ノースエンド行きの陸走船は
サンドパークを出発した。
僕たちは甲板から離れゆく町の様子を眺め、
それが見えなくなってから船室へ移動する。
ノースエンド行きの陸走船は
サンドパークを出発した。
僕たちは甲板から離れゆく町の様子を眺め、
それが見えなくなってから船室へ移動する。
特等船室って
どんな感じなんだろうね?
2等船室より広くて、
ベッドも横に
並べてあるんじゃない?
ポートゲートから乗った陸走船は
2段式のベッドでしたからねぇ。
クロードさんはどんな感じなのか
ご存じですか?
いえ、私にも分かりません。
ほかの運送会社の船には、
乗る機会が
ほとんどありませんので。
マイルの仕事の関係で
急いで移動しなければならない時は
社有のチャーター船を
利用しますし。
なるほど……。
それにサラサラ陸運は
貨物便が主体ですもんね。
いえ、かつては旅客便も
運航していました。
でも旅客便はハッキリ言って
貨物便より儲からないのですよ。
そうなんですか?
経費のかかる部分が多いですし、
競争も激しいですからね。
それで弊社は貨物主体の運航へ
経営をあらためたのです。
そうだったんですか。
そっかぁ、サラサラ陸運は
最初から貨物主体の陸運会社というわけじゃ
なかったんだね。
色々な事情があるもんなんだなぁ。
薬草師は薬草や薬、
植物などを相手にしているだけで、
経営のことなんて関係ないもんね。
コストのことを考える程度かな。
かつて弊社が所有していた
旅客用の陸走船は、
デザート運輸様へ売却しました。
現在も活躍していますよ。
安全性が低いけど、
運賃が一番安い会社だっけ。
そういえば、
この陸走船はどこの会社が
運航しているんですか?
ジリジリ観光様です。
ノースエンドに拠点を置いている
陸運会社ですね。
安全性は弊社と同等くらいです。
それならある程度は安心ですね。
なお、快適に過ごして
いただけるよう、
私がサポートいたします。
トーヤ様、
旅の途中でのお世話は
私にお任せください。
ッ!?
いえ、自分のことは
自分でやりますよ。
クロードさんは対等な立場の
旅の仲間じゃないですか。
今まではお世話になっている会社の人と
お客さまみたいな感じの関係だったけど、
もう完全に旅の仲間同士だもん。
気を遣ってくれるのは嬉しいけど、
仲間だからこそ普通に接してほしいって
気がするしね。
仲間と認めていただき、恐縮です。
でも好意でやらせていただくことは
構いませんよね?
ご迷惑でなければですが……。
そんな迷惑だなんて……。
それなら適度な感じで
お願いします。
承知いたしましたっ!
……あ、もちろんほかの皆様も
お世話させていただきます。
ありがとうございますぅ!
よろしいのですか?
はいっ、もちろんです。
トーヤぁ♪
っ?
急にカレンがニコニコして僕の腕を掴んだ。
温かな体温が伝わってくるし、
マシマロみたいに柔らかな感触もする。
……なんだかちょっと照れくさい。
トーヤ、何かあったら私にも
気軽に言ってくれていいのよ?
もちろん。調薬の時、
手伝ってもらうつもりだよ。
そ、そうじゃなくて、
身の回りの世話とかよ。
あ……うん……。
何かあったらお願いするね……。
遠慮なく言ってくれて
いいからねっ?
わ、分かった……。
うふふふっ♪
トーヤさんも大変ですね。
なぜかセーラさんとライカさんは
僕を見てクスクスと笑っていた。
別に笑われるようなことは
何もないと思うんだけどな……。
特等船室の前に辿り着いた僕たちは、
順番に室内へ入った。
すると全員が途端に感嘆の声を上げる。
豪華な内装と広い室内、
テーブルの上には
カゴに盛られたフルーツも置いてある。
すごい……。
広いしキレイ!
しかも隣にもう一部屋あるみたい!
おそらくキッチンとバスルームも
あると思いますよ。
特等船室なら
それが標準設備ですから。
大きな城下町にある
一流ホテル並の居住性ですね……。
まさに動くホテルですねぇ。
なんか奥へ入るのが恐れ多くて遠慮しちゃう。
クロードさんとかセーラさんとかが
先陣を切って入っていってくれないかな?
こういう雰囲気に慣れてそうだし……。
あれ?
僕はバスルームの方から
かすかに物音がしたことに気がついた。
これは聞き間違いなんかじゃない。
どうしたの、トーヤ?
なんかバスルームの方から
物音がしたような
気がするんだけど。
えっ?
気のせいじゃないの?
いや、確かに聞こえたよ。
僕、確認してくる。
私もお供いたします。
何か危険があるといけませんので。
私も行くっ!
こうして僕とカレン、クロードさんが
バスルームを調べることになった。
緊張しながらバスルームの前まで行くと、
また物音が聞こえてくる。
近付いたせいか、さっきよりハッキリ聞こえる。
カレンとクロードさんも今度は聞こえたみたい。
一様に表情が引き締まる。
やっぱり気配がしますね。
私がドアを開けます。
トーヤ様とカレン様は
お下がりください。
クロードさんは片手を腰の剣に添えつつ、
もう片方の手でドアノブを掴んだ。
僕は護身用のナイフを握りしめ、
カレンもレイピアを構える。
そして僕たち3人が目で合図を送り合うと、
クロードさんが勢いよくドアを開けた。
ひゃっ!
バスルームの中から悲鳴のような声が響いた。
やっぱり誰かがいる。
僕たちが視線を向けてみると、そこには――
次回へ続く!