
言わせないわよ?
自分の部屋だと思っているなら、
隠れる必要はないものね?
あ……確かにそうだね……。
理由を説明していただけますか?
ことと次第によっては
なんとかして
あげられるかもしれない。
だから話してみて?
っ……。
大丈夫、怖がらないで。
…………。
…………。
僕はクロウくんの頭を撫でた。
――でもそのあとで気付いたんだけど、
やっぱりそれってまずかったかな?
見た目は年下に見えるけど、
魔族なら実年齢と一致しないことがよくある。
もしかしたら何百歳も年上かもしれない。
例えば、セーラさんは280歳を超えてて、
クロードさんは185歳。
ライカさんは123歳なんだって。
でもそんな僕の心配は杞憂に終わり、
クロウくんは笑顔になってくれる。
あの……僕はとある理由があって
旅をしているんです。
でも陸走船に乗るおカネがなくて、
その……忍び込んで……。
なっ!? それってつまり
密航ってことっ?
ゴメンなさいっ、
ゴメンなさいっ!
とある理由とは?
ある人へ手紙を届けてくるよう
ご主人様に命じられて。
でも次々と引っ越しをしていて
なかなか見つけられなくて。
でも今はダンリの町にいると
ようやく突き止めたんです。
でも長旅のせいで
旅費が乏しくなってしまって……。
それで密航をしたわけですね?
はい……。
そっかぁ、そんな事情があったのか……。
確かに陸走船の運賃って高いもんね。
僕たちだって滴りの石がなかったら、
どうなっていたか分からなかったわけだし。
実際、セーラさんは密航しようとする
雰囲気になった時もあったからなぁ。
その人の名前は?
ガイネさんといいます。
えっ?
私たちが
会いに行こうとしている方と
同じ名前ですね。
ダンリにいるという点も同じです。
そうなんですかっ!?
クロウくんの探している
ガイネさんって、
何をしている人なの?
技巧師(クラフター)だそうです。
技巧師は歯車や金属の棒などを組み合わせ、
魔法以外の動力を使って運動させる道具を
作ったり整備したりする職業だ。
武器職人であるセーラさんと
やっていることは似通っているかも。
もっとも、彼女は武器職人とはいえ、
技巧師っぽいこともしてるけどね。
さすが名工って呼ばれているだけはある。
しかもその上、一流の商人でもあるんだから
その多彩な才能がうらやましい。
別人かしら?
そうかもね。
シンディさんの関係者なら、
薬草師とか医師とかだろうし。
シンディさんに
職業を聞いておけばよかったわね。
それでトーヤ様。
クロウ様の処遇は
いかがいたしますか?
警備員に突き出しますか?
ひっ!
それは……可哀想ですよ……。
クロードさん、
穏便に済む方法はありませんか?
お優しいトーヤ様なら
そうおっしゃると思いました。
お任せください、
私が責任者と交渉して参ります。
クロードさんっ!
…………。
その後、クロードさんが
交渉してくれたおかげで、
条件付きで無罪放免ということになった。
――その条件というのは、
僕たちがクロウくんの身元引受人になること。
つまり船に乗っている間は
僕たちがクロウくんの行動を管理する
義務を負うことになる。
そんなわけで、ちょっと可哀想だけど
勝手に船室から出歩くのは禁止とか
行動に制限はつけさせてもらった。
でもそれ以外に不自由はないし、
密航している時よりは
ゆったり過ごせると思う。
だって誰かに見つからないかなって、
ビクビクしなくていいんだから。
トーヤさん、
寛大に取りはからっていただき、
ありがとうございますっ!
いいんだよ、困った時はお互い様。
またまた楽しい仲間が
増えましたねぇ。
トーヤさん、クロウくんは
ダンリまで行くんですよね?
でしたら一緒に旅をするというのは
いかかですか?
実はみんなにその話をしようと
思っていたんです。
どうですか?
私は賛成ですよぉ。
私はトーヤ様の判断に従います。
私も問題ありません。
カレンは?
……私は反対。
だってまだクロウのことを
よく知らないし。
……ですよね。
見ず知らずの僕なんか
受け入れてもらえなくて当然です。
でも、今後の行動次第で
認めてあげてもいいわ。
ノースエンドに着くまでの間、
しっかり見極めさせてもらうから。
カレンっ!
カレンさんっ!
ありがとうございますっ!
…………。
こうして僕たちの旅に
暫定的ではあるけど、クロウくんが加わった。
ますます楽しい旅になりそうだ。
素直ないい子っぽいし、性格も僕に近そう。
ノースエンドに着くまでに
たくさんの色々なお話をしたいなぁ。
次回へ続く!