もしポイズンニードルの動きを
止めたとしても、
逃げ切れる保証はない。
背中を向けている時にトゲで攻撃されたら
全てを避けたり防いだりするのは難しいし。
――それに今、ここで倒しておかないと
いずれほかの誰かが傷付くことになる。
もしポイズンニードルの動きを
止めたとしても、
逃げ切れる保証はない。
背中を向けている時にトゲで攻撃されたら
全てを避けたり防いだりするのは難しいし。
――それに今、ここで倒しておかないと
いずれほかの誰かが傷付くことになる。
……っ!
僕はポケットの中に『奥の手』を忍ばせると、
意を決して一歩を踏み出した。
そしてお腹に力を入れて
恐怖と不安に耐えつつ、
腰に差していた護身用ナイフを
両手でしっかりと握りしめる。
見据える視線の先にいるのは、
未だ激しく暴れ回るポイズンニードル……。
――バインド!
ライカさんが魔法を行使すると、
ポイズンニードルの動きが止まった。
その隙を見てカレンたちは武器を収め、
こちらに向かって走ってくる。
一方、魔法を連続使用してきたせいで、
ライカさんは疲労が蓄積しているみたい。
表情は曇り、歯を食いしばっている。
この感じだとバインドの効果は
さっきよりも持続しないかもしれないな……。
急がないと!
僕はポイズンニードルへ向かって走り出した。
握りしめたナイフには自然と力が入り、
手の汗がじんわりと滲む。
ちょっ!? トーヤっ!
トーヤ様っ!
何をするつもりなんですかぁ~?
程なくすれ違ったカレンたちは
一様に目を丸くしていた。
でも今は振り返っている余裕なんてない。
ポイズンニードルを目指して
ひたすら走るだけ。
力のない僕はこの加速の勢いを利用しないと
きっとヤツの胴体に穴を開けられないから。
――その一瞬に全身全霊の一撃をッ!
うぁあああぁーっ!
目の前に少しずつ迫るポイズンニードル。
いつバインドの効果が切れて動き出しても
おかしくない。
そうなったら僕がどうなるかも分からない。
――でもっ!
やってみないと分からないっ!
最初から諦めたりするもんか~っ!!
僕のナイフは
ポイズンニードルの体に深々と突き刺さった。
でもこの程度の攻撃で付いた傷なんて
ナイフを引き抜いてすぐに
修復を始めてしまうだろう。
このちっちゃな傷が僕の渾身の一撃――
直接的なダメージは皆無かもしれないけど、
それが相手を倒すきっかけに
なることもあるっ!
やぁああああぁっ!!!
僕はナイフを引き抜くと、
ポケットの中に入っていた『アレ』を
素速くその傷口から埋め込んだ。
傷口が塞がってしまったら
全ての苦労が水の泡。
でもなんとかうまくいったみたいだ。
やったぁっ!
僕は疲れ果て、
その場にへたり込んでしまった。
もう一歩も動けない。
そのまま仰向けに倒れて天を仰ぐ。
――あぁ、強い日差しが痛い。
全身から汗が吹き出してるし、
頭がクラクラする。
でも目的は達したから、どうなっても本望だ。
さて、うまくいったか失敗したかは、
もうすぐ分かるはず。
トーヤっ!
その時、カレンとセーラさんがやってきた。
僕の突進を見て
慌ててきびすを返して追いかけてきたみたい。
ちなみにクロードさんは
サンドモービルのところへ行って、
動かそうとしている。
何をしてるのよっ!
あんな攻撃で
倒せるわけないでしょ!
寝転んでいる場合じゃ
ないのですぅ!
早く逃げるのですぅ!
カレン、
ポイズンニードルの様子は
どうなってる?
あのねぇ、そんな悠長な――
あぁ~っ!
ちょっと待ってくださいぃ!
ポイズンニードルの様子、
おかしくありませんかぁ?
えっ?
ふふっ♪
僕は力を振り絞って上半身を起こし、
ポイズンニードルへ視線を向けた。
するとヤツは動きが鈍り、震え出している。
ギ……ギギ……ガ……
アアアア……。
程なくヤツは悲鳴のような声をあげ、
その場に倒れ込んでのたうち回った。
まるで体内から果てしなく湧き上がる激痛に
苦しんでいるかのようだ。
その原因が分かっているのか、
必死に僕の付けた傷の辺りを掻きむしっている。
でもすでにその傷は塞がってしまっている。
しかも掻いても掻いても、
その傷は瞬時に塞がってしまうから
意味がない。
やっ……た……。
トーヤくんの付けた傷が
ポイズンニードルを
苦しめているようですねぇ。
でもあれ以上の傷を、
私たちが攻撃した時には
付けていたのに……。
これには秘密が
ありそうですねぇ。
僕がその理由を話そうとしていると、
クロードさんがサンドモービルを運転して
僕たちのいる場所へやってきた。
座席にはライカさんも座っている。
トーヤ様、これは一体?
ポイズンニードルが
苦しんでいるようですけど?
トーヤ、何をしたの?
傷口から『滴りの石』を
埋め込んだんだよ。
えぇ~っ?
ヤツは植物型のモンスターでしょ?
しかもこの砂漠に生息している。
その通りです。
植物に水は欠かせないけど、
水生植物とかを除けば
過剰な水は逆に障害になる。
でも砂漠に生息しているヤツが
水に強いタイプとは思えない。
むしろこれだけ過酷な環境なら
限りなく水を求めてしまうはずだ。
水への欲求は本能に
すり込まれているでしょうね。
そっか、分かった!
そういうことなのねっ?
うん、滴りの石は水を求めて
魔法力を注入すると
水を限りなく呼び出せる。
きっとヤツは自らの魔法力を
枯渇させるまで水を呼び出して
体に吸収しようとしてしまうんだ。
もしヤツの魔法力が尽きたら
魔法力の回復薬を放り投げて
自壊まで追い込むつもり
だったんだけどね。
チラリと僕はポイズンニードルを見た。
するとみんなもそれにつられて
ヤツの方へ顔を向ける。
ギ……ギ……。
ポイズンニードルの体は崩壊を始めていた。
トゲは全て抜け落ち、
体の先端は変色して枯れたようになっている。
砂漠の熱風がさらなるダメージを与え、
徐々に肉体はその砂埃の中に溶け始めている。
体の全てが砂になるのは時間の問題だろう。
みんな、心配をかけてゴメンね。
でもこのままヤツを放置して
逃げたくなかったんだ。
バカ……。
ホントに無茶なんだから。
今のトーヤは10点よ。
テハハ、厳しいね……。
では、サンドパークへ
帰りましょ~!
これでシンディ先生も
たくさんの魔力熱の患者さんたちも
治療することができますっ!
こうして僕たちは
サンドパークへ帰途についた。
もちろん、滴りの石を回収してからだけどね。
薬も無事に作ることができたし、
シンディさんやミーシャさんたちを助けられる。
――それにしても、
今回は気になることがたくさんあった。
今までの道のりでも
色々なことが起きていたし、
なんだか嫌な予感がするなぁ。
次回へ続く!