かくかくしかじか

ユキムラ、ノーラ、オマケ

3人は隣国を目指して川を渡っていた。









彼らが魔王の元を目指すわけでもなく
こうして隣国を目指す理由

それは他ならぬ
彼らに力がない故に目指していた。




実のところ
彼らが魔王討伐隊に選ばれたのは
絶滅危惧種である東の獣人だからだ。



そのため人数にも心元ない。


本来なら大人が出るとこだろうが
子供に知識を与える者がいなくなる

言うほどにまで危機的状態ゆえに
こうして、半人前の彼らが出された。


ユキムラ

しっかしまぁ…国王もケチ臭い。3人…2人と1匹だけってさぁ…。

ノーラ

ねー。

ポチ丸

もはや、国として成り立っているのかすら不明だな…。

ユキムラ

そうそう、国ってさ?それだけの民がいて成り立つんだろう?

ノーラ

まぁ、仕方ないんじゃないのー?元々はおっきな国だったんでしょ?

ユキムラ

そうそう、元々は。





今から数十年前のこと。
獣人は魔力が高く、獣へも人へも自由自在に化けれることから、使い勝手のいい存在として扱われてきた。


しかし、魔力が高くとも、ストレスを感じやすい種族だ。


多くのストレスを与えてしまうと、それだけで命を落とす場合も少なくはなかった。


いち早くこの事態に対処していた西の獣人の国は、この時期だけ他国との交流を一切断ったので、被害を負ったのは東だけだった。

ノーラ

まったく…いやね。動物だかなんだか知らないけれど、愛玩動物ーなんて奴隷にしてくる輩は。

ユキムラ

まぁ、今は人種差別なんてないじゃん。

ノーラ

そうだけど…今、東の獣人が絶滅寸前なんて言われてんの…その奴隷騒動があった所為でしょ?

ユキムラ

んーそうなのかなー。

ユキムラ

まぁ、もういいよ…ついたから。隣国の西の獣人達の国だ。





橋を渡り切ったその先は、とある国では拝むことすら出来ない、まるで異世界かと思わせる建物が建っていた。


足場には小石が散りばめてあり、とある国よりもずっと穏やかな風貌だ。

ノーラ

ふーん…ここが?そうなの?

ユキムラ

ノーラは国から出ること自体…初めてだっけ?

ノーラ

そう。ユキムラと違って、やんちゃはしないタイプだったから。

ユキムラ

やんちゃってなぁ…。確かに、大人の目を盗んで散々散歩はしたけどさぁ…。


ユキムラは幼いころより、外への興味が強かった。

初めて大人の目を盗んで走った先がこの、天照大神の国…西の獣人たちが住まう国だった。

ミツナリ

おや…珍しい。とある国より、お客人ですか…?

ノーラがあっちもこっちもと、物珍しそうに四方八方と首を動かす中、建物からひょっこりと顔を出す青年がいた。

ユキムラ

あーミツナリ~やっほー。

ノーラ

……なに、知り合い?すごい変わった格好。

ユキムラ

あはは、国によって違うんだよ。こいつらからしたら、俺たちの方が物珍しいと思うよ?

ユキムラ

さて、ミツナリ。俺は何しに来たでしょーか?

ミツナリと呼ばれた青年は驚いたかのように目を丸くした。

ミツナリ

これまた唐突ですね。

ミツナリ

そうですね…どうやら伴侶さんもお連れみたいなので…。

ミツナリ

新婚旅行に隣国へ…ってとこですか?

そして、何を思ったのかこんなことを言い出すのだ。

ユキムラ

あー…いや、そもそも伴侶じゃないんだけど…?


ミツナリとは、出会いはじめもそうだった。

彼はどこかしら抜けており、そして悪気は一切なく、ただただ少し感性がずれている存在だった。

予想もしなかった一言に、面を食らってあんぐりとする。

ミツナリ

そ、そうでしたか。

ノーラ

伴侶ねぇ…?何をどう見たのかしら?

ユキムラ

まぁ、いいじゃん。

ノーラ

ふーん…?

ノーラは不満気味につぶやく。
そんなに俺の伴侶は嫌ですかそーですか。結構顔には自信あるんだけどなぁ…なんて心の中で毒づきもしたが、本来の目的を思い出してミツナリに声をかける。

ユキムラ

あのさ、もうお前んとこは…魔王討伐隊とやらは出てんの?

ミツナリ

あぁ…なるほど。

ミツナリ

それでしたら、現在…会議が行われていますよ?3名ほどは即決だったのですが…残りの2名を決めあぐねているご様子です。



思わぬ返答が帰って来て、驚く。ここの国は、魔王討伐隊が出発するどころかメンバーさえも決まっていないというのだ。

ノーラ

え、ちょっと何ちんたらしてるのよ。

ユキムラ

んー…忙しいの?



ユキムラ達が魔王討伐隊に選ばれたのは1週間ほど前のことだった。国王が、各国の王が集まる会議から帰還してから、たったの3日ほどでメンバーが決まった。

残りの4日は、旅立つ準備や別れを惜しんでといったところか。ユキムラ達は、自分たちの出立が遅いとすら感じていた。

ミツナリ

遅い…でしょうか?他国は、闘技を開いたり…魔物を多く狩り競わせたり…など、どうやらもっとお時間がかかるようですが。

ユキムラ

もうすぐ復活なのに!?

ノーラ

…………呑気なものね。

ユキムラ

あー…でも…それなら、他の隊に混ぜてもらえそう?

ミツナリ

混ぜてもらう…?

ユキムラの一言に、ミツナリは不可思議そうに首を傾げる。どうやら、ユキムラ達が魔王討伐隊ということは視野に入れていないらしい。

ユキムラ

あー…実は…俺達、魔王討伐隊メンバーにされたんだよ。そっちのふよふよした変な生き物も含めて。


ふよふよと、と例えた生物の方へ顎を向けながらものを言う。かく言うふよふよした存在は実に不満げである。

ポチ丸

………ポチ丸です。本名は忘れました。

ミツナリ

可愛い!なにこれ!?新時代のぬいぐるみかなんかですか!?

ミツナリ

あ、すみません。

ミツナリ

………えっと…。

ミツナリ

ユキムラ、君が魔王討伐隊メンバー…?

まるで想定もしなかった、というような目だ。

無理もない。この東と西の獣人の国の間は、比較的に安全で魔物も少ないが、ユキムラはここへ遊びに来る際に戦えたことがないのだ。

ユキムラが魔物に追われては、ミツナリが助け…といった感じなのである。

ユキムラ

うん。ノーラも含めて…魔物すら倒したことがないようなメンバーが…選ばれたわけ。

ミツナリ

………そうですか…お気の毒に。

ミツナリは、同情の色が深い目で言葉を口にする。

ユキムラ

いやいやいや、だからさ…このままじゃ魔王の元まで行けなさそうだし…そっちの隊に混ぜてもらえないかなー?って。

ミツナリ

そういう意味だったのですか。

ミツナリ

しかし僕の一存で決めるワケには…。

ノーラ

もし、同行させてくれるなら…そこのふよふよあげてもいいのよ?どうせ目的は同じなんだし…ね?いいでしょ。

ポチ丸

!?

ミツナリ

わかりました!いいですよ!

ミツナリは余程嬉しいのか、尻尾をパタつかせてふよふよ丸へ抱き付く。先ほどの、僕の一存で…とはどこへ行ったのやら見る影はない。

ユキムラ

えーと…じゃあ…残りのメンバーが決まるまでは、ここに居候してもいいのかな?

ミツナリ

いえいえ、もちろん野宿ですよ!

ユキムラ

えぇ!?

ノーラ

ちょ…野宿!?いやよ!

ミツナリ

仕方ないですねぇ…。では屋根の上なら特別に許しましょう。

本来は、他国のお客を泊めるのは長老様の許可が必要で、その許可をお頼みするのはすごく大変なのですが…などとぼやいているミツナリを背に、ユキムラは満足げに微笑んだ。

ユキムラ

よし、これで…あとは…適当についてって適当に魔王を倒してもらって、適当に帰って来て英雄ニートになるだけだ。


















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