かくもしかじか、彼らは西の獣人の国の屋根に寝そべり空を見上げていた。

変なふよふよ丸は、ミツナリに連れ去られており、ここにはいない。


こんな月が美しい日にこそ、吼えたくなる…などとユキムラは思う。

ノーラ

いや、あんた猫だから。

ユキムラ

あ、うん?そうだった。

ユキムラ

ところで、ノーラ。そういうお前はにゃーにゃー言わなくなったな。キャラ設定放棄か。

ノーラ

にゃー?

ユキムラ

白々しいわっ!!!




そういうアンタも、ちょっとゲシュジンコウ度がまだまだ低いわよ?なんてことを言うノーラをよそに月を眺めた。

ユキムラ

にゃーーー!

ノーラ

ちょ、うるさい!何時だと思ってんの!

ノーラ

ちょっと何…なんだか騒がしく……。








突如風が吹き、辺りの木の葉を揺らした。その騒ぎに何事かと辺りを見回せば、隣の屋根の上に音の正体は咆哮を上げて虎視眈々とこちらを見ている。


ユキムラ

あ、お隣さんですか?今日からこちらの屋根でお世話になる……

ノーラ

バカ!魔物よ!!!!

ユキムラ

ええええええええ。


魔物の咆哮により、屋根の下が騒がしい。どうやら目を覚ました獣人が何人か、こちらを覗きに来たらしい。

ユキムラ

でかした、下に逃げよう!

ノーラ

私、引っ掻いてみる。

ユキムラ

え?

ノーラ

だって…ひっかくの威力、知りたくない?

ユキムラ

あ、いや止めた方がいいって。だってアレどう考えてもスライムとかじゃないもん、絶対やばいって。

ノーラ

ヘタレねー。じゃあ、先に逃げてなさいよ。

ユキムラ

ノーラ!!!



止めようとするも、彼女は既にお隣さんの屋根に移動しており、まったくこちらの話を聞く気がないようだった。

ノーラ

さ、記念すべき魔物討伐デビュー!


HP39

ノーラ /レベル3  /猫人

  攻撃  笑顔    ひっかく←
  防御  上目遣い  逃げる

ユキムラ

うわ、変なコマンド!!!

ノーラ

くらいなさい!!!

ノーラのひっかく!
謎の獣に11のダメージ!!

ユキムラ

あんま効いてねーよ!!

ノーラ

う……思った以上に火力がないわ。

ユキムラ

もういい、戻って来い!

謎の獣の攻撃!

ユキムラ

ノーラ!!早く!!

ノーラ

そ、そんなこと言われても…!

ユキムラ

ノーラ!!!!

ノーラ

間に合わないわよ…!!

く……っ。

ノーラへの攻撃を庇った!
謎の狼に381のダメージ!!

ノーラ

え…ちょっと…あなた誰?

ユキムラ

…………。

………鬼火。




それは幼馴染の危機に瞬く間のこと。


いつ現れたのか大きな獣がノーラを庇い、不思議な煙を纏った男が青い焔を繰り出していた。

その大火に謎の獣は身を焦がし、瞬く間に塵と化している。

なにが起きたのか、危機に停止していた脳は状況を理解させてはくれなかった。

ミツナリ

良かった……間に合いましたね。

ユキムラ

ミツナリ……?


状況を理解できずに呆けていると、いつの間にかミツナリが背後に立っていた。

ミツナリ

まったく!きみ達が挑むような魔物じゃないでしょう!!!

ユキムラ

え…あ…スミマセン。

ミツナリ

心配したんですからね…。何故、君のような人が…こういうときに限って逃げないんですか!

ミツナリ

もう……気が気じゃなく…。

ユキムラ

えっと…俺は逃げようと…。


むしろ戦う勇気なんて持っていないのだと伝えようにも、彼は聞く耳を持っていない。

目の前で泣き出すミツナリにあたふたしていると、背後で音がした。

ミツナリ、その辺に。

ミツナリ

長老様……。

振り返れば、ミツナリが長老様と呼ぶ人物がこちらの屋根まで来ていた。

ユキムラ

長老様…?

初めまして。ミツナリから話を聞いている。

ユキムラ

もっとヨボヨボのくそジジィかと思ってた。

それは君のところの王ではないか?

ユキムラ

げ、心読めんの?

一国を担う身であれば、大抵の者が読めるだろうさ。それよりも…怪我はないかい?

ユキムラ

大丈夫…だけど、さっきあっちの獣が……ノーラを庇った獣が攻撃を…

それならば心配はない。彼にはミツナリが向かってくれるだろう。

ミツナリ、頼めるね?

ミツナリ

は、はい…!!


長老様の命に、ミツナリは慌てて隣の屋根へ飛び移る。その動きは、よく屋根を移動出来たなと思うほどに慌ただしい。

さて、君は…彼女を庇った獣をよく見ておくといい。私はこれで失礼するよ。

ユキムラ

え?


意味を問う間もなく、そこにいたはずの人物は煙となってしまったかのように、その場には煙しか残っていない。

まるで、うつつの存在のかのようにすらユキムラには見えた。

ユキムラ

あー…あっちの獣を見とけ…だっけ?


自分は持たぬ不思議な力を持つ者は、この世に沢山存在している。

だからこそ気にしても仕方ないのだろうと、ユキムラは諦めて獣の方をみた。

ミツナリ

もう大丈夫だと思います。元の姿へ戻って大丈夫ですよ。

そうか。



どうやら丁度、治癒の方が終わったみたいでミツナリは獣の頭を撫でくり撫でくりしている。

ポチ丸

まったく一時はどうなるかと…。

ノーラ

ふ、ふよふよ丸!?

ユキムラ

ふよぽち丸!?


目の前にいたはずの立派な獣は大きな光を放ち、姿を消したかと思えば、そこには代わりにちんちくりんな浮遊する生物がいた。

ポチ丸

まったく…ちんちくりんとは失礼な。

ノーラ

え…ちょっとアンタどうしたのよ。

ミツナリ

それはですね…。

ミツナリ

実は彼、僕達と同じ獣人なんですが……どうやら人化の仕方を間違えていたみたいで…。

ミツナリ

進化ではなく、退化してたみたいですね。

ノーラ

…………………。

ユキムラ

どんな間抜けだよ。

ポチ丸

ガーン

ミツナリ

しかしそれにしても…まさかこんな真夜中に叫び、魔物を引き寄せてしまうバカが居るとは思いませんでした。

ミツナリ

君はダメ人間どころかカスなのでは?

ユキムラ

げ。

ノーラ

んー?ミツナリさーん?

ミツナリ

もう中に入れてやるから、さっさと寝やがれ!!!!!!!!

ノーラ

え……えぇぇぇぇ!!

ユキムラ

珍しく大人しいと思ってたのに…。

ユキムラ

長い付き合いだけど、こいつ本当にどこまでが天然で腹グロなのかわかんねぇ……。

ミツナリ

あ?

ユキムラ

あ、今入ります。

ノーラ

にゃ…はははは…

ポチ丸

…………。

pagetop