亀の恩返し
25.太郎の幸せを願う。
薄れていく意識の中で
はた、と思う。
私は太郎さんは浜に戻ったほうが
幸せだと思っていたが
本当はどちらが
太郎さんのためになるのだろう。
地上の人だから
地上に戻ったほうが幸せというのは
私の独りよがりな
考えではないのだろうか。
……
だったら、
こんな太郎さんの将来を
決めてしまいそうな重大なことを
カメの一存で決めてはいけない。
私は小瓶の蓋を開けた。
太郎さんが本当に幸せになれますように
子供の頃に思い描いていた未来
途中で諦めた未来
今は漁師をしている太郎さんだけど
さらにピンポイントでは
海の底で飲んだくれている太郎さんだけど
そんな一時の幸せではない幸福を
太郎さんに
助けてくれてありがとう、太郎さん
薬はゆらゆらと水中に流れ出していく。
きらきらと虹色に光りながら
海に混ざっていく。
私の願いと一緒に……
ああ! あの船は!!
わあああああああ!!
それから数年後、
海をある1人の大海賊が
制しようとしていた。
あれは!
例の海賊船!!
逃げろ! この距離ならまだ逃げられる!!
舵が、舵が動かない!!
魚だ! やつらが舵をきかなくしているのか!?
わあああああああ!!
それは『タートル海賊団』。
亀の甲羅と髑髏が旗印の海賊だ。
その船上では、
やりやしたぜ! 船長!
これで海賊王っすね!
乗組員たちが歓声を上げていた。
彼らを率いる船長はまだ若い。
海賊王として彼が海を制すれば
無駄な覇権争いも減って
静かな海になるだろう。なんて
噂まで流れるほどだ。
ああ、子供の頃の夢が今になって叶うとはなぁ
前船長が拾い上げたあんたが、今じゃ立派な海賊王だもんな。
天賦の才能ってやつだ!
褒めたって酒の量は変わんねぇよ
その船長こそ太郎だった。
しっかし俺が海賊とは夢みたいな話だな
「海賊王になる」などと言う
子供時代の戯言が、まさか真実になるとは
当の本人でさえ信じていなかった。
思えば、喋るカメを助けた時からずっと……
あれから会ってねぇけど、カメ、元気かな
太郎は知らない。
竜宮城から出られたこと、
波間に漂っているところを
海賊に拾われたこと、
その跡を継いで
海賊船の船長になったこと、
今まさに
七つの海を制しようとしていること、
こんな夢のような偶然の連続が
あのカメのおかげだと言うことを……
船長!
酒なくなるぜ!
おう、今行く
いっつも助けてくれてありがとな
何故、魚が
自分を助けてくれるのかと言うことも。
- おわり -
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