連絡がつきません。

聡士

静香
おは……。

聡士

どうしたの?

私の顔を見て、聡士はそう聞いてきた。

静香

あ゛?

聡士

すごい顔してるよ?

静香

オリハルコンって、
何?

聡士

あれ?経次郎、
ゲームの世界に行っちゃった?

聡士はオリハルコンですぐにそっちにつなげた。

静香

ゲーム?

聡士

剣とか防具とか作る材料だろ?

静香

勇者の剣とか賢者の石とか?

聡士

うん、それ。よく知ってるね。
静香、ゲームしないだろ?

静香

昨日、あいつがそう言ってたのよ。

聡士

経次郎が?

静香

他に誰がいるのよ。

聡士

ていうか、どういうことになったの?なんでゲームの話なんかしてるわけ?

私は大きく息を吸った。
ちょっと冷静にならなきゃ。

静香

おかげさまで、経次郎とは付き合うことになったわ。

聡士

よかったね。

静香

……。

聡士

それなのに、どうしてそんな顔になってるわけ?

静香

家まで送ってくれて、そしたらママと友達だったことがわかったの。

聡士

人懐っこいからね。

静香

ママは経次郎の誕生日になったら籍を入れろって言うし……。

聡士

積極的なお母さんだね。

静香

でも、パパは大反対。
あいつは追い返されて……。

静香

部屋に忍び込んできたのは黙ってよう……。

静香

夜中に電話でお父さんを追いかけてオリハルコンを探しに行くって言ってきたの。

聡士

リアルの話?
バーチャルじゃなくて?

静香

ヘリの音
してたわ。

聡士

お父さんがトレジャーハンターだって聞いてはいたけど、ホントなんだ。

聡士

すごいな~、ヘリか。
いいな、乗りたいな~。

静香

冗談じゃないわよ。

静香

一週間前に初めて言葉を交わして、昨日付き合うことになって、今日になったら置いてかれるって、どういうこと?

静香

あいつは自分が前世でなにやらかしたか覚えとらんのか?

聡士

いや、普通は憶えてないし……。

静香

覚えてなくても
歴史で習ったでしょ。

聡士

歴史、真面目に受けてないし……。

静香

学生なんだから、
きちっと勉強しなさい。

聡士

え……、ああ、うん。
そうするよ……。

聡士

戦国時代ならわかるけど、
鎌倉時代はちょっと……。

静香

鎌倉時代はあのくそったれな頼朝が幕府を開いた後で、義経が生きてたのは平安末期よ……。

聡士

頼朝のこと「くそったれ」なんて言ったら、経次郎、機嫌が悪くなるよ……。

静香

あ゛?

静香

くそったれをくそったれって言って、何が悪いの?

聡士

ごめん……、
ボクが悪かったです……。

柚葉

聡士先輩は私の彼氏なんですから、いじめないでください。

いきなり聡士の彼女が現れた。

聡士

柚葉……。

聡士がほっとしたような顔をした。

静香

この女、いつもどこから
わいてくるのよ。

柚葉

聡士先輩は、勉強をしていないわけじゃありませんよ。

柚葉

義経と静が吉野で別れた話は、
教科書に載ってません。

静香

そうだっけ?

柚葉

日本史なんて、年号覚えるだけですからね。義経はわりと載ってる方ですけど数行程度で、

柚葉

静御前のことなんて載ってないですよ。

ケンカ売ってるの?

静香

そんなのどうでもいいって
思ってたけど……。

静香

なんだろう。
超むかつくのは……。

柚葉

義経と静は、再会を誓って吉野山で別れて、そのまま会えなかったんですよね。

静香

だから何?

柚葉

静香先輩は、このまま経次郎先輩に置いて行かれるかもって思ってるんじゃないんですか?

静香

別に……
私はそんなこと……。

静香

…………。

絶対に泣かない。
涙なんて、流さないんだから。

静香

あいつの「またね」
は不吉なのよ。

柚葉

大丈夫ですよ。静香先輩。
経次郎先輩は、絶対に帰ってきますよ。

静香

なんであんたにそんなことがわかるのよ。気休めなんて、言わないでよ。

柚葉

気休めなんかじゃありません。
この平和な日本で、経次郎先輩にどんな危険があるっていうんですか?

柚葉

経次郎先輩を殺そうとしている人もいません。

柚葉

経次郎先輩は、何の力も持っていない、ただの高校生なんですから。

静香

そうだけど……。

でも、あいつ、前世は源義経なのよ……。

聡士

柚葉の言う通りだよ。
経次郎は悪運強いから、大丈夫だよ。

聡士

あいつが静香のことを大事に想っていることは、ボクが一番よく知っているから。

聡士

静香を置いて、そのままいなくなるなんてことは、絶対にないよ。

静香

あいつは「絶対」を
平気で覆す奴よ。

聡士

……そうかも?

柚葉

チッ

聡士の彼女が舌打ちをした。

静香

……。

柚葉

いくら前世が源義経だったとしても、今は何の取り柄もない、ただの高校生なんですから、そんなすごいことできるわけないでしょ?

柚葉

帰ってくるから待ってりゃいいんですよ。

静香

……そうね。

そう言われればそうかもしれない……?

予鈴が鳴った。

柚葉

じゃあ、私は教室に行きますね。
くれっぐれもか弱い女を演じて、聡士先輩をたぶらかそうなんて思わないでくださいね。

静香

なんで私がそんなことしなきゃいけないのよ!

静香

聡士と付き合ってたのは、ただの勘違いなんだから、そんな意味のないことするわけないでしょ!

聡士

…………。

柚葉

ホントにそうですか?

静香

当たり前でしょ。

柚葉

それならいいです。

聡士の彼女は聡士の方を向いた。

柚葉

ごめんなさい。
聡士先輩。

聡士

なんで柚葉が謝るの?

柚葉

私、やっぱり心配で……。ご迷惑なのはわかってたんですけど、来ちゃいました……。

静香

そんな殊勝なこと
思っとったんか?

聡士

嫌な思いなんて、
してないよ。

柚葉

こんな子、
嫌ですよね……。

聡士

嫌なわけないだろ?
ボクを心配して来てくれたんだろ?

柚葉

いえ……
でも……

聡士

来てくれて、助かったよ。
ありがとう。

柚葉

聡士先輩……。

聡士

マジで
助かったし……。

静香

早く戻りなさい。
遅刻するわよ。

聡士

柚葉、
またね。

柚葉

はい

静香

……。

コイツ、女友達、いるのか?

聡士の彼女は教室に走って行った。
私と聡士は目の前にある教室に入る。

聡士

経次郎に連絡はしたの?

静香

電話したけど電源切れてた。
メールは返事なし。

聡士

それじゃ、アプリの経次郎のID教えるから、それで確認するといいよ。

静香

え?

聡士

既読がつけば、見てるってことだから、連絡すればいい。

静香

ありがと……。

付き合ってた時、こいつ、こんなにいいヤツだったか?

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