その後、僕は自分の能力のことを
カレンとセーラさんだけに伝えておいた。

珍しい能力だから少し驚いていたけど、
僕にも力があると分かって
自分のことのように喜んでくれた。

――それがすごく嬉しかったなぁ。





それから数日後、
僕たちはサンドパークを発つことになった。
施療院の前にはシンディさんたちが
見送りに出てきてくれている。


次に向かうのは北西の方向にあるダンリの町。
そこにいるガイネさんを訪ねなさいと、
シンディさんに言われている。

そのためには、まず陸走船に乗って
イフリートの砂漠を越えなければならない。


北西方面の玄関口となっているのは、
ノースエンドという町。
もちろん、マイルさんが副社長をしている
サラサラ陸運を今回も利用するつもりだった。

でも訊いてみたら残念ながら、
そちらの航路は運航していないんだそうだ。


もっとも、マイルさんは自分のツテを使って
特等船室の乗船券を手配をしてくれた。
しかも運賃まで出してくれるという
大盤振る舞い!

ただ、そのマイルさんは仕事の都合で
すでにポートゲートへ戻っちゃったんだって。
きちんとお礼とお別れが言いたかったなぁ。



でもまたきっと会える時が来るって信じてる。
その時に気持ちを伝えようと思う。
 
 

トーヤ

シンディさん、
お世話になりました。

シンディ

こちらこそ、ありがとう。
トーヤのおかげで
私や魔力熱のみんなが救われたわ。

トーヤ

いえ……そんな……。
僕は当たり前のことを
しただけですよ。

カレン

生意気にも照れちゃって。
でももっと誇っていいと思うわ。

セーラ

ですねぇ。今回は大活躍でしたぁ。

トーヤ

いつものことですけど、
僕だけの力じゃないですよ。
みんなの力を合わせたから
困難だって乗り越えられたんです。

ライカ

私も見習わなければいけませんね。
薬草師として、
早くトーヤさんのレベルに
追いつかないと。

マール

…………。

トーヤ

っ?

 
 
僕が照れくさくて指で頭を掻いていると、
マールちゃんが泣きそうな顔で
こちらを見ていることに気がついた。

そして目が合うと堰を切ったように
瞳からボロボロと涙が零れ出す。
 
 

マール

トーヤお兄ちゃん。
お別れするの嫌だよぉ。

トーヤ

マールちゃん……。

カレン

せっかく仲良くなれたのにね。

セーラ

悲しいですねぇ。

トーヤ

また会えるよ、きっと。
その時にまた遊ぼう。

マール

約束だからね?

トーヤ

もちろんだよっ!

 
 
僕はマールちゃんの頭を撫でた。

すると彼女の涙は瞬時にどこかへ吹き飛んで
満面に笑みが浮かぶ。


まるでお日様のような明るさ。
やっぱりマールちゃんは
元気に笑っている方が可愛いと思う。
 
 

ソラノ

寂しくなるねぇ。
体に気をつけるんだよ?
医者や薬草師が病気になったら
シャレにならないからね。

トーヤ

ソラノさん、お世話になりました。

ソラノ

もうあんたたちは私の家族だ。
いつでもこの町へ帰っておいで。
大歓迎で迎えてやるからさ。

カレン

はいっ!
ソラノさんもどうかお元気で!

ミーシャ

…………。

トーヤ

…………。

 
 
その場で唯一、ミーシャさんだけは
外に出てきてからずっと仏頂面だった。

俯いたまま、僕たちと全く目を合わせない。
 
 

セーラ

あらあらぁ?
ミーシャさん、
どうしたんですかぁ?
黙っちゃってぇ~?

トーヤ

セーラさんったら……。
少しは空気を読んでほしい……。

ミーシャ

全然、寂しくないんだから。
悲しくないんだから。
さっさとどこへでも行っちゃえ。

 
ミーシャさんは下唇を噛み、
瞳に涙を浮かべながら僕を睨み付けていた。

程なくしてその涙は溢れ、頬に筋を作る。


激しく鼻を啜りつつ、
それでも瞳はずっと僕に向いたままでいる。
 
 

トーヤ

ミーシャさん……。

セーラ

うふふふっ♪

トーヤ

……また会おうね、ミーシャさん。

 
 
僕はポケットからハンカチを取り出し、
ミーシャさんの涙を拭ってあげた。

すると彼女は頬を真っ赤に染め、
泣き笑いしながら口を開く。
 
 

ミーシャ

だったらそれまで、
あんたのヘアピンを預からせてよ。
その前髪に付けてる子犬のヤツ。

トーヤ

あっ、これか。
でもこれはカレンと――

カレン

そうしてあげなさいよ、トーヤ。
ねっ?

 
 
僕の言葉を遮るようにカレンが言った。
そして穏やかに微笑んで頷いている。


このヘアピンはポートゲートの市場で
彼女と一緒に買い物をした時のもの。
だからもっと反対するのかと思っていたのに。

でもカレンがいいって言うなら、
ミーシャさんの希望通りにしてあげよう。
 
 

トーヤ

じゃ、ミーシャさんに預けるよ。
また会う時に返してもらうね。

ミーシャ

大丈夫。なくさないように
いつも身につけるから。

トーヤ

それはいいけど、
シャワーを浴びる時や
髪を洗う時は外した方がいいよ?

ミーシャ

へっ?

ミーシャ

バッカじゃないの?
そんなの当たり前じゃない。
それ以外の時の話よ。
ホント、どこか抜けてるんだから。

トーヤ

てははは……。

 
 
その場は楽しげな笑いに包まれた。


やっぱり悲しいお別れよりも、
こうして楽しくお別れをする方が僕は好きだ。

だって二度と会えなくなるワケじゃないし、
旅先で苦しいことがあっても
また会うために困難を乗り越えなきゃって
気持ちになれるもん。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
施療院を出発した僕たちは
陸走船の停泊している港の待合所へやってきた。


思えばポートゲートから到着したのも
ここだったなぁ。
なんだかすごく昔だったように感じる。

それだけこのサンドパークは思い出深い場所に
なったってことなんだろうなぁ。
 
 

トーヤ

さて、ダンリへ行くには
まずノースエンドまで
陸走船に乗るんですよね?

ライカ

はい、その通りです。
ポートゲートとは
反対の方向になりますね。
2週間くらいかかると思います。

セーラ

もし間違えて乗ったら
大変ですねぇ~。

トーヤ

係員さんが乗船券を見た時に
気付いてくれますよ。

カレン

分からないわよぉ?
ミスは誰にでもあるんだから。

――その心配はありません。
私がご案内いたしますので。

 
 
僕たちの後ろの方から誰かの声がした。


振り向いてみると、
そこにいたのはなんとクロードさんだった。

そしてニコニコしながら歩み寄ってくる。
 
 

トーヤ

クロードさん!

カレン

マイルさんと一緒に
ポートゲートへ戻ったんじゃ
なかったんですか?

クロード

いえいえ、私はマイルから
別の仕事を任されまして。

トーヤ

そうなんですか……。

クロード

はい、トーヤ様たちに同行して
旅をお助けしろとのことです。

カレン

はぁっ!?

セーラ

そうでしたかぁ。
私は大歓迎ですよぉ。

クロード

トーヤ様、よろしいですよね?

トーヤ

もちろんですよ!
こちらこそ
よろしくお願いしますっ!

 
 
まさかライカさんに続いて
クロードさんも一緒に来てくれるなんて!
すごく心強いよっ!!

それに男子が僕ひとりで、
ちょっと寂しかったんだよね。
 
 

ライカ

クロードさん。
新入り同士、がんばりましょうね。

クロード

はいっ!

カレン

うぅぅぅぅぅ……。

トーヤ

カレン?

カレン

し、仕方ないわね。
今さらダメだなんて言って
追い返すわけにもいかないし。

クロード

ありがとうございます、
カレン様っ♪

 
 
こうしてクロードさんも加わり、
僕たちはノースエンド行きの陸走船に乗った。

ますます旅が賑やかで
楽しくなりそうな予感がするっ!!
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第71幕 さようなら、サンドパーク!

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