もちろん。
もちろん。
僕は知っている。
彼女が知っていることは、
すなわち僕も知っているのだ。
綾瀬に。
綾瀬咲月の身に、起きた出来事を。
そしてそれを知っているのは、
綾瀬自身と。
それから僕と、彼女の3人だけだろう。
だから僕は語らなくてはならない。
他のみんなに知ってもらうために。
綾瀬咲月という、一人の少女の存在を、
世界に刻むために。
だからこれは、
彼女がいかにして人々の記憶から
消えてしまったのかを知らしめる、
僕と彼女の
愚かな物語だ。
いつも1人で寂しくないの?
1人でもいいから信頼できる
友達を作りなさい。
友達の作り方が分からなくて、
それでも1人にならないように
上辺だけは笑顔で飾って。
偽物の関係を装ってきた僕が
言われ続けた言葉だ
お前はいつも独りだった
あの電話の声が。
言葉が。
僕の記憶を呼び起こした。
だから、そうだね
語るとするなら、
やはりあの夜からだろう。
そしてさ、ある日。本当に何気なくある日。
彼は気付いてしまうんだ。
悟ってしまったんだ
その続きも、僕には容易に想像できた。
想像できてしまった。
そんなこと、僕は決してやらないけれど。
綾瀬はやはり、そう言った。
その女の子は彼の、独りぼっちだった男の子の幻想だったってね
独りぼっちと言い続けたクラスメイトにも、彼女は見えていなかった。
そして高校生になった彼に友達ができたことで。彼は独りぼっちではなくなったのだ。
だから、心の底で。
たとえ無意識であったとしても。
彼は思ってしまったんだろう。
女の子がいなくても僕は独りじゃない、ってさ
たとえそれが女の子を拒絶するものではなかったとしても。
独りぼっちの男のから生まれた彼女にとって、その思いは存在理由を否定されたも同然だったのだ。
だからさみーくん。それは私も同じなんだよ
綾瀬の声は透き通っていた。
そのまま僕の耳をすり抜けていくかのように。
私は女の子と同じ、幻想なんだ
僕が綾瀬と出会ったのは、青葉がいなくなってからだった。
そして僕には、藤峰という友達と、白石という友達候補ができて……
だからみーくんは何も気にすることはない
呟いた声の先に、まるで綾瀬はいないかのように感じられた。
ついでに私の窃盗罪も、できれば気にせず見逃してほしいものだ
そうして最後に綾瀬は一言。
ではまたな、
みーくんっ!!
そう叫んだ。
気付けば電話は切れていた。
……
自然と僕の視線が机の上に置かれたカバンに向いていた。
だめだよ綾瀬、その罪だけは、許すことなんてできないよ
中から覗く紫色の花は、心なしか1本だけ少なく見えた。
これがあの日の出来事だ。
自ら消えた少女と、
それに気付かなかった僕の。
愚かな物語だ。
本当に愚かですね都大樹さん
あなたはもう1つ、大切なことを忘れていますよ?
私が知っているのだから、あの時あなたも気付いたはずなのに
このままではいずれあなたも消えてしまうかもしれません
だから、早く思い出してください。
世界の理から外れた存在と
……その矛盾に
こんにちは。ご覧いただきありがとうございます。
お久ぶりです。
大阪旅行からも帰ってきて、いよいよ明日から大学再開です。
今日は母の日ですね。
皆さんは何かお母さんに贈り物などしましたか?
1年に1回のこの日に、普段恥ずかしくて言えない思いを、お母さんに届けてみるのもいいですよね。
それでは、今回はこの辺りで失礼します。