亀の恩返し

27.
太郎が地上に戻ることを願う。

























では……太郎さんが無事、浜に戻ることを

は? なにそれ?
普通は自分のことを願うもんでしょ?

いえ、いいんです


乙姫様に切られた傷は深い。

この傷を癒してもらったところで
のろいカメの身では
浜に着く前に追手に捕まってしまう。



人間になることを望めば
怪我はそのまま。

この怪我ではやはり
追手に追いつかれてしまう。



太郎さんを改心させたとして
ここは海の底。

人間の身では
浜まで泳ぐことは不可能だし
私もこの身体では助けられない。








だったら。

無理にでも太郎さんを地上へ。

乙姫様の手の届かない場所へ
送ってしまうしかない。










太郎さんは
望んでいないかもしれない。


でも、長い目で見れば
海の底で怠惰な生活をするより
戻ってよかったと思う日が来る。




……そうあってほしいと、願う。



それでいいのね

はい

……

……

……わかったわ
その願い、叶えましょう


魔女は小瓶の蓋を開けた。
虹色に光り輝いていた中身が
ふわり、ふわり、と流れ出ていく。



ふわり、ふわり、と
太郎さんのいる竜宮城へ



……

私はその光がだんだん遠くなって
そして消えるのをじっと見ていた。











そして、
遠く、竜宮城のほうから
1本の光が
きーん、と海面へのぼっていくのを見た。








……行ったわね

ええ


竜宮城から追い出した私を
太郎さんは恨むだろうか。




いや。太郎さんには
それが私のせいだとはわからない。


私は最後まで
太郎さんの記憶には残らない。





太郎さんは
美しい乙姫様と美味しい料理と
夢のようなもてなしだけを胸に
この先、
生きていくのだろう。



……

……魔女さん

なによ

……

……ありがとう


























薄れていく意識の中、
魔女が

馬鹿ね、あんた

最後くらい自分のことを望みなさいよ……


と、言うのが聞こえた――。
















- おわり -

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27.戻ることを願う。

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